蠢いて
「――っ!」
一体何機あるんだと、ノアは内心で咆哮する。頭上に浮かぶ奇妙な形状の機械。自動索敵飛翔機、ドニは”ドローン”と呼んでいたか。逃げ込んだ商業区に、飛翔用のプロペラを高速回転させ、そのセンサーをこちらに向けてくる。
落としても落としても、まるで蟻のように次から次へとノアを捉えに来る。その癖、肝心のキーブス・ジャッジは狙撃ポイントからは動かない。おびき出し、仕留められる所で葬り去る算段。
『のう、『烏』。何故神の裁きから逃れようとする』
「どこだ、キーブス!」
『ふ……探してみろ。こちらは貴様を待っている』
「なっ――!」
何処からか響く彼の声。しかし、次には霧となって消えてゆく。もはや、ノアに隠れることは許されなかった。
かといって、迂闊に身をさらすわけにはいかない。周囲の索敵機は全て落としたはずだが、どこに潜んでいるか、どこでキーブスが見ているかわからない。そもそも、位置を特定できたとして、ノアには何ができる。
ノアの装備は狙撃手を相手にするにはあまりに貧弱。そろそろ予備の弾薬も品切れに近い。ノアの一番の強みである近接戦闘が使えないとなると、もはや八方塞りもいいところだ。無線妨害、或いは、カウンタースナイプができる人員が必要。
「狙撃銃か……」
ノアが得意とするのは近接戦闘、中距離射撃。だが、概ね全銃器を扱えるノアは、ある程度の距離であるならば狙撃も可能。少々、苦手な方向ではあるが故に、ヴィルヘの問いでは断ったが。だが、何をしようにも物資が足りない。一人で飛び出したはいいものの、結局ノアには助けが必要だ。
一発、銃声を轟かせて、足元に落ちる機械を踏みつける。どうやら、向こうの辛抱はとうに切れたらしい。
「隊長……」
望みの全てを彼に賭け、ノアは物陰から飛び出した。
◇◇◇
「はぁ……はぁ……」
冷たい床を足裏に感じながら、いつ脱げたのかわからない素足をひたすらに動かして、インネはそこを彷徨っていた。
どこを見ても、似たような景色。冷たい合成金属の床、淡い光を落とす照明。自分がどこにいるのか、どこを目指していたのか、もはやわからない。牢屋を抜けて、階段を上がったまではよかった。そこから、出口を探しているうちにすっかり迷子になってしまった。
時間がない、もう、いつインネが消えたことが露見してもおかしくない。実は既に気づかれており、インネが泳がされているだけの可能性も十分にある。しかしどうあれ、一刻も早くここを抜けなければ――
「――どうした、『祈憶姫』」
「――ッ⁉」
たったそれだけ、それだけのはずのに、背筋が凍り付くような気配を感じて、インネは慌てて振り向く。
「拘束が足りなかったようだな――『隼』」
「やっ――⁉」
瞬間、背後から何者かに羽交い絞めにされ、身動きを奪われる。音もなく、気配もなく、それはインネを捕らえる。
「アレス、もういいだろう。アレに入れて置け」
「……そうだな。だが、その前にもう一度聞こう」
「……っ?」
「鍵はどこだ? 『祈憶姫』」




