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第三話 少女の表と裏の顔

「おはー、陸。てかその隈どうした、人相ヤバいぞ。」


「うるせえ、昨日ゲームしてたら止まらなくなったんだよ。」


教室に入ると真っ先に峻也に話しかけられた。隈をいじられることはもう想定済みだ。その後も、峻也と今日の授業や宿題について話していた俺だったが、周りにある違和感を感じる。


「なんか、ざわついてね?お前なんか知ってる?」


クラスメイト達の落ち着きがないのだ。毎日何らかの理由で朝焦っている生徒はいるが、ここまでクラス全体がざわざわしているのも珍しい。


「あー、何か俺も話聞いてみたんだけど、転校生?が来るとかなんとか言ってたぞ。」


「ふーん...」


峻也に期待したのが間違いだった。彼女以外に基本的に興味を示さないのが峻也の特徴だ。俺は周りをきょろきょろ見渡すが、話せるような奴は峻也以外にこのクラスに存在しない。


「まあとりあえず佳奈ちゃん先生が来るまで待機だな。」


峻也にしては珍しくいいことを言ってくれた。それからしばらく峻也と今日の授業や課題について話していると、朝の予鈴がスピーカーから流れる。方々に散らばっていた生徒たちが、一斉に急いで自分の席に戻り始める。それは峻也も例外ではない。予鈴から一拍おいて、前の扉がガラガラといって開く。


「はーい、早く席についてねー。」


入ってきたのは俺たちの担任である佳奈ちゃん先生だ。頑張らなくても中学生に見えるスーパー童顔に低身長、黒髪ボブと丸メガネで、彼女は生徒に親しまれているし、舐められている。でもなんやかんややる時はやるし怒る時は怒るので、ちゃんということを聞く生徒が大半だ。


「おけ、ちゃんと全員いるね。じゃあまず、ショートHRを始める前にみなさんにお知らせがあります。」


手元にある出席簿になにか書き込み、佳奈ちゃん先生はまるで幼稚園児を相手にするかのような口調で言った。教室が色めき立つ。ある奴は机をバンバンと叩き、またある奴は後ろを向いて友達と何か話している。俺はパソコンを隠れ蓑に、一時間目の英表の課題を必死に写していた。チラリと峻也の方をみると、あいつは興味なさそうに頬杖ついてほぼ半分目を閉じていた。あの状態でもイケメンなのは少々ずるい。


「まあ皆もう噂には聞いてるだろうけど、先週ここ花房高校とすぐそこのね、聖隷高校との間で生徒間交流会を実施するというのが正式に発表されました。それに伴って、今日から二週間私たちのクラスで一人の生徒を受け入れることが決定しました。」


雄たけびが教室を揺らす。思春期の男子の渇望はすさまじい。俺も大声を上げて叫びたい気分だが、どう考えても悪目立ちするのが目に見えているので、じっと課題を写すのみだ。もう一度峻也のほうに目を向ければ、雄たけびを上げていた。マジかよこいつ。聖隷高校はいわゆるお嬢様学校で、女子大付属の中高一貫の女子校。箱入り娘を愛する親のために作られた学校だ。まったくもって謎なのは、なぜそのような格式高い高校と、花房高校のような一私立高校が交流会を行うのかということである。俺はようやく課題の半分を写し終えた。


「二週間という短い期間ではあるけど、同じクラスメイトであることには変わりありません。皆さん、仲良くするようにしてください。それじゃあ、どうぞー。」


佳奈ちゃん先生が言い終わるのと同時に、一人の女神が教室に入ってきた。先程まで雄たけびを上げていた男子が、全員見とれている。改めてみても、完成された美しさを彼女は放っていた。全員の動きが止まった教室を彼女は堂々と歩く。丁度真ん中の所で止まると彼女はホワイトボードに名前を書き始めた。


「聖隷白鳳院女子大付属高等学校から参りました、清水タティアーナ仁香です。タティアーナとお呼びください。二週間という短い間ですが、どうぞよろしくお願いします。」


最初はパラパラといった拍手が、一気に盛大になる。クラスメイトもようやく目が覚めたのだろう。俺も笑顔で大きく拍手するが、向こうの顔が全くこちらを向かない。彼女はどうやら恥ずかしがり屋らしい。峻也の方に目を向ければ、彼はスタンディングオベーションをしようとしていた。お前が一番ダメだろ。



「タティアーナさんって、ハーフなの?」


「ええ、父がロシア人で母が日本人のハーフです。」


「タティアーナちゃん、連絡先教えてよ。」


「すいません、今日は携帯持ってきてなくて...」


「タ、タティアーナさん、良かったら今日の放課後...」


「ごめんなさい、私今日はちょっと用事が入ってて。」


彼女は一日中誰かに囲まれて生活していた。休み時間や昼休みに囲まれるのは当たり前。酷いときには授業中に紙でメッセージを送る奴もいた。俺はその様子を遠巻きに頭が一部腫れあがった峻也と見るだけだった。峻也の頭は言わずもがな美樹にお仕置きされたものである。

7限目が終わり、放課後となった。ありがとうございましたを言い終わった瞬間に彼女に突撃する奴は後を絶たなかったが、それを笑顔で何とか切り抜け彼女は教室から出て行った。


「おいおい陸~。結局お前見てるだけだったじゃねえか。声かけなくてよかったのか?待ってるだけじゃ進まない恋はあるぞ?」


「うるせえ、恋かどうか決めんのは俺だ。」


峻也のダル絡みをいなして、カバンを背負う。峻也にまた明日と言うついでに思いっきり背中を叩いておく。いつもであればこのまま家に帰るだけなのだが、今日はちょっと違う。俺は昼休みの時に机の中に入っていたメモ書きを取り出す。そこには『今日 ゲーセン 来い』とだけ書かれてあった。俺は汚い笑みを浮かべながら、学校を出てゲーセンへと向かった。


「なんでお前がいるんだよ!」


小声ながらも中々の圧力で俺は彼女、というかアカツキに詰められていた。ここはゲーセンではない。ゲーセンのすぐ横にある路地だ。


「いやー、俺にそう言われても困るというか、何というか。」


昨日と同じようにまた壁に押しつけられていた。昨日と違うところと言えばアカツキが完全に顔を出しているということだろう。感情の起伏がよくわかる。今は多分アカツキなのだろう。


「とりあえず、私たちは出会ったことも喋ったこともない。ただの赤の他人!それと、できるだけ学校でも会話しない。いいね?」


アカツキのマシンガントークが俺の心を貫く。今まで不足していた可愛い顔成分を前面に吸収できているので、何故か心は落ち着いている。


「あの~、一つだけお願いしても宜しいでしょうか。」


アカツキのマシンガンがピタリと止まる。黙ったまま続けろと言っているのが顔を見ればわかる。タティアーナとは違い、こちらは顔に感情が出やすいらしい。


「今週末、買い物に付き合ってくれません?」


「は?」




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