逆襲
「のあっ――⁉」
閃光と共に破裂音が間近で轟き、『梟』のキーブスは初めて声を漏らす。そのまま取り落とした狙撃銃は、綺麗にスコープを砕かれていた。不幸中の幸いというべきか、反射で直撃を免れた頭部は、耳たぶが少し出血した程度に収まった。
得物は封じられた。残る武器は腰に下がった自動拳銃。緊急回撤退用の一丁の為、余分なマガジンは持ち得ていない。元『七核』を相手にするなら、ほとんど丸腰も同然だ。
「やってくれる……」
見事なものだ。絶対無敵の狙撃手と謳われた『梟』、その最大の攻撃手段を封じてみせた。だが、それはあくまで状況的な話。その一弾の為に、『烏』は己の身を捧げた。咄嗟の射撃だ、頭部ではなかったものの、高威力の大口径弾による一射。まともに生きているとは考えにくい。
そして、賞賛に値するのは死角の狙撃手もだ。クロノス・ウォーリか、『鶯』か。おそらく、『鶯』。彼女がこれほどの狙撃技術を有しているとは思わなかったが、事実は事実。腰の拳銃を引き抜いた『梟』は、狙撃銃を捨て置きその場を後にするべく匍匐状態から立ち上がる。
「そこまでだ」
一声、高らかに待ったをかけた存在が、その両手の拳銃を鳴らす。
「……『鶯』」
振り向いて、その声が記憶違いでないことを確かめる。かつて任務を共にもした、今は叛逆者の赤髪の娘。
「……ふ。一人か、『鶯』」
「不満か、それとも不服か?」
「お前一人で、この『梟』を落とすことができるとでも?」
絶対無敵の狙撃手。その手段は壊れ、目は潰れ、だがそれがどうした。最強の狙撃手『梟』キーブス・ジャッジ。それがいかにして『七核』であるのか。自身を守るすべなければ、軍人として帰還は成らない。狙撃手が、的に接近されればおしまいだという事実は変わらない。だが、それが絶対的に『梟』の不利になり得るわけではない。
「小娘一人に何ができる」
片手の銃のセーフティを外し、いつでもその羽を貫けるよう握り込む。さすがの『鶯』も、それは承知の上。銃を突き、それ以上は許さないと威嚇する。
「何を勘違いしている?」
「なに……?」
そして、色気のない鉄仮面を外すと、『鶯』のアテナは口角を上げて言い放つ。
「私は、あくまで時間稼ぎだ。――終わりだ」
まるで、その時が来た。そう確信するように、突如その体を地面に落とした。
急激に体勢を変えた『鶯』に、『梟』は咄嗟に拳銃を構える――が、
「――堕ちろッッ!」
刹那、轟いた銃声と、響いた叫びがキーブスの鼓膜を穿った。
「ごっ――!」
訂正、穿たれたのは、その額だった。
火薬による音速の暴力が、その頭蓋を粉砕するかの如く、頭部丸ごと吹き飛ばす。そのまま地面に叩きつけられ、視界は青空を映し出す。
「馬鹿……な……」
薄れそうになる意識の中、キーブスは吐く。理解できないその存在に。
「死んだ……は……ず」
「あなたが殺したのは、アテナが盾にしたただの機械だ」
コツコツと靴音を鳴らし、倒れ伏したキーブスの横に、それは立つ。見れば、上着は赤に、『鶯』のものと入れ替わっていた。
「おかげで、上着に穴が空きましたが」
「すみません。私の策のせいで」
「大丈夫、それに、君が縫ってくれるんでしょ?」
「……はい!」
敵を――例え敗北を喫したとしても――前に随分と呑気な話をしてくれる。帝国最強と謳われた、嫌われ者の狙撃手を、二度も倒したというのに。
「……殺せ」
「生憎、僕は実弾を持ってない」
「……温く……なったな」
「そろそろ、眠れ」
そうして、見上げた視界に銃口が現れる。
高らかな銃声と共に、『梟』の意識は途切れる。




