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二羽の『梟』

「確か、キーブスの持つ補足機は、武装機も含めて四十機はあるかと。武装機だけだと五機だったはずです」

「もう三十は落とした。追加がなければもう少しだ」


 キーブスと行動を共にしたことがあるアテナ。ここぞとばかりにそこでの知見を発揮する。大した作戦ではない。至極簡単な理屈だ。


 観測手のいらないキーブスとはいえ、それは人材としての話。実際補足機のような支援品を使ってはいる。逆を言えば、それらを全て落としてしまえば、敵はこちらを補足できなくなる。無論、ギアハーツを持っている以上、皇帝にこちらの居場所は筒抜けだろうが、それは戦場の『梟』には関係のないこと。


「――! アテナ!」


 駆動音を察知したノアは背後の彼女を突き飛ばす。刹那、アテナが居たはずの場所を弾丸が切り裂いていく。少し離れた位置にクロノスが。照準を済ませた彼は物言わぬ兵士(機械)に小口径弾を叩きこむ。


「……くそ。あのジジイ、喋らなくなりやがった」


 小爆発の後、空を警戒しながらクロノスが吐き捨てる。とはいえ、そもそも狙撃手が積極的に得物にコンタクトをとることも珍しい話だ。或いは、確実に仕留めるという、宣誓のつもりか。


「それより、早く場所を変えましょう。彼も動いているはずです」

「――いや、無理そうだね、それは」


 礼を言いながら急かすアテナを横目に、抱えていた狙撃銃を背中に回す。取り回しの問題上、今はクラレントが最適だ。そのまま、前方で隊列をなす機械に向ける。ノアの真意を理解したアテナもまた、両手の銃を突きつける。


「行くよ――!」


 宣言と共にアテナが飛ぶ。そのまま中空で四連射。銃口を向ける機械に叩き込む。着地、そのままノアがスイッチ。羽を貫かれた一機が落下、一発放り込み爆散。分煙を掻いて逃れながら、そのまま残りを撃ち落とす。


 と、空に逃れた三機のうちの一機、とっておきと言わんばかりの機銃を搭載したそれが、銃口を真下に向けてくる。刹那、弾丸の雨が二人を襲う。


「「――っ!」」


 後方に跳び退って距離を距離を取り、二人共にアイアンサイトをバットに向ける。が。


「どこ見てんだっ!」


 離れたクロノスが、マガジン一本分の連続射撃。転がる薬莢が音を立てて、次いでバットが爆散した。


「……ふう、あと一機か」

「恐らく。どこかで潜伏しているのかと」


 首を鳴らしたクロノスが、うんざりしたようにため息を吐く。ノアはリボルバーのリロードをしながら、周囲を見回す。


「商業区、それも商店通りです。ここからならキーブスから狙われる心配はないですが、こちらからも発見は難しいでしょう」

「……今はもう見失ったしね。少なくともヴィルヘ達の方には流れていないはずだ」


 そもそもの目的はノアの持つギアハーツ。皇帝の命を遂行するだけならば余計な弾を使う必要はない。キーブス・ジャッジと言う男は、皇帝(アレス)の全てを正義とする男だ。『鷲』や『鳰』のように、私情で動くような兵士でもない。


『……子らを潰せばいいとでも思ったか、『烏』よ』

「「「――っ!」」」


 一発、轟いた銃声と共に、ノアの首を掠めた弾丸。即座に臨戦に入った三人は、背中合わせに首を巡らす。


『……流石『烏』だな。だが、目を失おうとも腕がある。腕がある限り引き金は引ける』

「どこだ、『梟』! どこにいる⁉」

『お前は……そうか、『鶯』か。……お前の正義は曇ってしまったか』

「――っ! 何を……!」

『まあいい。一つだけ教えてやろう。『烏』よ、お前に敗北を喫した者は皆少しばかりの工夫をしておる。『梟』もまた例外ではないということよ……』


 満足したようにそれだけ伝えると、聲はそのまま聞こえなくなった。


「どういう意味だ……?」


 先刻の射撃を警戒し、住居の壁に身を隠す。そのうちに、合点がいった。


「師匠、何か?」

「ちょっとね」


 ノアの表情の変化に機敏に反応したアテナが、期待の眼差しを向けてくる。流石は長年共に過ごした妹分というべきか。


「『鳰』は、わからないけど、『鷲』も『鷹」も、以前とは違う戦い方をしてきた」


『鷲』には以前、ナックルに榴弾投擲の機能は無かった。『鷹」も、ノアの衰えを考慮しても、明らかに動きが早かった。


「皆、以前と同じだとは思わない方がいい。ということでしょうか?」

「多分。それとこれ」


 先ほどの射撃による弾丸。ノアの首を掠めたまま、地面を穿ったままだったそれを拾っておいたものだ。


「なっ、こいつはジジイの弾じゃねえか⁉」

「はい。恐らく、最後の一機は、狙撃銃を積んでいると思います」


 自動索敵飛翔機が、遠隔操作、神出鬼没の狙撃手へと昇華した。つまり――


「――二羽の『梟』」

「うん、そう」

「……まさか、私の知っている彼ではありません」

「だろうね。奥の手をそうそう身内に明かしたりしない」


「ここからが本番だ」

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