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第一話 春の終わりと始まり

桜が舞い散る季節の頃、俺は幼馴染といつもの桜並木を通って登校していた。幼馴染の名前は鈴谷未沙。親同士が友達で、生まれた日が一緒ということもあってずっと付き合いがあった。幼稚園、小学校、中学校、さらには高校までがすべて一緒で、ほぼ毎日この桜並木を通って登校していた。未沙の容姿は幼馴染という引き目で見ても可愛かった。美しい黒髪をポニーテールでまとめ、顔は一つも無駄がなくすべてのバランスが完璧に整っていた。どんどんきれいになっていく未沙に、接し方を変えようとした時期もあったが、未沙の天真爛漫の明るさもあり未沙と俺の関係は初めてこの桜並木を歩いた日から何も変わっていなかった。

そう、いなかったんだ。今日までは。


「ごめんだけど、もう陸と一緒にいれない。」


俺はその言葉を正常に処理することができない。唐突に立ち止まった未沙が放った言葉は俺の脳みそをフリーズに追い込んだ。未沙の顔ははっきりと見えない。微笑んでいるのか、悲しんでいるのか、それとも無表情なのか、俺にはわからない。


「じゃ、そういうことだから。」


未沙のその言葉はおはようの言葉のように軽かった。未沙が横を通り過ぎて行く。俺は何も言えずに、ただ呆然と立ち尽くした。


「え、ええええええ!!!」

何分か経って、ようやく状況を理解した俺は驚きと絶望が入り混じった声を出した。そのうち自然と恋人になるんだと、俺は勝手に思っていた。恋人という名前がついていないだけで、勝手にもっと深い関係になったんだと勘違いしていた。俺は通学カバンを地面に落とし、膝をついて改めて絶望する。付き合いがある女子なんて、未沙と親友の彼女ぐらいしかいない。ああ、終わったんだ。俺の青春。

神坂陸、17歳。俺の春は一度ここで終わった。


「意気地なし。」



「ねえ俺どうしたらいいのおおおお!!」

四限目の終わりのチャイムが鳴り、適当に省略したありがとうございましたを言った俺は、親友の席に突撃しダル絡みを開始した。


「おいやめろやめろやめろ、きしょいきしょいきしょい。」

この暴言を言っている金髪爽やかイケメンは俺の親友の峻也だ。一年二年と同じクラスで、妙に馬が合うので毎日一緒にいる。ちなみに彼女持ちだ。


「いやーさあ、まあなんかよく考えて行動したら?」

峻也が俺のダル絡みをすり抜けて、制服の皺を伸ばす。ご察ししますみたいな視線を向けられる。俺は峻也の言い方に含みを感じとって、両肩をつかんで食ってかかる。


「なあ峻也、何か気づいたのか?頼む!何でもいいから教えてくれ!」

俺からすれば最早手詰まりの段階はとうに通り過ぎていた。あれから何日も経ったが、どうにかコミュニケーションをとろうとしても、何かにつけて避けられてしまっている。正直言って、心が折れそうだ。


「うーん、俺が言うのもなんというか、なあ?なんかあれだし...」

峻也は両手を上げて顔を明後日の方向に逸らす。どう見ても何か気づいた顔をしている峻也を逃がす気はない。峻也の肩を激しく前後に揺らして問い詰める。


「おいおいーい、なにやってるのさお二人さん。痴話喧嘩ならよそでやってよね。」

俺と峻也の間に入って場を仲裁したのは、峻也の彼女である美樹だ。俺がどうにもならないと頭を抱えながら、峻也の机に突っ伏す。


「わおわお、どうしたの。いつにも増して不安定だね、神坂君。」

美樹が俺のせいで乱れた峻也の髪の毛を直している。今までは何とも思っていなかったが、こう見ると100%天然の甘味が強すぎて吐き気がしてくる。


「こいつが情緒不安定なのはいつものことだけどな。まあ、今回は結構特別だよ。」

峻也の辛辣な言葉に耳をふさいで床に体育座りをする。峻也が美樹に事情を説明しているのがとぎれとぎれで聞こえてくる。


「え?でも未沙ちゃんってさ...むぐっ」

何かを言おうとしていた美樹だったが、峻也に口をふさがれて何処かにズルズル引きずられていく。

そんな今の俺とは最も縁遠い光景を見ながら、昼ごはんの準備を開始した。


「(美樹、あんまり余計な事いうな。)」


「(なんでよ!神坂君って絶対未沙ちゃんの好きピだよ。それもかなり年季の入った。)」


「(だからだよ。鈴谷さんには鈴谷さんの考えがあるんだろ。外野の俺らが口を出すことじゃない。とりあえず、今は見守っておこう。)」


「(...りょうかーい。)」


俺は峻也の席に座って、弁当の白米を一粒ずつつまんでいた。峻也と美樹からカタコトの励ましのメッセージが飛んでくるが、全部俺に届く三歩前で全部落ちていく。峻也の『そこどけよ。』という言葉だけは俺にまで届いたが、もちろん聞こえないふりだ。

はあ、おれの青春どこに行っちゃったんだろう。



「………!」

その日の放課後、俺は学校近くのゲーセンでストレス発散をしていた。いつもは遊ばないUFOキャチャーやメダルゲームなどもしたが、結局アーケード版ストXに戻ってきていた。対戦する相手などどこにも居ないので、NPCと一人相撲である。


「嘘だろ、マジかよー。」

だか、いつもは勝てるはずのNPCに勝てない。俺は思わず台に倒れ込んで腑抜けた声を出す。いつも頭の片隅には美沙の顔がある。それゃあ10年以上の付き合いだから、喧嘩をした事は何度もある。でも、どんなに酷い喧嘩をしても朝の通学だけはほぼ毎日一緒に行っていた。それで仲直りするのが俺たちのセオリーだったんだ。


「ちくしょう!俺はどうすれば…」

苛立ちに身を任せて台パンをしようとしたが、俺の理性がそれを止める。その代わりに襲ってくるのは喪失感と果てしない虚しさだ。俺はもう一ゲームしようとコインを入れようとする。


ツン ツンツン


「え?」


脇腹をかなりの威力で三回突かれた俺は、顔を横に向けて誰がいるのかを確認する。先生だとだるいなと思いつつ、見るとそこには座った俺と同じぐらいの背丈の多分少女がいた。灰色のパーカーを深くかぶり、マスクとサングラスもつけているため、格好は完璧に不審者だ。


「えっとー、どうしたのかな?迷子?それならあっちのお兄…」

背丈という先入観に引っ張られた俺は、多分少女を迷子として対応することを決めた。

しかし、俺の言葉か終わる前に少女は俺が座っている台を指差した。


「そこ、私の台なんだけど。」


「は?」

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[一言] 幼馴染みも友人達も頭おかしい
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