抱えられるもの、抱えられないこと 8
どれくらいの時間が経ったのか。
長かったのか、意外と短かったのか。よくわかんない感覚の中、ただ天井を仰ぎ見ているシファルくんを見ていたあたし。
「……ちっちゃな…ちっちゃなプライドっていうのかな。兄貴として、情けないとこばっか見せたくないってのがあるんだ。それが…俺とアイツの間に壁を作っちゃったとこがあってね。…っていっても、壁作ったのは俺の方から一方的にって感じなんだろうけど」
それは過去にお兄ちゃんからも、柊也兄ちゃんからも聞いたことがある話だ。
「お兄ちゃんって人たちっていうかさ、年齢かなにかが下の人に対してそういうのを抱きやすいのかな? 前にうちのお兄ちゃんたちからも言われたことあるよ。そういうの」
ここでその話を出したのは、さっきシファルくんがお兄ちゃんに話を聞きたかったって言ってたのを思い出したから。
「え」
「本当に聞いたことあるよ」
「――タイミングよすぎな話の展開で、ちょっと笑えるんだけど」
「…なんで笑えるのか分かんないけど、本当にそう遠くない前に言われたことあるもん。兄としてのプライドがあるから、カッコつけさせろって」
「え、どういう状況でそういう話題が出たの?」
シファルくんが話の流れが流れだからか、ちゃんと話を聞こうとしているのか、体ごとコッチへと向いてきて。
「聞きたい?」
彼が抱えていることに向き合おうとしている手助けができるかもしれないと思うのが嬉しいのと、素直に話を聞こうとしてくれているのが嬉しく。
「聞かせてよ」
話を促す彼へと、笑顔を浮かべて過去を思い出しながら言葉を続けた。
「コッチの世界じゃ学校っていうのがなさそうなんだけど、あたしがいた世界じゃみんなが通ってまとまって勉強をする場所があって。それを学校っていうの」
「うん」
「それでね、ある程度の期間通ったら長いお休みの期間があるの。夏休みとか冬休みとか」
「…へえ」
「それでね、その休み期間の中でも勉強をおろそかにしないとか復習をするためとかで、課題っていうのが出されて。苦手な勉強のを後回しにしていたら、お兄ちゃんが様子を見に来てくれたの」
「それで?」
「うん。…それで、やってくれるのかな? とか、助けてくれるのかな? なんて甘えたこと考えていたら、そんなわけなくって。自分でやれって笑いながら、応援だけしてたの」
「…てっきり話の展開上、ひなに甘いお兄ちゃんがやったって流れかと思った」
「あはは。そうだったらって思ったけど、お兄ちゃんが言ってることは間違いじゃないしね」
「まあ、うん。俺でもそういうかも。相手のためにならないな、って」
「ふふ。やっぱりそうなんだね。…で、お兄ちゃんのケチとか、課題やらないで白紙で出しちゃうもんとか。グチグチ言いながら、チラチラ様子を見つつやってたんだけど」
「だけど? どうしたのさ」
と、ここまで話をしてて、その時のお兄ちゃんのことを思い出して笑ってしまう。
「ふふふっ。あはははっ」
って、思ったよりも思いきり。
「え? なに? どうしたの、ひな」
急に笑い出すあたしに、驚くシファルくん。
「あー…ごめんね? 急に笑い出しちゃって。その時のお兄ちゃんのこと思いだしたら、お兄ちゃんには悪いけどおかしくておかしくて」
「????」
想像もつかないんだろうな、お兄ちゃんがどんな人なのかを知らない上に似たような展開になったことがないのかもだし。シファルくんとカルナークで、その展開になる流れが想像出来ないや。
「んふふ。あのね? 課題の一つに、自由研究っていうのがあって。それで小さなビーズ…コッチでいうと宝石の欠片くらいに小さい玉状のもので、アクセサリーを作ろうとしてたんだ。あたし」
「ん? それが研究なのか?」
「あー…シファルくんが思うような研究とはちょっと違うから。幼い子どもが自力で何かを作ったり、仕組みを考えたり、新しい知識やこれまで知っていたことを深く知ったりしましたっていうのを発表したりするの」
「…? コッチの研究にも近いじゃないか」
「え、っと。今はその話は別にして聞いてくれる?」
「あ、ごめん」
つい脱線しそうになる。シファルくんが言う研究は、大人がやるようなガチの方だもん。それについては、あとで話をすることにしてっと。
「それでね、うちのお兄ちゃんって……アレクみたいに全体的に大きい人なんだけど」
と、そこまで言うと「あ」と言ってから口を手のひらで隠すようにして顔を背けて肩先を震わせた。
「クックックッ…。話の展開が読めた気がする。…ふふっ」
シファルくんがそう言ったので、答え合わせの気持ちでゆっくりと話を続けた。
「一緒にやろうとしてくれてたらしくて、その作業を。大きな手で、太い指で、小さな小さなビーズを摘まんで、テグスっていう透明で細い糸を使ってつなげようとしててさ」
予想が当たってたらしく、さらに声を殺して肩をさっきよりも震わせて笑い続けているシファルくん。
「最初の方は上手く出来たみたいなんだけど、途中からすぐに集中が切れて上手く出来なくて。勉強は自分でやらなきゃ身に付かないから手を出さないけど、そっちのなら一緒にやったら気分が変わるんじゃないかって思ってくれたんだ。一緒にやるために、内緒で練習してたの」
「あのアレクみたいな感じで? 結構小さいんだろ? そのビーズっていうの」
「うん。細かい作業好きじゃないし、めんどくさそうって言ってたのにさ。で、やるんなら一緒に始めたっていいじゃないって思ったの。あたしは。お兄ちゃんのその練習を知った時にね」
あたしの思い出話をしながら、聞きながら、シファルくんの表情はさっきよりも明るくなっていく。
「――わかった、ひなが話したいこと」
口元にあてていた手をこぶしへと形を変え、笑い声はまだ押し殺すようなもののままで。
「すこしでもいいから、兄として…カッコつけたかった。妹の前で恥をかきたくなかったのもあったかもだけれど、何よりもまず……ひなにとってカッコイイ兄でありたかった。…違う?」
確信した表情で語ったシファルくんへ、一度だけ大きくうなずき笑顔を見せたあたし。




