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抱えられるもの、抱えられないこと 5



「…へ」


驚いたつもりでこぼれた一文字に、シファルくんが続ける。


「ん」


疑問形でもなければ、驚きでも怒りでもなく。ただの一文字を伝えてきただけみたいに。


「…ん?」


それだけのことに、逆にコッチが疑問を抱いてまた一文字で返す。


「ん? なに?」


今度は三文字になって返してきたシファルくんに、話が進まないじゃないかと言葉でハッキリ伝えることにした。


「じゃなく! 違う! えーっと、驚いたの。あたしは。なのに、どういう感情のかつかめない『ん』が来たから、どういうこと? って『ん?』って返して。そしたら逆に疑問投げ返してこられて。…あたしは結局なにをどうしたら?」


説明チックになってしまったのは、仕方がないよね? ね?


よくわからない状況の、元々の性格がアレなもんで動揺を隠せないあたし。


コミュ障なんだから、あまり無理したくないんだってば。もう。


(まあ、なんでかコッチに来てからは比較的他人と会話が出来ている感じではあるけど)


何でそういう風になれているのか、あたしが一番疑問に感じているけど、今はそこを深く追求している場合じゃない。


「…んふ」


オロオロするあたしをみて、シファルくんがこぶしを口元にあてながら堪えるように笑う。


「え? ……なんで笑われたの? あたし」


なんかおかしな行動でもした? ここまで意外と平和な気がしていただけで、実はみんなあたしのことを笑えちゃう奴とか内心思ってたとか?


(そんなのヤダな)


一瞬でグラつく心に、手が勝手に強く握りこまれてしまう。


「ごめん、ごめん。笑っちゃって。…ふふ。もうアレだから”ひな”って呼ぶけど、ひなのことを笑ってるわけじゃないから勘違いしないでね」


けれど、その不安をすぐに解くような言葉が返される。


「ほん、と? あたしが変だとかおかしいとかじゃなく?」


こうやって自分が抱えている不安を言葉にして伝えられているこの現状も、とても不思議。


まるでお兄ちゃんたちと練習していた時のような気分になる。人とかかわるための練習。


他の人からすれば当たり前に出来ていて、練習なんてものはいらないことを必死になって繰り返し練習してたあの頃の…。


「んーん。逆だよ、逆」


そう言ったかと思うと、スッと近づいてすぐにあたしの頬へと手を添えて。


「かーわいーよね、ってさ」


ジークが時々やるような、ナンパな仕草をして見せた。


でもジークがやってきた時には、最初の頃は耐性ついていない上にカッコよすぎて赤くなったりもしたけど、心が伴っていない挨拶みたいなものって思うようになってからは平気になってきてたんだ。


なのに、ちっともチャラくないシファルくんが普段よりも大人っぽくて、実年齢いくつか忘れたけど思いのほか男っぽくて。すこし冷たい指先が触れた瞬間、思わず「…んぅ」って変な声が出ちゃったくらい動揺してた。


「あ。…やりすぎ? コレ。……ごめんね? ひな」


変な声出して首から上をアツアツにしちゃったあたしをみて、更にシファルくんが楽しそうな顔つきになった。


顔から手を離す刹那、親指だけ上下に動かして、まるで名残惜しそうに撫でた。


肩先がピクンと揺れたけど、今度は変な声が出ないように口をキュッと強く噤む。


「で、さ。さっきの質問に答えをもらってもいい?」


今までの彼の雰囲気とは違い、ただやわらかい空気を纏うお兄さんのようになる。


「あ……、っと、なんだっけ」


どうしていいかわからなくなり、ヘラリと笑みつつ逆に問う。


「あはは。正直でいいね、ひなは。あのね? さっきまでの俺が変だったかな、って聞いただけだよ」


ハッキリと質問の内容を示され、さっきまでと言われて「ああ」と短く言ってから思いきりうなずく。


「ジークの真似みたいで、シファルくんのイメージと違ったからどうかしたのかと思ってた」


髪を乾かしてくれた後のシファルくんは特に、変というかいつもの彼じゃないみたいで戸惑ったというか。


「あたしが甘い口調に慣れてないのが悪いもかもだけど、ああいうのってジークの得意なあたりでしょ? …なんだけど、シファルくんが甘やかそうとしてくれているのかジークっぽい方へキャラ変更の途中なのか。不慣れな感じで調整途中っぽくて、あたしみたいに男慣れしてない女の子に誤解させそうな空気ばっかりだったんだよ。急に……なんていうか色気が、こう…ぶわわっ! って甘々なので押せ押せってなられても、上手に甘えられないよー。……というか、お手柔らかにお願いしますって思う。多分だけど、シファルくん自身が思ってるよりも、その…色気がある、よ? ぎこちなくやっててそれなら、ジークみたいに狙ってやられたら…ちょっとマズいというか。と、とにかく! そのままジークっぽくやっていくなら、相手を選ばなきゃ誤解させちゃうか……ジークよりも威力が増しそうで危険だから加減した方がいいのでは…ナイカト」


最後に言葉を締めくくろうとした時に視線だけ上げると、シファルくんがすごく優しい目でコッチを見ていてカチンと固まってしまった。そのせいで、最後だけぎこちなくなったんだけどね。


「なんで最後だけカタコトなの? ふふふっ、ひなって面白いね。思ったことたくさん話してくれて、ありがとね」


(ああ…もう。言ったそばから、色気が。今のはジークを意識してなさそうだったけど、急にお兄ちゃんっぽくて色っぽくて)


「そういう笑顔…………禁止」


ささやかな抵抗にもならない抵抗をして、プイッとそっぽを向いたあたしの耳に。


「ふ…っ、クックックッ」


そっぽを向いていても、肩を揺らして笑っているのがわかる声だけが聞こえた。


あたしは悔し紛れに、長いため息を吐き出すようにこぼす。


「ジークじゃなくてシファルくんなんだから、シファルくんらしく…でイイと思うよ?」


自分が落ち着かないのと、普段の彼がいいなと思っていた自分に気づいて出てきた言葉だった。





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