因縁
ルーシーらと別れてから、三人は路上を駆け抜ける。ブレンパレスの構造は、極めて堅牢に設計されている。城門を突破する以外に城内への侵入経路は存在しない。そうして、帝国兵の歓迎を振り切った後、続くのは長く広い一本橋。城をぐるりと囲む堀、その中に浮島のように聳えている城内へ進むには帝都と城をつなぐこの橋を進む他ない。
そして、当然のように、その中心に、防衛戦線としてノアを待つ男。
「――ようやく来たか、『烏』」
「ジーク……」
『七核』第三位『鷹』ジーク・ホウデン。
類稀なる戦闘センスと、強さに対する実直さでここまで上り詰めた男。言い換えれば、他者をただ切り捨てることに、一切の余念がない、帝国最強の一人。そして、『烏』に執着する眼光鋭い狩人。
「鍵は……持っているな」
「ドレスコードは守った。そこを通してくれない?」
「……一つ、答えろ」
ノアの胸元に垂れ下がる、真紅の輝きを纏う石を見て、『鷹』は腰の刀に手をかける。同時に、ノアもホルスターのロックを外す。
「『七核』に戻れ、今ならまだ取り返せる」
「……インネを攫うような人間に降るとでも?」
「……本当に変わったな、忠義も誇りも捨て、叛逆か」
失望。彼がノアに、何を期待していたのかはわからない。例えノアが軍を抜けていなくとも理解できなかっただろう。そんな、他者の天秤など、知ったことか。
「君こそ、よく喋る。――僕に首ったけだったんじゃ?」
「――ッ!」
慣れない煽り文句だったが、どうやら相当効いたらしい。或いは、普段口にしない故に意外だったか。どちらでもいい、『鷹』は、あくまで通過点だ。ここでもたつくわけにはいかない。
「アテナ、隊長、下がって。彼は僕がやる」
「……任せたぞ」
「師匠、私も――」
「――僕だけでいい。あれはきっと、僕の問題だ」
二人を端に移動させて、ノアは数歩前に進む。そうして、『鷹』との距離は目と鼻の先に。
「……団欒は済んだのか」
「おかげさまでね」
ある種、聞くものが聞けば穏やかな会話。しかし、状況は決して穏やかではない。段々と空気が凍てついていく。
インネが拐われた際のような、突発的なものではない。帝国最強の兵士同士の、決闘。
それは、国内で幾度となく行われた、昇位試験のそれとは全くの別物。少なくとも『鷹』は、ノアを殺す気でいるだろう。結局、ノアはこれまでの戦闘で実弾で人を狙うことはできなかった。『梟』の狙撃でさえ、銃を狙ったのだ。
だが、既にそう甘くない所まで来ている。簡単に抜けられると思うなと、自身に言い聞かせる、
軽口を叩き、各々の構えが落ち着いた。そうして、眼前の刀使いは口を開く。
「『鷹」ジーク・ホウデン。――ノア、お前を超える」
「ノア・クヴァルム。君を倒すよ、ジーク」
『鷹」の名乗りに『烏』が応える。次いで、抜刀、抜銃音が響いて、戦いの火蓋が、切って落とされた。




