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第38話 敵


「そこ!丘の向こうから戦いの気配がします!早く行ってください!」


 私はセルヴィオンさんの後ろに座り、彼を促す。丘の向こうにお父さんが消えたので、つい焦ってしまう。


「分かったよ!でもこれが限度だ!馬も疲れている!」


「兄貴、小さいけど、確か悲鳴が聞こえるぞ!戦闘が起きているようだ!」


「もし戦闘が起きているなら……」


 私は自分の剣を見つめる。もしもパパが危ないなら、これで……その時、丘を越え、その風景が目に入る。


「え?何だ、こりゃ……」


「……」


「うそ……」


 そこは戦いの最中だった。遠くの黒き大地で、たくさんの人々が互いに戦っていて、近くでは人間と動く骨たちが戦いを繰り広げている。


「……パパは?」


 パパを全力で探す。あそこだ。黒き大地の真ん中に走って行って、誰かと戦おうとしている?


「何だ、この戦いはよ……スケルトンって、あんなに群がって戦う奴らだったか!?」


「兄貴、今は取り敢えずあの男と魔女を……」


「ぱ、パパが戦っている!」


「うん?おい、」


「皆さん!ありがとうございました!お礼は後でします!」


 遠いので良く見えないけど、パパが剣を構え、誰かと戦っているようだ。なら私が行かなくては!この馬は疲れていて、もう走れない。この2人も、もう用済みだ。馬から降りて、パパに向け走っていく。


「もしパパに何かあったら、今度こそ、私が助けるんだ!それが家族だから!」


「おい!待って!ここは戦場、1人では危ない!」


 後ろでセルヴィオンさんが私を呼び止めようとするが、彼らのことはもう眼中にない。今はパパのことが大事だ。


「パパ――!!!」


 ……右手で左腕の出血を抑え、ブライアンからの最後の一撃を待っていると、いきなりブライアンの動きが止まった。


「め、メディニア!何でお前がここに!?危ないから来るんじゃない!!」


 倒れたまま彼の顔を見ると、よほど戸惑ったようだ。顔が真っ青になっている。メディニア?ああ、そう言えば、娘があったな。確か、唯一の家族って言ったな。


「そうじゃない。早くこいつを……!」


 彼は素早く気を取り戻し、私に止めを刺そうとする。せめて、右手のガントレットで止めないと……


「……だ、大地よ、我が敵を、包みたまえ……!」


 遠くからネイアの呪文が聞こえる。下から木の根が這い上がり、ブライアンを限りなく縛っていく。腕と脚、胴体が縛られ、彼の身動きが封じられていく。


「っ!?な、何だ、これは!?くそ……!」


 彼は何とかそれを解き放そうとするが、その根は揺れるものの、解かれる気はしない。


「勇者!魔力が足りなくて、あれは長く保たない!今のうちにやって!!」


 ネイアの絶叫じみたその叫びを耳にし、力を引き絞って起き上げる。左腕はボロボロで、血が止まらないが、まだ動くようだ。剣はどこかに行ってしまったな。代わりに、メイスを構える。


『……ああ、任せろ』


「き、貴様……!くそ、この根を、何とか……!」


 彼は私の意中を察したか、全力でもがき始める。その根の縛りが緩くなっていくのが感じられる。早く行かなくては。そう思い、私は動き出す。


「ブライアン!!!」


 ハウシェンと死闘をしていた辺境伯がブライアンを救おうとするが、ハウシェンがそんな彼に刃を向ける。


「おい、貴様の相手はこの私だ」


 ハウシェンは彼を好きにさせる気でないようだ。


「……!?パ、パパ!!!頑張って!私が!私が今助けてあげるから!!!」


 メディニアは危機を察したか、こちらに全力で走って来る。


「勇者!!!早く!魔力が保たない!!!」


 左腕の焼き印が、苛立つほど痛い。ネイアの叫び。ああ、知っているよ。私は左腕の激痛を堪え、全力で走り出す。メイスを握った右手に力を入れる。


『ブライアン!君は、私の、敵……!』


「くそ、何でこんなことに……!」


 彼との距離が縮まる中、彼の右腕の拘束が少しずつ解かれていく。彼は右手の剣で私を斬り付けるつもりのようだ。その行く先。多分私の首か右腕だろう。


『同じ攻撃に、2度もやられるか』


 このままだと全ての拘束が解かれ、身が自由になった彼にやられるのみ。その前、限られた時間内に彼を殺すには、体のどこかで彼の剣を受け止めなくてはならない。相手を殺すために、自分の一部を犠牲にする必要があるとは。ならば、


「……食らえ!」


 彼との距離はもう目と鼻の先。右腕の拘束が解かれ、ブライアンが私に斬撃を飛ばす。息を呑む。


『こんな腕、くれてやる』


「ば、バカな……!?」


 ()()意志通りに動く、血塗れの左腕で彼の剣撃を受け止め、体の他の部分を守る。走って行くせいで、その刃が左腕に深く刺さっていく。さあ、彼の攻撃を受け止めた。これでこちらの番。メイスを持ち上げ、力を入れる。目の前の、無防備に晒された騎士ブライアンの頭を、慎重に狙う。


(……別にいい。戦わなければならない時には、それで敵の頭を潰すのだ。では、ここでお別れだ。少女のこと。良く考えてくれ)


 前にブライアンたちと別れた時、彼からメイスと共にもらった言葉が脳裏によぎる。そうだ、ブライアン。私は、選択を下した。君は、私の敵。だから、死んでくれ。


『うああああ!!!!』


 ブライアンの頭に、私のメイスが振り下ろされる。彼の頭が、私の一撃で粉々に壊れていく。眼球、脳、骨と血が飛び散り、地に零れていく。彼の鎧が、体が、己の血に染まっていく。


「「……」」


『く、そ……』


 その場の全ての者が、ブライアンの死を見届ける。一人も残さず、彼らは全員、声のない悲鳴を上げている。敵を、排除した。だが私も無傷ではない。左腕に深く刺さったブライアンの一撃は、ボロボロだった左腕に止めを刺した。傷に耐えられず、左腕が丸ごと地に落ちる。左腕があった部位から、血が流れ続ける。あの忌々しい烙印のあった腕が、なくなり、その痛みもなくなった。


『はぁ、はぁ、血が、腕が……あの焼き印も、なくなったのか……』


 余りの苦しさに、血塗れの私は、ブライアンの死体の前で挫いてしまう。


「パパァ――――!!!」


 遠くからメディニアの絶叫が聞こえる。鼓膜が破られそうなその悲鳴は、とても、今の自分には耐えがたいものだった。


「ぶ、ブライアン、ブライアン……そんな、他でもない、お前が……」


 辺境伯は、ブライアンの死を目にし、まるで魂が抜けたようだ。


「ふうっ!」


「くああっ!……って、我の剣が……」


 その隙間を逃さなかったハウシェンの一撃。辺境伯は右手に打撃を受けた。その衝撃で、彼は自分の剣を放してしまった。地に落ちた彼の剣が、泥に沈んでいく。


「……これが最終警告。司令の命令だ。降参しろ。でないと殺す」


 武器もなく、首に剣を突きつけられたことで、辺境伯は何かを諦めたようだ。その目は、光を失い、まるで空洞のようだ。


「分かった……降参、する……好きに、したまえ……」


「へ、辺境伯が、降参だと……そんな……」


 両手を上げた辺境伯を見て、騎兵隊は完全に戦意を失った。彼らは次々に武器を捨て、両手を上げる。


『か、勝ったのか……』


 挫いたまま、力の抜けた目で歩兵隊のところを見る。彼らも辺境伯が降参したのに気付いたのか、数百の者が逃げ出し、何人かは降参している。


「だ、大地よ……彼の苦しみを、な、(なぐさ)めたまえ……」


 遠くから、ネイアの声が聞こえる。魔力を引き絞って、私に治癒魔法をかけたのか。おかげで、出血は止まったようだ。だが、気休めにしかならず、依然として立てられない。それどころか、気を失わないので精一杯だ。充血した両目から、一粒ずつ血が零れる。


『もう、終わったか……戦いって、人がやれるものでないな……』


 戦闘も終わり、敵軍は降参。これで全部終わった。しかし、私はそう思っていたが、どうやらそれは自分だけの勘違いだったようだ。


「うあああああ!!!!!」


 向こうから、血走った目のメディニアが、己の剣を握り私に突進してくる。


「殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!!!!」



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