九話 修行
瞼がゆっくりと開く。
「起きるか」
そう言って立ち上がろうとした時、横に何かが寝ていることに気づいた。
「あ?」
なんでこの子、ここで一緒に寝てるんだ?
「おい、何をしているんだ?」
少女をさすりながら声をかける。少しぐちゃぐちゃになった白い髪の少女が、ゆっくりと起き上がった。
「ねてる、いっしょに」
「寝てる……じゃないだろ、まったく」
あの老婆に預けたはずなのだがな。
「とりあえず起きるぞ」
「うん」
少女が大きく頷く。あれ? というか、この子こんなに喋ったっけか。まぁいいか。
「いらい、いくの?」
依頼? あぁ、昨日言った「才能がなければやらせない」っていうやつか。
「今日はまだ行かない。身体強化なども教えずに、向かわせるわけにはいかないからな」
「しんたいきょうか?」
「まぁ、そこら辺は後で教える。今から行くところは鍛冶屋だ」
「かじや?」
「そうだ。武器がなければ戦えないからな。パッと見て『これだ』っていう奴でいいぞ」
少女の目が輝く。
「ぶき」
やたら興奮しているな。冒険者に憧れているのか?
「とりあえず着替えろ」
「わかった」
……なんでここで脱ぎ始めようとしているんだ。
「あっちで着替えろ」
「うん」
はぁ、さて。着替え終わったので先に下に降りるか。
部屋のドアを開け、階段を下っていく。カウンターの老婆と目が合った。
「おい、ばあさん。俺の部屋にあの子が来たぞ。どういうことだ?」
「あの子が勝手に動いたんだよ。というかいつまで『あの子』と言っているんだい? そろそろ名前をつけてあげな」
「名前か。うーむ……」
いつの間にか下に降りてきた少女と目が合った。
「『ルナリア』ってのはどうだ?」
少し悩んだ末に言ってみた。
「るなりあ」
ボソッと呟いたのが聞こえた。
「他のがいいか?」
首を横に振る。
「なら今日から君はルナリアだ」
嬉しそうな顔をして頷くルナリア。気に入ってもらえたようで何よりだな。
「さて、行くか」
「どこにだい?」
老婆が不思議そうな顔をして聞いてくる。そういえばこの老婆には説明していなかったな。
「近くの平原に行く予定だ。そこで身体強化などの基本知識を教える」
「そうかい」
鼻を鳴らしながら、老婆が言う。
「なら、行ってくる」
少女の手を取り、外に出た。
「さっき言った通りに、武器を買いに行くぞ」
「わかった」
あまり感情のこもっていない小さな声でそう答えた。
ロバーツの言った鍛冶屋は、大通りにはなく少し離れた場所にある。歩くのが面倒だが、協会長のお墨付きなら問題はないだろう。
しばらく歩き続けた後、小さな鍛冶屋が見えてきた。
「『ログの鍛冶屋』……あれか。意外と小さな鍛冶屋だな」
扉の前に立ち、中へ入る。
「いらっしゃい。何の用だ?」
「武器の点検と、購入をしたい」
ドワーフの店主が眉間に皺を寄せる。
「購入か。誰が持つ?」
「この子だ」
ドワーフが顔を顰めながら少女を見た。
「小さいな。その子に合った武器ならショートソードとかだろう」
「いや。好きなものを選ばせる。それに、もう自分好みの武器を見つけているみたいだしな」
ルナリアが、じっと見つめている先を見た。え? まじで言ってんのか?
「ルナリア、もしかしてあれを気に入ったのか?」
ルナリアがじっと見つめる先には、バカでかい斧があった。
「ルナリア? あれ、君と同じくらいのサイズだけど?」
「あれがいい」
すごいウキウキした目で見つめてくる。
「ドワーフ。あれ、扱えると思うか?」
「『無理』とは断定せんよ」
なるほどな。まぁ案はなくもないが、才能があるかどうかだな。
「わかった。あれをくれ」
「いいのか?」
「大丈夫だ」
「なら金貨二枚だ」
マジかよ。鉄製の武器でそれか。
「高くないか?」
「あれは作るのが難しい代物なのだ」
「オーダーメイドはできるのか? 鉄製の武器だと限界があるからな」
「可能だぞ。さらに高くはなるがな」
「そうか。ほら、金貨二枚だ」
「まいど」
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平原に到着して、先ほど買った武器を渡す。
ドガァン!
「……もてない」
「当たり前だろ。身体強化もせずにもてたら、バケモンだ」
まずは座学からだな。
「じゃあ説明するぞ。まず魔力についてだ。魔力はこの空気中の至る所にある。人はその魔力を利用して、魔術を使っているんだ」
ルナリアが大きく手を挙げた。
「……つまり、周りの魔力を使って、魔術を使うの?」
「いや、周囲の魔力を使うのではない。自らの心臓に溜めてある魔力を使用するんだ」
ルナリアは首をかしげながら問い返す。
「なんで?」
「周りの魔力は直接は操れない。それがこの世界の『理』だからな」
「ことわり……?」
「あぁ、それは後で解説する。とりあえずは身体強化についてだ。心臓から魔力を全身に流すような感覚でやるのが、一般的な身体強化だ」
俺はニヤリと大きく笑った。
「今から教えるのは、俺のオリジナルだ。全身に流すのは変わらんが、流す速度を極限まで速くする。それにより体温を上げるんだ。たったこれだけのようだが、意外と難しい。まずは体に魔力を流すことに集中しろ」
「わかった」
わかった、と言ってもそうすぐにはできん。早くて一時間はかかるはずなのだが――。
「……できた」
「は?」
早すぎじゃないか?
「イメージ、かんたんだった」
簡単、だと? 大抵の奴はここで詰まるんだがな。
「……なら、それを全身に回し続けろ」
「もうできてる」
ハハッ。やばすぎだろ、こいつ。
「……それ、持てるか?」
巨大な斧を指差しながら聞いた。
「やってみる」
ルナリアは持ち手に手を掛け、ぐいっと持ち上げる。
「……できた」
よし、持てるのならばいける。
「ちなみに、それは振り回せるか?」
「うーん……ふれはするけど、おそい」
「だろうな。なら、また座学だ。次は『魔術』について教える」
「まじゅつ? まほうじゃなくて?」
「あぁ、そこから教えよう。まず『魔術』とは、自らに蓄えた魔力を使い、事象を起こすための『魔術式』を組むこと。それが魔術だ。それに対して『魔法』は、世界の理そのものを動かす」
「理そのもの……?」
「あぁ。例えば、何もないところから地面そのものを動かしたり、俺みたいに周りの魔力そのものを直接操ったりすることだな」
少女が「なるほど」という顔をして聞いた。
「わたし、魔術つかうの?」
「あぁ。ただ、簡単な魔術だ。『加速』という基礎魔術を教える」




