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抱えられるもの、抱えられないこと 7



その声のトーンに一瞬ビクッとしはしたものの、なんだか腹が立ってすぐに言い返す。


「あたしはキレイって思った! だから素直にそう伝えた! ……シファルくんがなんでそう感じてるのかは知らないけど、あたしが感じたことまで否定しないでほしい」


そんなことないのに、キレイなのにって。


シファルくんはわかりやすく困ったように眉を下げて、「ごめん」と謝り。


「ひなの感想は否定しないけど、俺が思ってることも曲げないでいいよね? 俺は……どうしても俺の何もかもを良しとは思えないんだ」


と、続ける。


どこか悲し気に呟かれたそれに、目の前の彼の過去を暴いたところで傷が深くなってしまうかもしれない。と、開きかけた口を噤む。


興味本位で聞きたいわけじゃないけど、それでもなんとなくなんでかなっていう軽い思いつきで話してとは言い出せないや。


あたしが感じたものを否定しないでと言ったことを、シファルくんは受け入れてくれた。


なら、逆もまた然りっていうのだよね。きっと。


(本音としては、自分をそんな風に思わないでって言いたい。何度だって、わかってくれるまで)


表に出せない気持ちを隠し、ヘラリと笑うだけにした。


どういう笑顔なの? って聞かれても説明できる気がしないので、心の中で何も聞かないでと念じながら口角を上げていた。


どれくらいの時間かわかんないけど、互いに何かを言うでもなく笑顔を浮かべたままで見つめあってたあたしたち。


先に「ごめんね、って先に言わせて」と沈黙を破ったのは、シファルくん。


「え。なに? なに?」


急な謝罪に、戸惑う。


「あー…えっとね、カル関係で。その、さ。俺、兄貴だから……弟が何かしたとかしそうな時は…謝らない? そういう流れっていうか」


さらに、さっき知ったばかりの兄弟設定を話題にして、もう十分大人にみえるカルナークのことでシファルくんが謝るとか言うし。


「カルナークは、自分のことは自分でごめんなさいって言える年齢じゃ…」


見た目がアレなだけで、実は年齢詐称とか今更な情報とか? と不思議に思って聞き返すと。


「あー…言えるって知ってるけど、その…俺が、さ。ごめんって言いたいだけ。誤解させるような言い方しちゃったよね」


どこかバツが悪そうに苦笑いなシファルくん。


「それとも、謝る内容がカルナークが代理で謝っといてって言うような?」


続けて聞くけど、ゆるく首を振るだけ。表情はさっきのまま。


そうして、深く深ーく息を吐き出してから「ごめん」と前置きしてから一言。


「俺の自己満足みたいなもんかもしれない」


と。


「自己満足、したいの?」


なんで? と首をかしげたあたしに「たまに兄貴ぶりたくなる時ってあるんだよ」と、また困った顔に。


「シファルくんでも、お兄ちゃんじゃない時あるの? お兄ちゃんはどんな時もお兄ちゃんってものじゃないの? うちのお兄ちゃんは普段ものすごく自由だけど、いつだってお兄ちゃんだよ」


もう二度と会えないかもしれないお兄ちゃんの顔を思い出すと、イタズラっぽい顔やあたしが困った時や泣いていた時に、あたしの分も怒ってくれたりしていた顔が浮かんでくる。


「普段、小学生か? ってくらい子どもみたいなのにね、いざって時には助けてくれるし一緒に悩んでくれた。何かあった時に振り向いたらお兄ちゃんがそこにいてね。……なんていうのかな、安心感? 味方だー! って」


身振り手振りをつけながら話すと、「ショウガクセイっていうのがよくわからないけど」と言ってから、視線がどこか遠くを見ているようなものになり。


「味方だー! っていうのは、すごくわかりやすかった。…ひなにとって、頼りがいがある存在なんだな。ひなの兄貴に、兄とは? って教えてほしいくらいだ」


なんて感じで話すシファルくんが、困った顔つきから寂しげな顔つきへと変わっていたことに気づいたあたし。


「でも、シファルくんはカルナークのお兄ちゃん、でしょ? 味方じゃないの?」


そんなこと言ってて、本当に兄弟じゃなくなったら寂しくないの? って思った。あたしなら、絶対寂しい。それに、自分が知らない場所でそんな風に思われたり言われていたら悲しい。


(というか…)


と、考える。


こういう異世界というか貴族がどうとかっていう世界観だと、兄弟らしくいられないものなのかな? 設定が違う? 設定じゃなく仕組み? 何ていうんだろう、そういうの。


首をかしげたあたしの頭に、そっと大きな手のひらが乗った。大人の男の人の手のひらだ。


「ひなみたいな妹だったら、こんな風に悩まずにすんだのかもな。…なんてね」


って言いながら、子ども扱いするようにイイコイイコをする彼。


「カルナークって、弟がいるのに?」


カルナークは時々やりすぎることもあるけど、悪い人じゃない。真っ直ぐすぎるとこもあるけど、嫌いにはなれない。あたしにとって嫌じゃない部分でも、シファルくんには苦手とかそういうことなんだろうか。


なんて思いながら、ジッと見つめた時だ。


ものすごく自信なさげでいて、やっぱりまだどこか寂しそうに。


「…………嫌だろうなって」


と言った。


「なにが?」


「俺みたいな兄貴」


シファルくんみたいなお兄ちゃんもいいなって思うな、あたしは。もちろん一番は自分ちのお兄ちゃんだけど。


「???」


だから、なんで? と思って首をかしげてしまうわけで。


不思議で仕方がない気持ちで、無言で見つめるだけのあたし。


「嫌なはずなんだ」


なおも繰り返される、いわゆる卑下する言葉たち。なんか嫌だな。


「????」


「……無言でいられると、ちょっと…」


一言も反応を見せなかったあたしにしびれが切れたのか、また困ったように苦笑った。


「え、だって、よくわかんないよ」


「説明、わかりにくかったかな? もしかして」


「いや…わかったけど、わかりたくないっていうかよくわかんないっていうか」


あたしが抱く気持ちは、シファルくんにとっては肯定できないものなんだってわかっただけに、伝えたとて納得してくれないと思ってしまう。


どういえばいいのか迷いに迷って出た言葉が、それっぽっち。


それを聞いたシファルくんは、さっきまでのあたしみたく無言で不思議そうな顔つきになる。


「????」


普段はあまり表情が変わらない彼にしては珍しいかもと思う。


「なんでそんなこと言うの? って思っちゃったから」


どんな言葉で言えば伝わるのかわかんないなと思ったら、子どものような物言いになった気がする。


「なんで、って。俺はカルみたいな奴じゃないから、さ」


「ん? それは当然じゃない? シファルくんはシファルくんでしょ? 変なこと言うんだね」


「じゃなく」


「カルナークはカルナークで、シファルくんはシファルくん。他の誰でもないじゃない。…変なのー」


深い話をこっちからしてよとは、やっぱり言えないな。


シファルくんがどう答えを出すにしても、聞いてほしいって思ってた上で吐き出してくれるなら聞くのに。


話をしてくれるしてくれない別にしてもさ、誰かと比べちゃうってあまりよくないよね。


元の世界じゃ、あたしもまわりの人と自分を比べながら生きていたけどさ。


シファルくんはそういうのが強いのかもしれない。


(なんか、不思議だな。自分も似たことしてたはずなのに、自分じゃない人が同じことしてたらすごくまわりが見える気がするっていうか)


自分だって同じことを言われたって、素直に受け入れられるかわかんないくせに。


なのに、自分じゃない誰かにはそんなこと考えないでよって思って、言いたくなって。


自分の一番の味方は自分じゃなきゃダメだよって、泣きたくもなって。


あたしだって、あたしなのに。


それを上手く消化できるまですごく時間がかかって、答え合わせになるのかを探りながら新生活が始まる直前で。


そのタイミングでコッチに召喚されて、みんなと出会って。


(自分だけがああいう考え方をするんじゃないんだなって知るキッカケにはなったけど、生きるって本当に難しいや)


「俺は…俺、か」


無言で見つめていると、ため息と一緒にこぼすようにそう呟くシファルくんに。


「うん。シファルくんは、シファルくん。他の誰でもないって思うよ。っていってもさ」


そう前置きしてから、無言で見つめていた間に考えていたことをあえて言葉にして伝えることにする。


目の前の彼には言葉にした方がいいと、そう感じたから。


「……人のことだと、何とでも言えるだけで。自分のことだと、そんな風に割り切れないのが人…だよね」


その言葉の終わりに、ごめんねとだけ付け加え視線を下げた。


あたしの言葉を聞き、すこしだけ目を大きくし。


「まあ……そうだよね」


と、肯定してから。


「俺もさ、ひなが同じように同じことで悩んでたら、ひなはひなでしょ? って言っていそうだ」


そう呟きながら、廊下の先へと視線を向ける。


彼が視線を向けた方角には、カルナークの私室。


「お兄ちゃんでいるのって、そんなに難しい?」


自分のお兄ちゃんを思い出して、首をかしげながら問いかけたあたし。


「んー…」


シファルくんは考えるように小さくうなってから腕を組み、「どうだろ」と続けてからあたしを見て。


「それについては、ひなのお兄ちゃんに聞いてみたいな。お兄ちゃんでいるの、難しくないですか? って」


そう言い、腕を組んだままアゴを上げて天井を、まるでどこか遠くを見ているような目で仰ぎ見ていた。



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