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その先に

「ったく、どこ行きやがった!」


 弾痕、銃声などから、ノアが商業区の方向へ向かったのは把握した。しかし、肝心の彼が見当たらない。だが、断続的に銃声がしている為、彼がここに居るのは間違いない。


「ですが、これは師匠の銃声だけですね」

「だな」


 道中、一度だけキーブスと思しき銃声がしたが、マズルフラッシュもスコープの反射も見当たらない。そもそも『梟』に限ってそんなヘマはしないだろう。大体の方向が分かるだけでも御の字と言ったところ。消音器(サプレッサー)でも付けられていれば、と思うとぞっとする。


 彼が消音器を付けない理由は単純明快。制度が落ちる。それだけ。それだけとは言ったが、それが最も重要なこと。十メートル、二十メートル程度ならば、消音器を付けたとしても、さほど命中率に影響はない。だが、それが数百メートル単位の狙撃となれば話は変わる。


 一ミリ照準がズレただけで、何メートルも着弾地点が変わってしまうのだ。そして、彼の扱う弾丸は、消音器を受け付けない。対物ライフルにも匹敵する威力と大きさを誇っており、それだけのガス圧を分散させられる程の耐久力のある消音器はない。


 ともあれ、敵の銃声が聞こえるおかげで、その位置の特定もしやすいというわけだ。とはいえ、ないよりマシというだけであり、狙撃の達人ということは、潜伏の達人でもあるということ、そう簡単に見つかってくれるほど容易くはない。


「しかし、どうしますか。いくら師匠といえど『梟』相手は荷が重すぎます」

「だな。コイツを渡してもどうなるか。あのジジイを見つけられねんじゃ話になんねえ」


 ノアを射程圏内に収めるためにはある程度は近くにいる必要がある。虱潰しに探していけば、いつかは見つかるだろうが、それは素直に探させてもらえればの話だ。戦場でノコノコかくれんぼの鬼をやれるわけはない。


「まあ、狙撃勝負になるだろうな」

「師匠が、ですか」

「アイツを信じるしかねえ」


 ノアは、一度『梟』に勝利している。当時は少々荒業、というより、少々強引なやり方で勝利をもぎ取った。だが、今回はその戦法は使えない。


「と、みつけたみてぇだ」


 一発轟いた銃声を耳に、クロノスはほくそ笑む。それに、アテナも頷いて拳を握る。空に浮いていた一機の索敵機が、たった今の銃声で地に落ちた。


「やりかえしてやろうぜ」

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