二羽の『烏』
「――それは分かったけど……なんで僕?」
物陰に隠れながら、今しがた参謀の披露した作戦に苦言を呈す。作戦そのもののクオリティは大したものだ。今、この危機を脱するにはそれ以上に最適な作戦もない。だが、とはいえ、それはノアにとって受け入れがたいものでもあった。
「しかたありません。『梟』を攪乱するには、これしかありません。ですから、これを」
ノアからもぎ取った戦闘衣を大事そうに抱えながら、今しがた自分が脱いだソレを押し付けてくる。未だぬくもりの残っていそうな彼女の上着、それを、着ろと言われている。
「それとも、狙撃は私にしますか? 正直、師匠より苦手ですが……」
「……わかったよ。伸びても知らないから……ね……?」
「お気づきでないかもしれませんが、師匠は案外華奢なので、私の物でも入ります」
「……なんで君が知ってるんだ」
ため息交じりに肩を竦めて見せると、アテナは素知らぬ顔でいそいそとノアの戦闘衣に袖を通している。
「おいおい、イチャコラしてねぇでそろそろしかけるぞ、二羽目が近くなった」
「了解」
◇◇◇
というのが、寸刻前の話。バットがこちらの圏内に入った瞬間、ノアはクロノスから受け取ったグレネードをありったけ放った。これで、数秒程度は敵の視界は文字通り全て潰れる。
「隊長……絶対に動かないでくださいね」
「人を足蹴にして置いてよく言うぜ……ったく」
煙の中、ノアとクロノスはそのまま商店通りへと出て、視界が晴れるのを待っている。精々あと重病程度。ノアはクロノスの背中に狙撃銃のバイポッドを乗せ、クロノスの要部を踏みつけている。
「流石の僕でも、これを構えるのは一苦労ですよ」
「まあ、そうだな。これもアテナ嬢の作戦だ」
「……アテナにかかっています」
「大丈夫だ……きっとな」
◇◇◇
そうして、二人と別れたアテナは、最愛の師の上着を身に纏い、煙を抜けて街路を駆け巡る。わざと大振りに、あえて目立つように。
「……っ!」
そして、獲物が罠に喰いついたと確信する。背筋が凍る程の殺気を感じて、アテナは走る速度を跳ね上げる。走って、走って、走る。行く手が二つに分かれたその時、判断に迷うように足を緩める。
――そして
「――っぅあ⁉」
一発。アテナの頭上を正確に貫いた弾丸が、全てを置き去りにしてソレを破壊した。
そのコンマ一秒後、再び弾丸が空を切り裂く。




