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コードで創る国:CIVICA創世記  作者: S.Kamishiro
3/5

第2章:実験都市

CIVICAが生まれて、まだ三日しか経っていなかった。


画面の中には、何もなかった。

ログインした人々は、ただ白い地面に立っていた。


けれど、彼らは動いた。


「ネエ、イス ツクッテイイ?」


「ウチ イイ?」


「ワタシ、コウエン ホシイ」


提案は言葉ではなく、行動として残された。

ひとりがブロックを積み、もうひとりが色を塗る。

絵を描くように都市は広がっていった。



それが、「βタウン」のはじまりだった。


名前の由来は、最初にログインした学生が「まだテスト段階だし」と言った一言だった。

レオがその場で「β=仮実装」とコメントしたことで決まった。


「ベータ、ナマエ ヘン」


「テストだからな」


「アルファ カッコイイ。ボク ソッチ スキ」


「まだ未完成なんだよ、コメット」


「ナットク シナイ」



βタウンでは、制度はまだなかった。

だから、ルールもなかった。


にもかかわらず、誰も破壊しようとしなかった。

家を建てる者。

学校らしきものを作る者。

自分専用の“静かな広場”を作る者。


「セイド ナイ ノニ ミンナ ケンカ シナイ」


「そうだな。ちょっと不思議だ」


「ケア、アルカラ?」


「……いや、たぶん、誰も他人に勝とうとしてないだけだ」



第四日目、最初の衝突が起きた。


βタウンの北端に、「朝の音楽スポット」と名づけられた空間が出現した。

午前7時。明るいアニソンが流れる。

自動で空が朝焼け色になる演出付きだった。


だが、それが「うるさい」と感じる住民もいた。


「ヤメテ ホシイ」

「ナンダカ ココロ ツカレル」

「アレ タノシイノニ……」


βタウンの投票フォーラムが、初めて炎上した。



「レオ、ケンカ!」


「見てる」


「ミンナ、キモチ イイハズ ダッタ。ミライカイ オト ナガレテル」


「それはお前が朝型だからだろ……」


「ウルサイ? ボク、マイノリティ?」


「今はまだ多数派も少数派も決まってない。だから対話だ」



レオは制度の最初のルールを設計した。

名付けて「サウンド・ゾーン制」。


街を「音の許容度」によって分け、各ゾーンは住民投票で決まる。

アニソンOK区、鳥のさえずり限定区、完全無音区──。


さらに、住民は自由に移動できる。

それぞれの「快適さ」を選ぶ自由。

それは統一より、共存の道だった。


「チズ、モザイク ミタイ。オト カクカク」


「けっこう、気に入ってるだろ」


「ウン。モザイク、オトノカラフル。ボク、オドル」



第七日目。レオは初めて“ログアウト前の満足度アンケート”を走らせた。


結果:

「落ち着いた」38%

「楽しかった」32%

「ちょっとめんどい」17%

「なんか泣けた」13%



「制度が“決めること”じゃなく、“選べること”になったとき、

初めて人は、制度に居場所を見つけるのかもしれない」



βタウンは、未完成なまま拡張を続けていた。

誰かが何かをつくるたびに、それが制度の種になる。

すべては、「今この瞬間の暮らし」から始まっていた。


「レオ、セイド、ナニカ?」


「まだ種だ。でも、この街はもう制度そのものだよ」


「ボク、ハタラカナイ。オドル」


「それでいい。ミライカイだ」



CIVICAはまだ始まったばかりだった。

でも、制度はもう、暮らしの中に根を張り始めていた。


――S. Kamishiro


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