プロローグ 箸にも棒にも掛からないなら、地獄にすらも行けません
多分自分も地獄にすらいけないと思う(泣)
生きるというのは面倒な事だ。
キチンと宿題を終わらせて、テストに備えて死ぬほど勉強して、ある程度の点数を取る。面倒くさいルールに縛られながら、つまらない授業の内容を書き留め続けて、脳に詰め込む。これが出来ない...もしくはこれから逃げてきた俺みたいな目も当てられないほどのダメ人間にとっては、生きにくい世の中である。
自分の楽しいことだけをやって生きれたらどれだけ楽だろうか。自分が嫌いな人物が消えたらどれ程幸せだろうか。そんな事を考えながら自分の好きな事に耽る日々。
そして今、俺は当たり前の事すら出来ない自分の腐り具合を痛感しながら
「お前、このままだと箸にも棒にも掛からないぞ」
リビングで親父に怒られていた。
イタイ小説ばかり書いてて、勉強なんか碌にしない俺を見かねた父は今年何度目かも分からない説教をする。俺は悪い目付きを精一杯見開きながらはいはいと父の言葉を横に流す。
「康太。少しは勉強しないと、受かれると事にも受からんよ?」
「...分かってます」
気まずくなって、顔を下へと向ける。このままではどこにも行けない。そんな事は分かっている。分かっているが、今更染みついたクソみたいなライフスタイルを変えるのは難しいことだ。
「あのなぁ、お前は将来何になりたいんだ?」
「えっと、IT関連の職業に就きたいと」
「十中八九無理だぞ。今のままだと」
ぐぅの音も出ない正論を突きつけられて、口を閉じる。言い返せないし、言い返そうとも思わない。
慌てふためく俺を見た親父はため息を吐いて、もう言ってもいいぞと目で伝える。それに耐えられなくなって、俺は扉を開けて廊下に出る。
何もない場所へ八つ当たりするように何かを呟きながら廊下を精一杯走って、いつもよりも早く、自室へと向かう。
「んなこと、言われなくても分かってるんだよ、知ってんだよ!」
階段を駆け上がり、目を血走らせて発狂する。ダンダンと音を立てながら走り続け、ちゃんと足元を注視してなかったせいか何もない場所を右足で踏んでそのまま階段を踏み外した。
それだけならよかった
「あっ、ぶ!?」
天からの罰とでも言わんばかりに。思いっきり左足を滑らせる。何も抵抗できず転び、康太は綺麗に顔面からズガガガと音を立てながら滑り落ちていった。
勿論そんな事になって生きている訳がなく、彼の人生は僅か14歳であまりにも短く、呆気ない幕閉じとなった。んだけど...
「...んが?」
数秒後、何事も無かったかのように目覚める。その際、よっこいしょと立ち上がる体は重りを失ったかのように軽く、ふわりと飛んでいきそうだ。
少し変な体の様子に「?」を浮かべながらもそんなものは取り敢えず記憶のゴミ箱へシュートし、数秒前の出来事を思い出してみる。思い出されるのは階段から滑り落ちる無様な自分の一人称視点。
流石に精神衛生上よくなかったのか、首をブンブン横にブンブン振って忘れる。
取り敢えず、あんな目に遭って何故自分の意識が無事なのかを考えることにした。直近の出来事を思い出したって何かいいことがあるわけでもないし。
「まぁ単純に考えて、運よく助かった...訳じゃないよな。頭血塗れだし。何なら階段にも赤い絵の具が...ん?」
下を向いた康太は、血の痕に違和感を覚えた。自分の体は階段の真ん中にあるのに、血は明らかにその後ろにも同じように伸びていた。明らかにおかしい。もしも体から流れて後ろにまで行ったのなら、こんな赤が薄くなるような広がり方ではないだろう。
まさか...と最悪の事態を想定していると、後ろからすすり泣く声が聞こえる。両親の声だ。
「...仕方ない、男は度胸だ!」
意を決して後ろを振り返ると、そこにあったのは自分の死体。そして、それを抱きしめて無く両親の姿だった。
自分の体をよく見ると、全身血塗れで、少々傷があって、すこーしだけ体の色が薄い。
つまり、既に自分は死んでいて、この体は霊体ということが確定したのだ。
「イヤッ、うっそだろお前ェェェェェェ!!!」
頭を抱えて、彼は今年一番の叫び声を挙げた
読んでくださり、ありがとうございました!