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第3話:山賊が襲って来たんだけど

 山のふもとまでは馬車に乗って行くことになった。青蘭と飛翔は兵士を率いて馬に乗っているが、私と翠蓮は馬車の中だ。

 馬車の窓から見える景色は最初は白い土壁と朱塗りの屋根が続いていたけども、それが農村に変わり、とうとうそれすらも見えなくなった。

 景色が退屈になったせいで眠気が襲ってきたので、眠気覚ましがてらに私は向かいに座っている翠蓮にこの後のことについて訊ねた。


「あの……祠までどのくらいかかるんですか?」


「そうですね。半日くらい見ておいた方がいいかもしれません。昔は山の祠へ続く道も整備されていたそうなのですが、きっと今は荒れ果てていることでしょうから」


 これは思った以上に大変な行程になりそうだ。私の表情を見た翠蓮が申し訳なさそうな表情をした。


「違う世界の方を私どもの都合で呼び出して大変なお役目をお願いしてしまい、何とお詫びすれば良いか……」


「いえ。連勤で死にそうだったから、むしろ助かったっていうか」


「えっ、助かったんですか?」


「えぇ。営業は不備だらけの書類を山ほど持ってくるし課長は新人教育の資料を明日までに作ってこいとか言うし。他にも今までの発注書を全部データベース化しろとか。とにかく周囲に無茶ぶりされてひたすらこき使われてたから、しんどすぎてもう辞めたいって思ってたんですよ」


「それは大変ですね……」


「――えぇ。だから、呼び出されてよかったかなぁ、なんて」


「そう言っていただけると助かります」


 違う世界を生きる彼が私の事情をどこまで理解してくれたかはわからないが、翠蓮は柔らかく微笑んだ。


 ちょうど話が一段落したところで馬車が止まった。ここからは徒歩になるらしい。

 連れてきた兵士の半数を馬車や馬と共に待機させて、残りの兵士と青蘭と飛翔と翠蓮は一緒に山に登るとのことだった。

 翠蓮は見るからに文官という雰囲気だけど大丈夫なのかしら。


 しばらく何事もなく進んでいたけども歩きながら飛翔が口を開いた。


「なぁ、青蘭、翠蓮。気付いてるか?」


「うむ。これはおかしいな」


「えぇ……気を付けて進んだ方がいいですね」


 辺りは何も変わったことが無いように見える。ゆるやかな山道で思ったよりも進みやすかった。


「何かあったんですか?」


 私のすぐ隣を歩いている翠蓮に声をかける。


「馬車でも言った通り、長い間この山は人の手が入っていないはずなんですよ。それなのに草が刈られ歩きやすくなっています。獣道ではなく、人が通った跡のようですよ」


「しかも複数人だ。賊がいるかもしれない」


 青蘭が物憂げな表情で溜息をついた。

 そして、その予想は見事に当たることになる。


「おぅおぅ。おめぇら、こんなところに何の用だ?」 


 木々の間から、汚らしく髭を生やして革の鎧を着た、いかにも山賊という風体の男たちが十人ほど現れた。

 親分と思われる人物は大きな青龍刀をこっちに突きつけている。


「ここは俺たちの縄張りだ。通りたければ金目の物とその女を置いて行ってもらおうか」


「あ? てめぇらにくれてやる金も女もねぇよ。命が惜しけりゃとっとと消えな!」


 飛翔がそう答えながら槍を構えようとするのを青蘭が制した。


「我々は今から龍の巫女を山頂にお連れせねばならないのだ。巫女はこの国の天変地異を鎮め、龍の加護を得る為の大切なお方。わかったなら、黙ってそこを通してもらえないか?」


 青蘭は事情を説明しようとするが、山賊は聞く耳をもたない。


「あぁぁん? 巫女だぁ⁉ こちとらそんなの関係ねぇんだよ。怪我したく無かったらさっさと女をこっちに寄こしな! 俺たちで可愛がってやるからよぉ!」


 山賊たちは下品な声をあげて笑う。さすがに不快極まりない。


「ならば交渉決裂だな。巫女は何があっても渡すわけにはいかぬ。……翠蓮、巫女を頼んだぞ」


 青蘭が腰に下げていた刀を抜くと、飛翔が喜んで槍を構えた。


「おっ、青蘭もやる気じゃねぇか」


「女人にあまりこのような状況を見せたくは無いが、やむを得ない」

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