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『荒鷲』

「たく、あの坊主も言うようになったもんだなぁ!」


 連続する破裂音に耳を塞ぎながら、苛立ちを隠さずに悪態を張り上げるクロノス。瓦礫に身を隠しながらも、時折片手の銃で応戦している。


「大師匠、これでは抜けられません!」


 革命目論む秘密組織のアジトが一転、弾丸飛び交う戦禍に様変わりしたのは、ほんの寸刻前のこと。

 両腕の銃をリロードしながら、アテナは分かりきった現状を口にする。いくらノアがガメットの相手をしているとはいえ、敵はそう簡単に逃してはくれない。


 しかし、決闘を好むはずの『七核』第四位が、こんな絡め手を投じてくると想定外だ。集結だけされ、基本動くことのない、『鷲』直属鎮圧部隊『荒鷲』までもがこうして投入されている。それほどまで、皇帝の目論見に彼女が必要ということなのだろうか。しかし、だとするならば、少しおかしな事実にアテナは敵兵の頭蓋を撃ち砕きながら気づく。


 今までの襲撃では基本目標はインネを奪取することが本命だが、その手前に必ずノアを打倒するという別の目的も絡んでいる。無論、インネに近づくならば、彼を無力化することが一番の安全策ではある。アテナ自身も、最初にノアに接触したのはそういう目的も少なからずあった。


 が、それではおかしい。いくら慎重に事を運んでいるとはいえ、それでは手間がかかりすぎる。彼の裏を掻き、インネ奪取だけに目的を絞った方が成功率は格段に上がるだろう。『七核』を投入してきているのだ、彼らならば、決して不可能ではない手法のはずだ。現に、ノアが多少の苦戦を強いられていた『嵐』の件もそうだ。


「アテナ嬢、なんか気づいたのか?」


 思案に耽るアテナの横顔を見つめて、怯えるインネを宥めながらクロノスは問う。


「いえ、あまりに面倒な作戦だと思いまして」

「……嬢ちゃんも気づいたか、けど、今はアイツを信じるしかねえな。俺らじゃ『七核』相手は辛れえ」


 肩を竦めながら「仕方ねえよ」と弾丸を放つ。とはいえ、尤もな話だ。今更彼の安否に思考を割くより、信じて目の前の敵を対処する方が賢明だ。そもそもアテナ達が逃げ延びなければ、彼が稼いだ時間をまるまるドブに捨てることになる。それだけは避けなければならない。


「どうしますか、皆さんも奮戦はしていますが……」


 アテナの背後に身を隠し、構える拳銃や小銃を絶え間なく鳴らし続けているアンタレスの面々を見渡して、どうしようもない戦力の差を嘆く。


 数の不利は大差ない、相手も少数精鋭だ。が、いかんせんこちらの装備が心許ない。旧式の小銃に、小口径の拳銃、しまいには有り合わせの弾丸発射装置だ。対する『荒鷲』の兵士は、帝国最新鋭の小銃に、簡単には貫けない防弾プレートまでご丁寧に着こなしている。どう考えてもあれに挑むのは無謀というものだろう。

 アテナの使う拳銃(レッドロータス)も、小口径の為複数回当てなければ貫通は難しい。


「コイツを使うっきゃねえか」


 眉を顰めるアテナ、クロノスが脇から拾いあげたのは、一丁の狙撃銃。ボルトアクション方式で大口径弾を使う旧式のそれ。旧式とはいったものの、前線でも未だに現役な名銃。だが、そこでアテナは首を捻る。


「大師匠、狙撃の心得があったのですか?」


 初耳だった、基本的に近接戦闘が彼の戦法。拳銃と格闘を駆使した彼の戦い方は、ノアもアテナも受け継ぐ一理あるもの。が、それと対極に当たるものまで扱えるとは思いもしなかった。流石は師匠の師匠と言った――


「――いや、ねえよ?」

「はい?」


 今、なんと言ったか? ないだと?


「ド素人ということで⁉︎」

「おうよ」

「な……」


 自信満々に頷いて頷いて見せるクロノスに、アテナは頭を抱える。一体何を言っているのか、狙撃とは、そうそう簡単に会得できるものではない。そもそも真逆の戦闘スタイルの人間に、そんなことが可能なのだろうか。


「んな大袈裟な、たかだか数メートルだ、等倍で撃ちゃ良いんだよこんなもん」

「まあ、それなら……」


 確かに、一理ある。倍率の変動がなく、近距離でというのならば、ダットサイトを使用した照準と似たようなものだ。ブレるスコープの手綱を引くことができる、とい条件の下だが。


「まあ、見てろって。――援護を頼む」

「……了解」


 ふっと体を翻したクロノスが、バイポットの代わりに瓦礫に銃を横たわらせる。匍匐状態でスコープを覗くクロノス。その銃身目掛けて狙われるアイアンサイトに、アテナ弾丸を放り込む。


「――っ!」


 一発、派手な銃声が響き渡る。大きすぎる反動を、その体で受けきったのは流石と言ったところだ。そして、半刻遅れてプレートごと心臓を穿たれた兵士がその場に倒れ伏す。


「なっ⁉︎ 総員、散れッ! アレに次を撃たせるな!」


『荒鷲』の部隊長、メイデン・ロードレイの声が響き、固まって掃射をしていた兵が各々の身を隠して銃身だけをのぞかせる。

『鷲』の右腕と称されるだけのことはある、と言ったところだろうか。戦力を無駄にしないあたり、優秀な上官だ。が、これで一旦拮抗状態という、この場合においては少々都合の悪い戦況へと転じる。


 自慢ではないが、この場での最高戦力ともいうべきアテナ。装備どうこうの問題ではなく、単純に状況的に不利だ。背後には仲間、そして通路という閉鎖空間。ノアとクロノスという最高の指導者の下、出来上がったアテナという軍人は、漏れなく二人の戦闘スタイルを受け継いでいた。一人で好き放題暴れられないというのは、存外厳しいところだ。


「――っ!」


 二発目、狙撃銃の咆哮が、通路の角ごと吹き飛ばし、二匹目の獲物を狩る。クロノスの腕は確かだ。が、このままではジリ貧というもの。まともな戦闘員は数えるほどしか残っていない。こちらの残弾事情は知れたところ。


 それなりの小銃を構え、美しいフォームでサイトをのぞいているヴィルヘ、彼女であれば幾分マシか。インネはクロノスの狙撃音から逃れ、彼女の背後で戦況を見つめている。真剣な眼差しの姫君は、破裂音に体をヒクつかせながらも、双眸に宿る意志は揺らがない。


 今ならば、多少はなんとかなるだろうか。無論、アテナも八方塞がりというわけではない。いくつかある懸念が大方潰れた今、クロノスの援護があるのならば、やれるかも知れない。相手の装備は単純明快。致命傷は防げるが、剥き出しの関節部はそのままだ。そこを狙えば始末は簡単。メイデンとて一端の雑兵だ、『七核』や、時期候補であった『嵐』ほどではない。


 それに、ノア・クヴァルムであったなら、誰よりも前に立っただろう。彼と同じ道を望むのなら、彼の背

 中を追い続けるのなら、アテナ・ロールはやらねばなるまい。


「大師匠、私が出ます」

「あ⁉︎ アテナ嬢、何を……」

「父様、行かせてください」

「――っ⁉︎」


 覚悟を孕んだアテナの言葉、頑なに呼んでこなかった懐かしい彼の呼び名を口にして、その意志に薪を焚べる。一瞬、くしゃと顔を歪めたクロノはため息をつく。


「……娘を嫁に出す気持ちがわかっちまった。――行ってこい、アテナ」


 ゆっくりと、しかし深く頷いたクロノスを横目に、二丁の愛銃を手にしたアテナは立つ。途端、黒光する銃口が一斉にアテナへと向けられる。


「元『鶯』アテナ・ロール! 聞け、メイデン。貴様を――討つ!」

「馬鹿者がッ! 撃てぇ!」


 高らかに宣言し、飛び出したアテナを弾丸が追う。右から左から、正面から、あらゆる方向からの雨を避け、アテナは手にした銃を放つ。立て続けの三発で、どうにか一人を落とし、そのまま方向転換。


 約束の二秒後に、アンタレスからの援護射撃。敵の掃射が止んだ隙をつき、そのまま一人、二人と関節を打ち抜く。噴き上がる血飛沫に顔を染めながら、放たれる大口径を背で感じ、銃を振り上げた敵の前でかがむ。そのまま吹き飛ばされた兵を盾に、サブマシンガンを構えたメイデンへと向かう。


「武人の右腕、舐めるなよ!」


 雑魚を他に任せたアテナは照準を一点に絞り、引き金を引く。二丁の孕む弾丸が、出し惜しみなしに吐き出されていく。

 身を翻したメイデン、片手の銃を乱射して、アテナから距離を取る。


 ばら撒かれた弾丸を頬に掠めて、アテナは舌打ちする。せっかく詰めた距離を離されて、苛立ちながら再度牽制、踏み込みで懐を目指す。が、メイデンも一枚岩ではない。死んだ部下の銃を放り投げ、視界を塞ぐ。


「っ――!」


 蹴り落として直撃を避ける、その先では、しゃがみ込んでしかとサイトを覗き込んだメイデン。反応して銃を向ける、その数秒、世界は一瞬にしてアテナから遅れをとる。スローモーションになった視界で、メイデンがトリガーを引く。


 アテナの銃は未だメイデンには向いていない。このままでは、確実に間に合わないだろう。どうする、銃を投げて射線を逸らすか。否、非現実的だ、間に合わない。


「死ねぇ!」


 刹那、追いついた世界が咆哮を上げる。そして、アテナは地面に墜落して――


「アテナぁぁぁぁああ!」


 爆音が鼓膜を突き抜けて、直後眼前の敵が吹き飛ぶ。


「大師匠!」

「いつまで経っても世話が焼けんなぁ!」

「お互い様ですっ!」


 吹き飛んだ、とは言ったものの、直撃したのは銃本体。メイデンは健在のはずだ。案の定、うめき声と共に、瓦礫を押し除けて立ち上がる男。


「……『鶯』それほどの地位にいながら、何故反逆など」


 ひしゃげた銃を横目に、腰元のナイフを引き抜く。『荒鷲』の面々は基本射撃もさることながら、近接戦闘における格闘に秀でている部隊。詰まるところ、ここからが本番だ。


「私は師匠についていくだけ、貴様に話してやる義理もない」

「武人の認めた男……『烏』こそ理解不能だ。何が目的だ、貴殿らは」


 さぞ不思議と視線で問う。だが、答えをくれてやるわけにはいかない。そもそも、鎮圧部隊程度の下受けに、そんな機密は荷が重いだろう。


「知りたければ、示してみろ。()がそう簡単に鳴くと思うな」

「抜かすなよ小娘、武人の時間を稼ぐ、それが我が務め!」


 睨み合う忠臣が、その手の得物を構え直す。そして、衝突する。



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