鍵
「ぅ……?」
ぼやけた視界が次第に澄み、自分の居場所が明確になる。否、地理的情報を求められれば、ここはどこだか定かではない。
足首に妙な重みを感じて、視界に入れるために引き寄せる。
ジャラと金属の打ち合う音がして、同時に理解する。
「鎖……?」
辿ってみれば、それは壁の金具と繋がれて、勝手はできないようになっている。視線を巡らせて、鉄格子に小窓、冷たい床。どこか既視感を覚えるそれは、実にシンプルな作りの牢屋だった。薄暗く、小窓から差し込む陽光ぐらいしか視界を明るくするものがない。
単純に考えて帝国のどこか。ノアにジークと呼ばれた『七核』に連れてこられたのだろう。アンタレスと引き裂かれてすぐ、インネの記憶は帝国の空の上で途切れている。思い出そうにも、どうやら断片ではなく、そもそもの記憶がないらしかった。
「……ノア」
ここが帝国の、それも城の中、皇帝の手中にあるというのなら、一刻も早く脱出しなければならない。
インネが皇帝の手に渡れば、何か恐ろしいことが起きるという。
「――目が覚めたか、『祈憶姫』」
「っ――!」
鉄格子の向こう、闇の落ちる廊下の影から、鋭い男の声がする。まるで幽霊のように現れたその男は、インネの牢屋の前で足を止めると、その手に持っていた紙袋を中に放る。
「他に欲しければ兵を呼べ。俺は一つ、お前に聞きたいだけだ」
ごろと転げたりんごとパンを一瞥して、インネは何を言われるのかと身構える。
「――鍵はどうした」




