3話 裁判
嘘だろ……なんでこんなことが起きてやがる。
なんでこんなに近くにいる。
それより皇子は無事なのか……いや、この状態だ。無事なわけがない。
あぁ、まずい。最悪だ。どうする……というか、龍はまだ生きてるのか。
「あぁ……最悪だ」
どう報告する? 生き残りが俺一人なんて、くそ……!
とりあえず帝都に行かなくては――いや、待て。皇子の亡骸はこのままでいいのか? 持ち帰るべきか?
通信用の宝珠は……いや、燃えかすだろうな。
馬も死んだ。なら走るしかない。
俺は魔力を全身に巡らせ、走り出した。
帝都のどこに報告する? ……いや、一旦冒険者協会だな。急げ。
どのくらい走ったかはわからない。
ただ、到着が馬より早かったのは確かだ。
「協会長いるか? 緊急だ、急げ!」
焦っているのが自分でもわかる。
「ヴェダ、どうしたんだ。そんなに焦って」
くそ……どう報告すればいい。わかりやすく、端的に。
「皇子の護衛依頼で龍種の直系に遭遇した。俺以外全滅。このことを城に伝えろ」
前のおっさんが目を見開く。
当然だ。皇子が死んだんだ。そして俺以外全滅。
……死刑かもな、俺は。
「わかった、城に伝える。だが……お前は大丈夫なのか」
だよな。俺もやばいと思ってる。
だが諦めるしかない。顔も割れてるし、逃げたらカイナがどうなるかわからない。
「そこの受付嬢、もし死刑か終身刑が決まったら、俺の貯金を全部カイナに渡せ」
さて……騎士どもが来るまで、ゆっくりしているか。
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あれから数分後くらいだろう。
騎士が俺を取り押さえに来た。
はぁ……これで終わりか。
「なぁ、騎士さんよ。俺は死刑か? それとも終身刑か? ……どっちでもいいか」
あぁ、くそ。まだ死にたくはないな。
まだカイナと一緒に暮らしたい。美味いものを食べて、一緒に遊びたい。
周りの視線が痛ぇな。
「おい、しっかり歩け」
厳しいな、この騎士は。
「へいへい」
後悔しても仕方がない。
だが、やっぱり苛立ちを覚える。
もし俺らが龍を無視したら、やられていたのはこいつらなのに。
まぁ……皇子が死んだ以上、俺を無罪にするわけにはいかない。
ここで俺を許したら、皇帝は“甘い”って思われるだろうしな。
どれだけ龍と戦おうが関係ねぇ……結局は終身刑ってところか。
まったく……辛いね。
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さて、小さな牢屋にぶち込まれたわけだが……
あいつら、俺を舐めてるのか?
この牢屋、なんの細工もしてない。逃げようと思えば簡単に逃げられる。
「カイナ、今頃どうしてんだろ。飯食ってるかな……いや、俺のこと、周りに聞いたのかもしれないな」
胸がざわつく。
落ち着け……考えることは山ほどある。
一旦整理しよう。
まず、皇子は死んだ。これは確定だろう。
だが気になるのは――なぜ馬車は戻ってきた?
ザレフにしっかり頼んだはずなのに。
わざと戻ってきた? ……いや、それはないと信じたい。
それなら、わざわざあんな戦力を集めない。
……結局、全員死んだが。
はぁ……わかんないことばっかりだ。
疲れた。もう寝よう。
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「おい起きろ」
あ? 朝からうるさいな。
「なんだよ、こんな朝に予定もないだろ」
昨日の疲れとか傷とか、あんまり癒えてないのに。
「裁判だ」
は?
「待て、今なんて言った。裁判? 早すぎないか?」
あまりにもおかしいだろ。
「皇帝陛下は今回のことを重く受け止めていらっしゃる。黙ってついてこい」
怪しすぎる……まぁいいか。もう腹を括ったことだ。
「はいはい」
騎士に連れてこられたのは、石造りのでかい謁見場みたいな場所。
「なんだ、意外と広いじゃないか」
目の前には皇帝ジゼル。
その横に上皇が座っている。
皇帝が声高らかに言う。
「これから、被告人ヴェダの裁判を始める」
さて、ここからは聞き流すだけだな。
皇帝の傍にいた歳をとったじいさんが一歩前に出る。
「被告人ヴェダは、皇太子殿下に最も近いのにもかかわらず、殿下の命を優先せずに龍討伐を行った」
へぇ……そんなふうになってんだな。
「帝国の宝である皇太子殿下を優先して守らず、殺害してしまったことは、帝国法第2条一項に基づき、死刑とする」
はぁ……まぁそうだよな。
でも、やっぱり少し悔しいな。
「だが!」
勢いよく俺の顔が上がる。
「被告人ヴェダは帝国最強のS級冒険者。仮に死刑にしてしまった場合、帝国の損失は計り知れない。よって、ヴェダの死刑は血族であるカイナに移行する」
は?
ちょっと待て。
おかしいだろ。
やめろ、それだけは。
「待ってくれ! それだけは、それだけはどうかやめてくれ!」
頼む……唯一の家族を奪わないでくれ。
「勝手に喋るな」
皇帝が立ち上がって俺に言う。
「決定事項である。良いではないか。代わりに妹が命を落としてくれるのだぞ」
体から力が抜ける。
立ち上がる力すら出ない。
俺は絶望の中、倒れ込んだ。
楽しんでください




