決戦前夜
「どうです! この絶景は!」
並べられた重火器を見て、絶景と称するのは軍人か、かぶれぐらいの物だろう。おおよそ貴族が、それも淑女が口にするとは言い難い。
が、実際に起きている現実だ、とノアは腕を抓って確認する。
「壮観だなこりゃ。でもよ、誰が使うんだ?」
「もちろんクロノス様が……と言いたいですが、『アンタレス』の皆々様では?」
「あんなぁ、こちとら少数精鋭なんだ。それに、この中でライフルなんざ扱うのは、ヴィルヘか俺ぐらいのもんだ。」
置かれているのは中近用の平均的なモデル。取り回しやすく、扱う弾丸も射程、威力共に申し分ない。が、ノアやアテナの戦闘スタイルは、比較的接近戦に近く、十分な距離をとった撃ち合いはあまりしない。そもそも、単独任務の多いノアにとって、長物はあまり縁がない。極度の近接戦闘では、ライフルよりも拳銃に軍配が上がる場合もある。
アテナに至っては、火力面、汎用性から見ても、二丁拳銃という固有のステータスがある。似たような例で、『鳰』のフォリエラも二丁のサブマシンガンを乱射する。しかしながら、ばら撒くだけの彼女は、アテナと比べるには少々方向性が違う。
「まあそうだな、ヴィルヘ、これ持っとけ、そっちのガラクタなんかよりよっぽどましだ」
そう手に取った銃はバスティル32。通常より少し口径の小さい弾丸を使うが、反動が小さく、連射時の集弾性が高い。貫通力が少々劣るという点で、軍では採用されなかったものの、将校の中にはあえて自分でこれを取り寄せる者も居るという名銃。
「ガラクタ呼ばわりとは気に喰わんな。……まあ実際、ボルトの動きが怪しかった。ルーシー、貰ってもいいか」
「もちろんですわ! それならこちらの拳銃もいかが? バスティルで劣る貫通力を補えまして?」
持ち上げた拳銃を掲げながら、ヴィルヘの腰に下がる拳銃を見つめる。ルーシーの言う拳銃は、ライフル弾とほぼ同じ形状の弾丸を使用し、拳銃ではトップクラスの貫通力を誇る頼もしいサイドアーム。欠点は、弾丸の分マガジンを挿入するグリップが太くなることだが、身体の太いヴィルヘならばさほど問題ではないだろう。
「いや、それはいい。コレで十分だ」
グレイゴーグ、軍の正式採用拳銃。確かに優秀な銃ではあるが、それにこだわる意味はさしてないはずだ。或いは、曰くつきなのか。
「……夫の形見だ。こいつだけは外せない」
「……失礼しましたわ。でしたら、そちらの弾薬の補給を。それと、『烏』様は、どちらの銃を?」
と、ヴィルヘに気を取られていたノアは、自身に話が振られたことに半秒遅れて気づく。
「僕のは、クラレントMk2。ドニ爺が作ってくれたものなので、弾丸はオリジナルです」
「まあ! ドニ・バールの最新作ですの⁉ 仕組みは、どういう使用ですの⁉」
怒涛の質問にノアは困り果てる。銃は扱えても、この最新式の半機械銃の内面までは知りえていない。視線で助けを求めると近くで並べられた銃を弄っていたドニが口を開く。
「そいつはマシンリボルバーじゃ。自動装填機能搭載、シリンダー+マガジンの計18発。ケースレス弾薬じゃ。今の所最高傑作じゃな」
「なるほど。道理で図体が大きいと……給弾方式はリボルバーの信頼性を生かした結果……」
ぶつぶつと手渡したクラレントを眺めるルーシー。脇からクロノスが呆れたようにため息を吐く。
「アレは銃のことになると面倒でな。まあ頼もしいっちゃそうなんだが、やっぱり面倒だな」
やれやれと首を振るクロノスに、アテナまでもが賛同して頷いている。確かに、ドニが得意げに語るのを、目を輝かせて聞き入っているの見れば、クロノスがため息を吐く理由が分かる。
「あとはもう、突っ込むだけか」
「はい。これ以上の準備は時間的にも物資的にも難しいでしょう。後は師匠判断にお任せします」
「聞いたのは隊長なんだけどな」
「『歌劇団』は基本的に僕らの援護。それも、城に突入するまでの間だけ。ですよね?」
「無論、可能な限り、ですわ。皇帝も一枚岩ではありません。素直に戦闘を許してくれるかどうか。完全に包囲され、降伏するしかなくなるやもしれませんし」
「確かに、シャットアウトと言えど、国家反逆に加担すれば、その地位は危うい。ですがルーシー、貴女はそんなものを案じる訳ではないでしょう?」
確かめるようにアテナが問うと、当然というように薄い胸を張った彼女は扇を開いて目を細める。
「愚門ですわ。貧困に喘ぐ民、露頭に迷う民、戦火に傷つく民。全て放っては置けませんもの」
彼女は彼女の正義を貫くと、その全てで体現して見せる。ある意味で、貴族の鏡のような淑女だった。
「なら、決まりです。明日、夜明け前、僕らは動く」




