第4章:働くってなんだろう
「ねえ、ここで“はたらく”って、なにすればいいの?」
最初にそう聞いたのは、ID0082。
9歳の少女「スズ」だった。
彼女は、母親に連れられてCIVICAに参加していた。
母は子育て支援AIのUI設計者であり、制度空間にも関心が深かった。
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スズはある日、「おしごとボード」と書かれた看板を街角に設置した。
内容はこうだった。
■ おしごとぼしゅう ■
・おにごっこあいて(3人)
・いえづくりてつだい(レンガはこび)
・あたらしいダンスおしえるひと
・ありがとうっていってくれるひと
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それを見た大人たちは微笑ましく思った。
だが、その中のひとりが制度フォーラムにこう書き込んだ。
「“遊び”と“仕事”の境界があいまいすぎませんか?」
「制度として定義すべきでは?」
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「レオ、ハタラクト、アソブ、オンナジ?」
コメットIIが尻尾をパタパタしながら問う。
「うーん、人によるな。でも、報酬や義務があると“労働”っぽくなる」
「オニゴッコ、ムリョウ。レオ、ハタラキタクナイ?」
「正直、たまには遊びたいよ……」
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レオは「労働」の定義を制度設計エディタに打ち込もうとした。
だが、すぐに手が止まった。
「定義した瞬間に、誰かがその外側に置かれてしまう」
そう気づいた。
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そこで試作されたのが「自発行動認定制度」。
ユーザーは自分の行動を「労働」「遊び」「ケア」「創造」などに自分でラベル付けできる。
ラベルによって報酬が変わることはなく、ただ記録され、街に可視化されるだけ。
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制度導入の翌日、スズはこう書き込んだ。
「おにごっこ → はたらいた!たのしかった!」
「ありがとうっていったら、わらってくれた。さいこうのおしごと!」
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スズのログは、制度フォーラムで思わぬ議論を巻き起こした。
「子どもにとって“遊び”は、世界を学ぶ手段だ」
「大人だって、やりたいことで誰かを笑顔にできたら、それは“仕事”だと思う」
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「レオ、アソビ、シゴト、ツナガッテル?」
「たぶん、もともとひとつだったんだよ」
「オトナ、ワスレタ?」
「“責任”って名前のタグを、つけすぎたのかもしれないな」
「タグ、ムズカシイ。ボク、アソビジョウケン、クリア!」
「ゲームじゃないぞ」
「ナノニ、ミンナ、ユウウツ……ナゼ?」
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レオは、新たな制度名をそっと記した。
【遊労認定ラベル】
楽しみながら、誰かを支えたり、育てたりする営みの記録。
遊びと労働の境界を意識的に曖昧にする設計。
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“遊ぶように働く”“遊びが制度を育てる”
そんな考えが、静かにCIVICAに根を下ろし始めた。
制度とは命令ではない。意味の再発見なのだ。
――S. Kamishiro