双璧
轟いた二発の銃声。それが、それぞれ別の方向から発されたものだと理解したヴィルヘは、絞り続けていた引き金を緩める。
指示の途切れた『玩具兵』達もそれぞれ動きを止め始める。『歌劇団』、『玩具兵』共に消耗は激しい。本来ならぶつけるべきでない相手に、『歌劇団』は健闘を続けた。正直、期待以上だ。それとは逆に、アテナとクロノスと別れた後合流した、隣でへばっているルーシーを叱咤する。
「指揮権を持つ人間が指示を出さないでどうする――奴ら逃げるぞ!」
「へ……? あ、! 総員、完全制圧してくださいまし!」
待っていたと言わんばかりに、急激に統率力の鈍った『玩具兵』に、容赦なく『歌劇団』が攻撃。一瞬のスキを見せた『玩具兵』は次々に倒れ伏していく。
「……どうやら、向こうも終わったらしい」
「よくお分かりに?」
「……聞き馴染のある銃声がな。クロノスの物だ、アレは」
誰が撃ったか、までわかる程ヴィルヘの技術はないが、直近で聞いた銃声くらいなら聞き分けられる。それも、自分達の危機を救ったものなら猶更。だが、この状況でならば、その射手もおおよその推測はできよう。等倍射撃で何とか当てていたクロノスでは、狙撃手の相手は無理な話。おそらく、ノアで間違いない。
「……愛ですわね?」
「違う。それと私は既婚者だ」
「新しい恋と言うのも、悪くはなくって?」
「……招集しろ、ノア達と合流するぞ」
「あら、素直じゃないこと」
◇◇◇
「……ああは言ったが、まさか本当に『梟』を落とすとは」
と、感嘆しながら小首を傾げたヴィルヘ。正直、その前の話はノアには知りえない事なので、とりあえず誉め言葉として受け取っておく。
とは言え、驚愕に値するのはそれを成した本人でも同じだ。歩兵が狙撃手を倒す。よくよく考えれば随分と無謀な話だ。命知らずと言った方が正しいか。ともかく、思いがけず『七核』の数を減らすことができた。そこだけは素直に喜んでもいいだろう。
「まあ、今回は相当キツかったけどな。そうだドニ爺、ノアに補給してやっといてくれ」
「そうじゃの、儂の出番はこれぐらいじゃしの」
「まあおじ様ったら、あんなに凛々しく戦ってらしたのに?」
「老骨でもそれぐらいはできんようじゃな」
カッカと白い歯を見せて笑うドニは、ノアからマガジンを受け取りながら肩を竦めて見せる。
「とはいえ、位を見ても彼は五位。まだ三位と一位が残っています」
緩んだ空気を引き締めるように、アテナが釘を刺す。和むのはいいが、油断は禁物だ。だが、もうこれ以上の奇襲を受けることはまずないだろう。『鷹」が城で待つと言った以上、彼らは待ち続ける。獲物が罠にかかることを待つように。
「まあ、そのための『歌劇団』だ。……まだ行けそうか?」
「もちろんですわ! ……と言いたいところですが、流石の彼らでもここまでの負傷となると……。ですが、少数精鋭ということでしたら、申し分ない人数になりますわ」
「なら、変更はなしだ」
皇帝、『七核』と言えど、何も本当に城の中だけで待つわけでもない。無論、歓迎のあいさつはあるだろう。それも、必要以上に圧が高い歓迎が。
「つっても俺たちだ。真正面からの突破だ。どうせ位置も目的もバレてるんだ。今更コソコソしたってかわりゃしねえ」
「ですね。『鷹」も言ってました。もう、ここは――」
「――罠にかかってやる、ですわ!」




