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落鷲

「このっ……!」


 連鎖する爆発に、悪態を着く青年。いつかの嵐を思い出して、今日の天気も荒れているとため息を吐く。


「ぬるい、ぬるいぞ、ノア・クヴァルム!」


 轟音を纏い地形もろとも破壊し尽くしてノアを狙う。もはやここが通路であった影など跡形もなく、大空洞と化していた。土塊が見え隠れしている戦場に、とんでもない仕込みをしてきたと目がまわる。


「僕も十分本気だ――!」


 振るわれる拳を避けてすぐ、転がるグレネードを撃って飛ばす。飛び上がったそれの爆風を拳で払ったガメット、傷ひとつないナックルが、嫌味なくらいに照り返す。


「この様で、本気と? 我を愚弄するのも大概にしてもらおうか‼︎」


 両腕から飛び出した榴弾が、天と地をそれぞれ地獄に変貌させる。逃げ場を失い怯んだノアに、砲弾のような一撃がぶち込まれる。


「かッ――⁉︎」

「ふん、どうやら買い被りすぎたようだ。我の興奮、返してもらおう」


 胴全部で骨の軋む拳を喰らい、地面に伏した獲物に、追い討ちをかけるように二度三度、拳が振り下ろされる。 


「ッ――—!」 


 脳内を蹂躙する痛覚に、苦鳴ともつかぬ声が漏れる。赤く染まった視界には、戦車の装甲のようなナックルが。内臓全部が潰されるような衝撃に、反撃の判断すら霧散する。決して速くはない、が、重すぎる一発が、確実にノアの意識を殺しにくる。


「くそッ――!」


 間一髪というべきか、すでに手遅れではあるものの、一際重そうな最後の一撃を、体を回してなんとか躱す。床を蹴り上げて立ち上がる。跳躍の勢いで反転、ガラ空きの首元に弾丸を叩き込む。


「ごっ――⁉︎」


 唐突の衝撃に、体をよろめかせるガメット。が、刹那で立ち直り、降り立ったノアに裏拳を浴びせる。


「――っ!」


 両腕をクロスして受ける、馬鹿げた威力が左腕をもろに襲い、嫌な音が身体中に響き渡る。骨の一本は持ってかれたらしい。


「はぁ……はぁ……」

「ぬぅ……しぶといな、流石武人」

「……ぅるさい」


 響く声に悪態をつく。想定より、苦戦している。銃弾がほとんど効かないというのが主な要因だ。先ほどのクリーンヒットも、持ち前のタフさで持ち堪えている。帝国第二位が聞いて呆れる、そんな顔で見つめ

 るガメット。結局、相性が悪い、それに尽きる。それでも、嘆いてはいられない。


 崩壊した地面を蹴って、ガメットの懐へと飛び込む。当然のように、堅牢な両腕が、我が身へと至らせんと進路を断つ。そこへ、片腕で乱射、リロード音が響き渡る。

 コンマ数秒、弾丸を受けに身を固めた隙をついて、その脳天に踵落とし。振り上げられた拳と激突。吹っ飛ばされたノアは天井に叩きつけれられて失速する。


「ふん、軍人の名折れよ」

「どう……かな……?」


 策を講じることに成功したノアは、口角を上げながら、伏した地面から立ち上がる。


「何?」


 圧倒的優位、おおよそ覆るこのない戦況に、一筋の疑いが走る。嫌な予感にガメットは焦る。そして、踏み込む。


「覚悟――ッ!」


 満身創痍のノアに向けて、爆風を纏う渾身の一撃が放たれる。到底躱すことのできないその一撃を、ただ一人は待っていた。


「……ドニ爺、借りるよ」


 胸元にぶら下がる、一発の弾丸を引きちぎる。ドニの作ったもうひとつの弾丸。


『限界量の火薬をぶちこんでやった逸品よ。じゃが、その銃じゃ精々六発耐えるのが限界じゃな。――お

 守り代わりよ』


 限界まで威力が高められた特別製の弾。クラレントに使用する弾丸と口径は同じだが、少々形状が異なる。非殺傷弾ではなく、実弾であるこれ、銃の耐久を大幅に減少させるほどの威力と聞いている。だが、今使わずしていつ使う。手動装填のキャップを外し、たった一発を捩じ込む。


「おおおぉぉぉぉ‼︎」


 よろけた足で地面を捉え、ノアは踏み込む。真正面からの衝突。それを、唐突の失速で見失わせる。


「お?」


 渾身の振り抜きが空を切り、遅れて轟く爆発もその全てがノアに届かない。

 当然、ノアはガメットの頭上、中空に居た。


「――僕に勝ちたいのなら、腕をあと二本生やしてこい」

「な――⁉︎」


 その真上、崩壊した天井に向けて、ノアは破滅的な一撃を叩き込む。

 直後、瓦礫の砲弾が、ノアもろともガメットを喰い潰した。


「ご?」


 響き渡った轟音が、粉塵を撒き散らして息絶えた。


 ◇◇◇


「馬鹿な……っ」


 肩口にめり込んだ弾丸に、驚愕を隠せないでいる男。

 染み出した血液をその軍服に滲ませて、大ぶりのナイフを取り落とす。


「はぁ……はぁ……その様か……メイデン・ロードレイ」

「黙れ……っ! ……だが、使命は、果たした」

「なに」

「武人に必要な時間は稼いだ。今頃、『烏』は翼をもがれているだろう」


 苦痛に顔を歪めながらも、その口元に不気味な笑みを湛えるメイデン。滴る血潮がその気味の悪さを加速させる。だが、その嘲笑は、アテナ・ロールには届かない。握る銃口を毅然と向けて、しぶとい蜚蠊を排除する。頭部を撃ち抜かれたメイデンは、そのまま背中から地面に伏した。


「……っは」


 そうして、力の抜けた掌から二丁に銃が滑り落ちる。

 腑抜けた精神だと責めつつも、すでに身体は動かない。


「アテナっ⁉︎」


 最後に、かつての父親の声が鼓膜を打った。


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