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少女の人となり

「…」 


「…」


気まずい雰囲気が陸たちの間に広がっていた。立派な一軒家が並びたつ住宅街を陸とアカツキは微妙な距離を保ったまま歩いている。なぜか陸が先頭なので、時々道を間違えてアカツキに訂正されるを繰り返している。何故だ。あのナンパの一件からアカツキはずっと無言のままだ。気を遣ってしてやれることなど、陸には何もなかった。一応心配なので、帰りは送るぞと声をかけた。まさかガチでここまで着いてくるとは思ってもなかったが。


「あの..」


「私の家ってさめちゃくちゃ金持ちなんだ。」


あとどれくらいで着くかという質問をしようとしたが、その前にアカツキが重ねて喋り始めた。3歩ほど前を歩いているため、顔を見ることはできない。ただ、あまり良くない雰囲気が漂っていることは流石にアカツキの言葉から理解できた。


「好きな物を食べれて、好きなことができる。何でもあるし、何でもできる。だから、だからさ…」 


後ろから聞こえてきていた足音が止まった。後ろを振り返れば、アカツキは顔を深く俯かせたまま立ち止まっていた。アカツキが放つ独特な気配は負の感情を纏い始めた。触れてはいけないところまで、いつの間にか踏み込んでしまっているようだ。地雷処理は陸が最も苦手とする事の一つである。


「私って幸せなんだ。」


陸は久しぶりに空っぽの言葉というものを見た。目の前の少女はタティアーナとアカツキがちょうど半分で混ざり合っている。黒髪がそうさせるのだろうか、まるで別人と対峙しているようだ。何が理由でこんなことになってしまったのだと、陸の頭でぐるぐるとヒヨコが回り続けている。少女の状態はおおよそ普通ではない。こんな時どんな言葉をかければいいのか陸には分からない。そもそも陸はこの少女について何も知らない。一昨日あったばかりなのだ。ただ、陸は少女に自分を重ねた。『幸せ』を履き違えていた頃の自分に重ねた。言葉は自然と口からこぼれた。


「幸せなら、それでいいんじゃないか?」


今の陸が出来ることは突き放すことだけだ。陸は少女を見下ろす形でそう言った。少女は顔を跳ね上げ、偽物のブラウンの瞳が陸を見つめる。そして、またすぐに俯いた。


「幸せじゃない...幸せじゃ、ないよ..」


声が揺れている。その言葉にはどこか現実味があった。肩を震わせながら嗚咽を漏らす。陸は何故か、少女とは長い付き合いになる気がした。少女の袖をちょこっと掴み、白線の内側に連れて行く。車通りが少ないとはいえ、ど真ん中で立ち尽くすのは流石によくない。少女から手を離そうとした瞬間、少女に手を掴まれた。すぐに少女は手を離したが、やがて陸の中指だけを軽く握った。陸は何も言わずにただそれを受け入れた。美少女とデート出来てラッキーという気持はいつの間にかどこかに消えていた。思ったよりもノスタルジックな自分に陸は苦笑いでこたえた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ごめん、変なこと言っちゃって。」


アカツキの家は想像通りの豪邸だった。車庫には、車に全く興味がない陸ですら知っているブランドカーが複数台並んでいた。白と黒を上手く使ったオシャレな外観は、the今どきの家という感じだ。もちろん玄関の前には門扉がある。


「まあ、貸し一でいいよ。」


陸たちはその門扉の前で別れの言葉を交わしていた。アカツキのメンタルは家までの道のりで随分安定した。


「『全然大丈夫だよ。』ぐらいの言葉も言えないの?そんなんだから幼馴染に振られるの。」


クソガキ度合いもどうやら回復してしまったらしい。どっちが素かは知らないが、どっちでも面倒くさいことには変わりはない。陸は目の前の少女をまじまじと見つめる。少女の中に抱え込んでいる物があることぐらい、聞かなくてもわかる。こじ開けるのは陸の好みではない。陸はそこで、かなり自分がアカツキに入れ込んでいることに気付いた。その驚きはすぐに顔にでた。


「な、なによ。人の顔をマジマジと見て。なんか文句あるわけ?」


「え?いやあ、いつまで手、握るのかなって。」


「なッッ!!」


アカツキは急いで俺の指から手を離した。その顔は思ったより羞恥を浮かべていた。可愛いという感情よりも庇護欲が湧いて出てきた。これが、父性なのかもしれない。


「それじゃ、また明後日。」


そんなふざけたことを考えながら陸はアカツキに軽く礼をした。思いがけないところまで来てしまった。アカツキは陸が思うよりも複雑だ。今アカツキが陸をどう思っているかなど、見当もつかないだろう。アカツキにも友人はいる。それは現実でもゲームでもどちらにもだ。ただ、アカツキとタティアーナの二面性を正面から受け止めたのは陸が初めてだ。綺麗に分かれ反発しあっていた感情が、少しずつ混じり始めた。


「あ、あのさ。フレンドコード、送るから。」


「え?」


「だから!ストXのフレンドコード送るから!じゃ、それじゃ、ばいばい!」


吸い込まれるようにアカツキは家の中に消えていった。陸はただ唖然とすることしか出来なず、思わず頭を抱えてしまう。


「マジかよ。」


付き合いは。長くなりそうだ。



ジュラシックパーク観てました。再浮上します。

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