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第32話 策略


『……まずは、装備を用意しないと』


 彼らの様子を確かめる。兵士の場合と同じく、彼らは灰色の奴隷服みたいな服だけをその身にまとっている。今の状態では戦えないはずだ。


『ヨイドさん、彼らが着る服を調達してくれ。ハウシェン、士官を召喚したけど、これから何をすればいいんだ?』


 ヨイドが外に出て、ハウシェンが話し始める。


「はっ。今からは兵士の召喚を。士官がいるので、これで多数の兵士を運用することができます。覚えてください。士官は1機に付き、最大30機の兵力を運用できます。士官は私を含めて現在6機ですので、最大180機の兵士を運用ができます。ここを出て、広場で召喚したら良いかと」


『……分かった』


「……すごい。何か、それっぽくて、」


 ネイアはずっと後ろで私たちを不思議そうにきょろきょろと見ている。


『ネイア、一緒に行こう』


「……うん」


 皆と村の広場に出る。村は戦いの準備で忙しいようだ。


「ここで兵士の召喚を。アルキウムに命じれば、司令の魔力の限度内で兵士を召喚するはずです」


『分かった。え……アルマ・アルキウム。新しい兵士を召喚せよ』


(……アルマ・アルキウム。新規兵士の生成を開始。現在の魔力からの滴定数量、150機。新規疑似魂の記録を開始、完了。召喚を開始)


 広場の地面が青く光り、そこから150の兵士が一気に出現する。その光景に村人たちが驚く。兵士は、前と同じく、目が死んでいる。


「司令、部隊編成を」


『それは何だ?説明を』


「まず糸を意識してください。見えますか?少尉たちや私と、司令が繋がっているのが」


 彼女の言う通り糸を意識してみる。意識しないと見えなかった透明な糸が指から伸びていて、ハウシェンたち六人と繋がっている。


『ああ、見える』


「それが魔力の糸です。それが繋がってこそ、私たちに魔力と命令が伝わり、司令の指示通りに動けるようになります」


『ああ、それで?』


「士官はさっき言った通り、1機に付き最大30本の糸を下の兵士たちに繋ぐことができます。それでその兵士に命令と魔力が供給され、司令の手足になるのです。理解できますか?」


『……まあ、何となく。私が士官たちに命令を出したら、それは糸を通して彼らに伝わる。またその士官の下の兵士たちにも、繋がっている糸を通してその命令が伝わるのか。魔力も私から彼らに自然に流れていく感じか?』


「はっ。その通りです。だから今は士官たちに兵士を配属させた方が良いかと」


『分かった。クライスト以下5名。1人に付き30人の兵士を指揮するように』


「「了解」」


 彼らが手を伸ばすと、そこから私と同じ糸が伸び、兵士たちと繋がる。すると、兵士たちの目に生気が宿り、各自に動き出す。私から伸びた糸が士官たちに繋がれ、また彼らの糸が配下の兵士たちと繋がっていく。


「全員整列!」


 兵士が30人ずつ、五つのグループに分けて私の前に並んでいる。各グループの先頭には士官が一人ずつ立っている。


『各グループを小隊にしよう。指揮官の名前を部隊名にするか。クライスト小隊、みたいに』


「それで良いかと。そしてアルキウムに指示して、今の編成を記録させることもできます。すると、召喚と解除を部隊ごとにできるようになるので、後に役に立つかと」


『例えば今クライスト小隊を召喚解除したら、あの31人が一気に消えるのか』


「その通りです」


『……アルマ・アルキウム。今の編成を覚えておくように』


 頭に右手の指を当て、そう呟く。


(……アルマ・アルキウム。現在の編成、記録を完了)


 にしても、彼らってどれくらい戦えるのだろう。


『ハウシェン。私が召喚した召喚兵って、どのくらい戦えるんだ?戦闘能力の話だ』


 今までの戦いを思い出してみても、自分が戦いに慣れてないから彼らの腕前がどのくらいか判断ができない。


「はっ。端的に言って今はそれほど強くありません。むしろ弱い方だと」


『それは何で?』


「召喚兵は全員、最初は戦闘経験がありません。そして階級も低いので、体のスペックも並みの人と同じ。幸い、戦う術はある程度身に付けているので、基本的な戦闘はできます。士気という概念もないので、恐怖で瓦解(がかい)されることもありません」


『基本的な戦闘はできる……階級が上がるとどうなるんだ?』


「個体に経験が十分に溜まると、自動的に階級が上がります。すると体の筋力や防御力などが少しずつ上がります。もちろん経験により戦闘能力も高くなるので、戦いが有利になるかと」


『そうか、分かった』


 階級ってどれくらいあるのだろう。気になることはまだまだあるが、今はそれほど重要ではない。今はそれよりもっと大事な問題がある。


『兵力に武器と防御具がない……これでは戦えない。装備を探さないと』


 武器がないと完全武装してくる討伐軍に対抗できない。どこかで武器を……


「ゼフのところに行けば、武器があるかも」


 ネイアのその言葉で、やっとゼフの存在を思い出す。


『まずはゼフのところに行くか』


 皆とゼフの店に赴く。そう言えば、彼とはまだ会っていなかったな。彼からは前に助言をもらったんだ。顔を出さないと。



「……で、こちらに帰って来た訳か」


 ゼフの武器屋で、ネイア、ハウシェンと共に彼と向き合う。


『……ああ、ゼフ。武器が足りない。君が必要だ』


「……」


 ゼフは私の目をじっと見つめる。


「その目、やったのか」


 それは多分、私と最初に会った時、彼が尋ねたことを言うのだろう。人が殺したことがあるか、という。


『無論、人を、私の敵を殺した。この手で』


 ゼフは悩んでいるように見える。何か問題を抱えているのか?


「……お前は、何を感じたんだ?」


『うん?』


「ただ聞きたくてな。あの人を殺した時、何を感じた?」


 ゼフは暗い顔でそれを尋ねる。ピエール司祭を斬首した時、自分は何を感じたか。


『……それは』


 あの時を思い出す。私を拷問して、処刑しようとした彼の両脚を潰し、苦しみにもがく彼を、ラブレの剣で首を切った時、自分が感じたのは……


『ああ、それって、極めて甘美だったな』


 ふと、にやっと笑ってしまう。そう、それは痛快そのものだった。やはり、自分に害を与えた奴には、やり返してあげないと。目には目を、歯には歯を。


「……そうか」


 ゼフがどこかおかしい。何でそんなに後ろめたいのだろうか。


「……さっきの広場でのあれを見た。司祭の首を皆に見せて、村中がそれに熱狂する……」


『そうだったな』


「俺は、その時、ぞっとしたんだ。あれは、正気じゃない。例えその人が悪い奴だとしても、その死を目にして、喜ぶなんて」


『え?』


 彼の言うことが理解できない。この村の人たちは異端審問官が嫌いなんじゃないのか?


「それじゃ、魔女の処刑を見て喜ぶ人たちと、何も変わらない」


『……ああ、そういうことか』


「これだけは覚えてくれ。人は、どうあれ人を殺すのに楽しさを感じてはいけない」


 ゼフは殺人を悪く思わない私と、司祭の死に喜んだ村人たちに警戒心を覚えているのか。確かに、その考え方もあるか。


「……いや、今のは忘れてくれ。ただの戯言だった。武器が必要だろう?そりゃ戦うには必要なはずだ。ここにあるもの、全部持って行って構わん。それが俺にできる唯一なことだ」


 彼の目を見て何となく感じる。ゼフは今、己の中での何かしらの悩みに区切りをつけ、気持ちを整理したようだ。まあ、今はそれで十分だろう。


『ありがとう。にしても、ゼフ。戦わないのか?』


 見る限り、彼は背も高く、体付きも良い。武器屋だし、戦闘もできるはずだ。彼が戦力としていてくれれば役に立つに違いない。


「……まあ、昔は俺も戦士だったけど、もう戦わない。そう誓ったんだ」


『え?それはどういう?』


「……事情があったんだ。あまり聞かないでくれ。それでもう戦えない。武器は全部持って行っていいから。頼む」


 ゼフの顔を見る。顔色がとても悪く、汗をかいている。その目、怯えているのか。


『……分かった。全部隊、順序に装備の搬出を開始せよ』


 戦士だったなら何としても連れて行きたいか、そうしては危ないと自分の本能が告げている。惜しいが、今は放っておくか。ゼフ、ただの武器屋かと思ったが、私の知らない事情を抱えているとは。


「……ゼフ」


 ネイアがゼフをじっと見つめる。


「ネイア、お前も、行くのか」


「……うん。戦うと誓ったから」


「……」


 それを聞き、ゼフは何も言わない。



『ふむ。こんな感じか』


 ゼフの店から武具を全部取り出して、数を確かめる。私の兵力の数は、ハウシェンを除いて155名。だが、その全員を武装させるには装備が足りなかった。武器は130人分しかなく、兜、鎧、盾といった防具は110人分しかない。


『……武装が足りない……これで戦えるのか?』


 防具はともかく、戦うには必ず武器が必要だ。それを補うためには、


「司令、村から武器になるものを集めた方が良いかと。何なら徴発しても構いません」


 私が悩んでいると、ハウシェンがアドバイスをしてくれるようだ。


『村人が武器を持っているのか?民間人がそんなの持っているはずが……』


「武器として使えるものはあるはずです。このままだと戦闘で負ける可能性が高いかと」


『……分かった。全員、広場に移動』


 武器じゃないけど武器として使えるもの、何があるのだろう。何であれかき集めないと。そう思いながら広場に着くと、ヨイドと100人ぐらいの人が集まっていた。


「もう、戦わないと……!」


「そうそう、一発食らわせよう!」


「勇者よ。村人のうち、戦いの志願者たちが集まったが……」


『……ああ、そうか』


 集まった彼らを見る。彼らは各自に武装していて、ある程度戦いの経験があるように見える。だが、所々に傷を負っている者も見える。


『君たち、戦えるのか?何人かは負傷者に見えるが……』


「大丈夫!前は負傷で動けなかったけど、皆を守るためならこの程度、我慢できる!」


「ああ、俺たち、ニケア大長の元で、村を守るために戦ってきたんだぜ!戦闘の経験は、そこそこある!」


「そうそう。それに今は大長がいなくても、勇者と共になら、きっと勝てるはず!」


「私も!私たちが頑張らなきゃ……!」


 なるほど、彼らは防衛隊だったのか。故に装備と訓練ができている訳か。だが、彼らの中には負傷者も結構いる。大事に扱わないと。


『……分かった。では最初の指示を出す。できるだけ、余分の装備を持ってきてほしい』


「え?余分の装備?」


 彼らは私の命令に啞然としたように見える。


『悪い。今私の兵士に装備が足りないんだ。彼らのための装備が欲しい。余るものがあれば持ってきてくれ。協力してくれると助かる』


「まあ、しょうがないか。分かったぜ。おい、行こうぜ」


「ああ、僕も行ってくる」


 防衛隊が去り、自分の家や近所から装備を持ち出してくる。たくさんの装備が、広場の真ん中に集まっていく。やがて、彼らが再集結する。


『クライスト、装備の報告を』


「はっ。数えた結果、武器は180、防具は約100個、集まりました」


 クライスト装備を数えて報告する。そこには剣、弓などに限らず、投げ槍、メイス、斧、柄の先に色んな形の刀身が付いたポールウェポンに、クロスボウまで揃っていた。


『すごい、こんなに集まるとは思ってなかったな』


「俺たち、防衛隊のみならず、この村の皆は生きるために戦う必要があるから。襲って来るモンスターや猛獣とも戦うし、肉を得るために狩をする者もいる。だからこれ程武器があるんだぜ」


 なるほど。確かネイアも前に言ったな、度々モンスターの襲撃があったって。それならこの武器の量も納得だ。これで武器はそれなりに揃ったな。次は防具の方を見よう。


『防具の方は?』


「はっ。集めた防具はこちらです」


 そちらを見ると、鉄製の兜、チェインメイル、木製の盾などがある。だが武器の方と比べてその数は明らかに少ない。


『まあ、仕方ないな』


 兵士の数より足りないが、仕方のないこと、今は最大限これを活用しよう。それより、編成を考えないと。


『防衛隊を組んで戦って来たんだろう。ニケアはともかく、その次の者は誰だ?』


 組織を組んだなら大長に次ぐ2番目の者がいるはず。その人に防衛隊の指揮を任せば良いだろう。


「……ぼ、僕だ」


 人の中からある男が出てくる。私と同じぐらいの背に、黒い赤色の髪が目立つ、若い男性だ。


『え、君が、防衛隊の副隊長?』


 彼はどこか自信がなく、穏やかな雰囲気の持ち主だった。耳にすると落ち着く声。彼は性格も冷静沈着なものだろう。ところどころに傷のある肌に、髪の色と同じ色の瞳。体は、それなりに鍛えているように見える。だが、最前線で猛烈に戦う戦士としては、到底見えない。


「ああ。僕の名は、ベルキー。大長の下で策士をやっていた。大長はいつも僕を側において戦術とかを教えてくれて、それを学んだんだ。言ってた、僕は賢いから、教えるがいがあるって」


『策士なのか、悪くない。指揮はできるか?』


 策士の経験があるなら、後に役に立つはず。だが今としては他の兵士を従えて戦場で戦えるかが大事だ。


「まあ、あまり慣れてはいないけど、できる。今までの経験もあるし。任せてくれ」


『良い返事だ。ならベルキー、君は防衛隊の指揮官を務めるように。数は、120人ぐらいか。部隊の名はベルキー中隊とする。指揮官として私の指示に従え』


「中隊……?それも、僕が指揮官……分かった。大長の名に恥じないように、やって見せる」


 こうして、私の召喚兵156名と、人間の兵士120名が揃った。私を含めても277名か。反面、敵の数は最低でも一千を超えると思われる。こちらは、4分の1程度しかないのか。


『数が足りない……どうしよう』


 戦力は揃った。だが、この数の差。どう戦うかを考えないと……


「司令、平地で戦うよりは、山の中で敵を迎撃する方がいいかと」


 ハウシェンは作戦まで考えてくれるようだ。山の中での防御か。悪くない。


『確かに、でもそれは敵も想定しているはずだ。そして防御するだけでは勝てない。何か、想像もできないやり方で攻撃しないと……』


 その時、ふとネイアが今まで見せてくれた黒魔法が思い浮かぶ。


『……?ネイア、使える黒魔法、全部教えてくれ』


「え?」


 ネイアは私の唐突な質問に戸惑ったようだ。


『今までたくさん使ったでしょう。木の根で束縛するとか、頭をぶち壊すとか』


「え、ああ。黒魔法と言っても範囲が広くて……人を窒息させたり、悪霊を召喚したりとか……それとも、スケルトンを操るとか、地を泥に変えるとか……」


 地を泥に?それにスケルトン。それを組み合わせば、何かできそうな気がしなくもない。それらを踏まえた、勝つための術を考えないと。


『ハウシェン、スケルトンの戦闘力はどれくらいだ?』


 まずそれを確かめないと。


「はっ。端的に言って、弱いです。重武装した敵を相手には、時間稼ぎにすらなりません。軽く武装した敵を相手にはそれなりに戦えますが、体が脆いため、所詮時間稼ぎしかなりません」


 スケルトンは弱い。重武装の敵にはただの餌。だが、軽く武装した敵には時間稼ぎにはなる、か。


『なら良い。ネイア、お前の仲間も、全部集めて来て。戦闘に役に立つはずだ。そして、平原で討伐軍と戦う』


「……?」


「勇者……それ、本気?」


 ネイアは私を信じられないようだ。いや、ネイアどころか、周りの皆が私を不思議そうに見ている。まあ、具体的に何をやるのかも説明してないし、この反応は当然か。


『ああ、本気。私を信じろ』


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