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モノトーンにあこがれて  作者: 渡利恵いち朗
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キラ恋1 桃山はるかのキラキラ

「わぁ! はるかちゃん、その髪の色ってあのアニメのキャラと同じだよね!」


 ママはストレスがあるとわたしに好き勝手おもちゃにする癖がある。


「うん。どうかな? 似合う、かな?」


 小学に上がる前に髪の毛は金髪だった。小学生になるまえにピアスを開けられた。とても痛かった。でもママが「ママとお揃いのピアスにしょうねぇ」と気分もよくてニコニコするからわたしも頷くしかない。


 愛想笑いをしてママに「ありがとう」っていうことしかできなかった。ママは漫画家だ。いつもは仕事場に缶詰をする日も多いけど、スランプやストレスがあると帰って来てわたしで発散をする。


 とても小さなころに嫌だったときのことは、いまだにわたしにとって深くトラウマになっていて、口にも思い出すことも出来ない。記憶がなくなるからだ。般若のようなママの顔も瞼の裏に植え付けられている。


 だから、ママのご機嫌をそこねてはいけない。


「はるかちゃん。そのお化粧可愛い~~!」


「ママがしてくれたの」


 わたしが我慢をして受け入れれば、ママはお仕事をがんばれる。ならわたしもママのために、ママがしたいことをしてもらうしかないと思ったの。


「爪のデコ可愛いねぇ、はるかちゃん」


「ママの知り合いの人にしてもらったんだ」


 女の子たちがわたしの席で、キラキラに引き寄せられてうっとりと見惚れている。見世物小屋の中にいるかのようなわたしから見れば、彼女たちは蛾のようなものだった。


 自身たちにないキラキラに憧れて近寄って、自身たちもこうなれたらと夢を見る。でも現実は美しくなんかない。ただのストレス発散をされた結果なんだから。


 される身からしてみれば――気持ちが悪い、以外に何を思えばいいのか。

 愛想笑いで彼女たちに自慢をする。


 いいでしょう?

 キラキラでしょう?


 可愛いでしょう????


 あなたたちもこうなれるのよ。

 親のストレス発散が子ども相手のお人形ごっこならね。それ以外じゃないことを祈ってあげるけど、わたしのママが特殊なんだと思う。


 ママは漫画家で想像とエンタメを提供する側の人間だから。

 

 我慢をした結果。わたしの小学生時代は最低最悪で幕を閉じた。


 キラキラと眩しくて色んな蛾が回りに飛び始めて、色んな沙汰になってしまったからだ。


 でもママのストレス発散は続いた。

 中学進学をしてさらに悪化した。


「はるちゃん。それって限定の香水じゃん?!」


「ママがくれたんだ。つけてみる?」

「うんうん! つけるつける!」


 大人の人が使う本物をくれるようになった。お化粧もだ。化粧水も乳液も何もかも、わたしをキラキラと可愛く輝かせるために、自身の満足のために、他の誰かに自慢がしたいがために!


 ママはわたしを染めていくんだ。


「くさ」


 わたしの横を通り過ぎた女の子が、鼻先に手を当てて眉間にしわを寄せて吐き捨てた。


「ぇ」

「感じわりーなぁ~~ったく! あの女!」


 香水を持った友人ががるがると威嚇をする。ああ。あれはわたしに言ったのか。ようやく友人の怒りに合点がいった。


「あの子。知り合いなの?」

「はァ? 同じクラスの地味子だよ!」

「地味子????」

「そう! 全身真っ黒でぱっと見の優等生モデルで面白味もなんもない女! たしか美術部? だったかな? 地味子らしいよねぇ~~」

「同じ、クラスなんだ」


 はっきりいえば、わたしはクラスメイトの顔も名前も覚える気なんかなかったから記憶になんかない。


 中学三年生。今年が受験。わたしにとってのチャンス。

 もちろん、ママから自立するための高校受験。弟の(かなえ)には逃げた憎い姉になるかもしれないけど。


 いつかきっと、お姉ちゃんの苦しさも辛かった日々も肴にお酒なんか呑んで笑って会える日は来ると信じている。


 そのいつかの日のためにわたしはママから逃げる。出なければ染まってしまったわたしはダメになる。


 いつかわたしはママを大嫌いになるだろう。

 憎くなるだろう。


 そうなる前にわたしは逃げるの。


「名前。なんていうのか知ってる?」

「え? 地味子ってしか覚えてなんかないよ」

「そう、っか」

「はるちゃんってば~~急にどったのさぁ~~!」


 友人が香水の瓶をわたしに手渡そうとして落とした。

 割れはしなかった瓶だったけど、スゴイ音が廊下に鳴り響いた。


「めんごめんご」なんて友人も謝る。廊下をくるくると回ってどこへと進む瓶をわたしも追う。変に注目を浴びたくないわたしも冷や汗をかいた。


 視線の先の瓶が誰かの足に当たって止まった。


「ごめんね。瓶が落っこちちゃ――……」


 足の主へと愛想笑い全開で顔を向けると、それは奇跡。


「ぁ」


 ひょいと瓶を細い手が拾い上げた。


「校則違反でしょ。こんな、ぅわ。めちゃくちゃブランドもんじゃん! もっとしっかり管理しなきゃダメじゃない! 桃山さんっ」


「ごめん、なさ……ぃ」


 初めて顔を見て、初めて名前を憶えて、初めて会話をして、初見なのに地味子に怒られた。


 どういう反応を返すことが正解だったのか。

 怒る? いや、それは逆ギレだ。彼女の注意は当たり前で言い返すなんてのはお門違いだ。


 悪いのは落としてしまったこっちに非があるのは紛れもない事実だ。しゅんと受け取ったわたしに地味子が苦笑する。


「? 何????」


「近くで嗅ぐといい匂いなんだなって思ったの」


 はにかむ顔の幼さと可愛さにわたしの胸が騒ぎ出した。ママといるときとは違う胸の高鳴り。そして、地味子がキラキラに見えた。地味地味なのに。一体どうしてだったのか。


 地味子との会話は、この日限りだった。


 彼女の名前を知らないまま。覚えらえないまま。

 わたしは高校受験をして受かり、寄宿舎のある高校への避難に成功をした。


 そして、ママは弟に寄生してなんやかんやと上手くいっていると、恨んでないよと叶からラインがあった。8歳離れた弟はマザコンだ。ようやく手に入れたママにご満悦なのは容易に想像ついた。


 わたしの心配なんて要らないものだった。それには安堵だ。ようやくわたしはわたしの好きなようにキラキラになれる人生を手に入れたのだから無敵モードだ。

 異世界転生ばりに生まれ変わるチャンス。


 JKデビューは免れた。


「地味子にわたしはなる!」

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