八話出会い2
落ち着け、別人だ。ふぅ……大丈夫、大丈夫だ。
「怪我はないか? 親はどうした?」
白髪の少女が、赤く虚ろな目でこちらを見上げてくる。
「大丈夫なら、もう行くぞ」
そう言って少女に背中を向けた瞬間、無言で俺の裾を掴んで止められた。
「どうしたんだ?」
何も言わない。ただ、虚ろだが悲しそうな瞳で見つめてくる。
「申し訳ないが、話してもらえると助かる」
だが、掴んだまま離さない。
「……つれていって」
突然口を開き、小さく弱い声でそう言った。
助けてあげたい気持ちも山々なんだが、連れて行って大丈夫なのか?
「うーん……」
この国の法律について詳しい奴がいれば……。あぁ、いたな、詳しそうな奴。
「一旦、ついてきてくれ」
少女が小さく頷いた。さてどうするかな。鍛冶屋に行きたいが、連れて行っても大丈夫かの確認が最優先だな。
「今から冒険者協会に行く。そこで君を連れて行っても問題ないかを確認する」
また小さく頷く。ふぅ、大丈夫だとは思うが、面倒ごとに巻き込まれるわけにはいかないからな。
そう思いながら歩き出した。
しばらく歩き、冒険者協会のドアを開ける。そして、受付嬢に向かって歩いた。
「ロバーツはいるか?」
「はい、いらっしゃいます」
「呼んでくれないか」
それを聞いた途端、受付嬢は裏の部屋に向かった。
しばらく待った後、受付嬢に声をかけられた。
「裏の部屋で協会長がお待ちです」
俺はその場で立ち上がり、少女を連れて裏に向かった。
「何の用だ?」
ドアを開けた瞬間、そんな声が聞こえた。
「あぁ、ちょっと聞きたいことがあってな」
ロバーツが不思議そうな顔をする。
「聞きたいこと?」
「あぁ。スラムでこの子を拾ったのだが、この子を連れていても大丈夫なのか?」
ロバーツの顔が不服そうに歪んだ。
「そんなことで俺を呼んだのか?」
「もちろん、これだけではないが、一旦な」
「親がいれば親からの許可が必要だ」
俺は少女の方を見て聞いた。
「親はいるか?」
首を小さく横に振る。それを見たロバーツが言った。
「なら、本人の合意があれば問題ない」
「なんだ、簡単だな」
ロバーツが呆れた顔をする。
「だから、そんなことで俺を呼ぶなって言ったんだ。というか、そんな心配をしてるなら、この場所に連れてくる時点でアウトだろう」
確かに。
「何も考えてなかったな。まぁいい。……それで、もう一つは?」
「腕のいい鍛冶屋を教えてくれ」
ロバーツが額に手を当てた。
「だから、そんなことなら受付嬢に聞け」
もっともだな。
「腕のいい鍛冶屋か。なら『ログの鍛冶屋』という店がおすすめだ。ドワーフが経営していて、オーダーメイドで珍しい武器も作ってくれるらしい」
へぇ、良さそうじゃないか。
「ログの鍛冶屋だな。覚えておく」
さて、まずはこの少女を風呂に入れなければな。一旦宿屋に帰るのがいいか。
「今から宿屋に行くからな」
また小さく頷く。大丈夫かな、この子。
来た道をしばらく戻り続け、木製のドアを開ける。カウンターに向かって喋りかけた。
「店主、いるか?」
カウンターの裏から老婆が出てきた。
「何の用だい」
「この子を風呂に入れてあげたい」
俺の後ろに隠れた少女を前に出しながらそう言った。
「うちに風呂なんてものはないよ」
予想はしていたが、本当にないとは。
「だが、桶に水を溜めて体を洗うことならできる」
「頼めるか?」
「任せな」
老婆が鼻を鳴らしながら言った。
「なら、一旦この子を預かるよ」
「すまない、頼んだ」
そう言って、老婆に少女を預けた。
しばらくして、奥から綺麗になった少女を連れた老婆が出てきた。
「綺麗になったよ。服はだいぶ前に客が忘れていった服をあげるよ」
意外と気が利く老婆だ。
「助かった」
老婆がこちらを見つめながら言う。
「この後はどうするんだい?」
確かにな。本当なら今日は宿屋から出ずにゆっくりしたほうが少女にもいいんだろうが。
「悪いが、俺には時間があまりないんだ。だから、この子を預かってくれないか?」
そう言った瞬間、少女が俺の裾を強く掴んだ。
「この子は嫌みたいだよ?」
「いや、そんなこと言ってもな。今から行くところもあまり子供にはよくないし、俺は冒険者だからずっと一緒にはいられないからな」
すると、老婆が言った。
「簡単なことじゃないかい。この子も冒険者にすればいい」
この老婆は、どこかで頭でも打っちまったのか?
「あんた、そんなんでもS級だろ? この子を鍛えてあげれば、子供でもA級まではいけるよ」
マジで頭が逝ってやがる。
「そんなの確証がないだろう」
そう言った瞬間、少女が口を開いた。
「……なりたい。ぼうけんしゃ」
小さく、弱々しい声で。
「この子もそう言っているじゃないかい」
うーむ……。
「わかった。今度、魔物の討伐依頼を受ける。それをやってみて才能がなかったら、冒険者はやめておけ」
少し辛辣かもしれないが、冒険者は才能の世界だからな。
「それでいいかい?」
少女はその言葉を聞いた後、大きく頷いた。




