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犠牲

 振るわれる刀身が危うくもノアの鼻先を通りすぎる。先ほどまでの『鷹』とはまるで違う剣筋に、ノアは動揺を隠せない。嵐のように振るわれる銀閃に、回避防御で精一杯のノアは、隙をついた一発を避け損ねる。


「なッ――!」


 耳元を通過する弾丸を、慌てて首を傾けて寸前で回避。それでも耳の先から出血し、本当にギリギリだったことを自覚する。剣と銃。相反する間合のそれらを何不自由なく振るって見せる『隼』。流石というべきか、やはりというべきか、その圧倒的なまでのセンスには脱帽だ。


「避けたか……」


 納得したように目を細めたテセウス。感嘆しているのか馬鹿にしているのか、そのどちらでも関係ないが、アテナが見たら癪に触ると怒り出しそうなもの。戦況とは裏腹に案外呑気な思考をしていると、遅れてノアはそれに気づく。或いはそれは、現実逃避なのだろうか。


「……っ」


 連撃から逃れ、距離をとったノア。これぞ銃の本懐と、刃の間合の外から発砲。しかし、その全てを片腕で弾き飛ばされる。


「無駄だ。そこらの弾ではこの鋼鉄は穿てない。()()らしいからな」


 旧ハーツの遺産、今は無き亡国の技術。ノアの首に下がるギアハーツと同じモノ。それを扱える人間は少なく、ノアの知るところでもドニぐらいしか居ない。或いは、帝国の研究機関ならば可能だろうが。


「……武器にとやかくは言わない。ソレ(非殺傷弾)で戦えるというのなら好きにしろ」

「やけに、物分かりがいいね」

「抜かすな。俺が勝つか、貴様が勝つか、重要なのはそれだけのこと」


 離れた間合いを埋めるように放たれた弾丸。その全てを足跡に、ノアは敢えて接近を選ぶ。撃つ、撃つ、撃つ。弾丸は確実に直撃しているのにも関わらず、鋼鉄の右腕には傷一つ付きはしない。


 いや、それだけではない。その着弾に合わせて完璧に腕を割り込ませている。本来受けるはずの衝撃を。その片腕だけにとどまらせ、実質的にダメージを無効化している。まだ、彼は本気じゃない。


 たが、ノアの気掛かりはそこではなかった。そんな、そこまでの技量を持っていても、インネに頼ろうとするのか。帝国の英雄すらも、彼女の犠牲に疑問を持たないのか。


「貴方は、帝国を救った人間のはずだ。それが、何故⁉」

「くどいな、俺はアレスの平和に賛同する」


 瞬間、爆発的な速度でノアに迫ると、その刀身をノアの首へと走らせる。が、そこに、銃を割り込ませてギリギリで斬首を回避する。


「貴様こそどういうつもりだ」

「……どういう意味だ」

「その弾を使う人間が、なぜ抗う?」


 問いたいのはこちらだと、その刃を押し込みながらもノアの瞳を覗き込む。ノアの真意を、探ろうとする。


「貴様も望んでいるはずだ、何も傷つかない、完璧な世界を」

「……それは、人々が自ら積み上げるものだ。力で強制された世界なんて、そんなの悪夢でしかない!」

「――ッ!」


 渾身の力で刃を弾き飛ばすと、ノアはそのまま銃を向ける。シリンダー一本分の連射。それでも、その全てを撃ち落とされて。平然とテセウスはこちらを見据える。


「インネを、彼女を利用するなら、僕は貴方を止める」

「……貴様には、わからないだろうな」


 閃光が、再度迸る。



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