18.『CC』
本日ちょっと早めの投稿です。
『先生!ご教授を! 何卒! 何卒~!』
『うん、予想以上過ぎて俺の方が驚いちゃったよ…。頼み方が武士みたいだよ?』
☆
リュートが気絶から回復したのは30分程度経った頃だった。
魔術の創造に対して、左目の力を使ってもう少し注意深く見ていれば、推定の消費魔力量も確認出来ていたはずだった。左目にはその力もあるのだ。
それを怠り、MPを枯渇させて気絶してしまい、桜華に心配をかけてしまった。
起きてすぐに桜華に謝罪をしたリュート。その時にはもう桜華ちゃんから桜華くんへジョブチェンジ済みだった。いくら知られていると分かっていても、その姿を見せるとなると話は別なので。
リュート自身浮かれていたのは否めない。もう無いものならば受け入れるしかなかったが、まだ残っていたのだから。
『まさかあんなにMPが必要とは思わなかったけど、無事に出来たみたいだよ』
『スキルを創ったって言ってたよね、何を創ったの?』
『…あ、スキルじゃなくて魔術だった。言い間違えてたっぽいや。創ったのはオリジナルの魔術…になるのかな? 効果は実際に見せるよ』
『大丈夫? まだMPほとんど回復してないでしょ?』
『そこは問題無いよ。創る段階で消費が多かっただけで、使う事には大して魔力使わないみたいだから。…初めてだから緊張するけど、いくよ?』
リュートは桜華と離れて立った状態で向かい合い、緊張をほぐすように両手をブルブルと振って深呼吸し、魔術を発動させた。
『CC』
魔法陣は発現せず、リュートから発せられた魔力はとても小さい。しかし魔術はちゃんと発動していた。
リュートの体は光に包まれ、そのシルエットを大きくしていった。シルエットが大人の男性程度の大きさになると光が弱まり、そこには…、
『…成功したみたいだね』
『………』
桜華が看取ったはずの侑人が立っていた。
桜華が出会った時より血色は良くなっているが、服装は侑人が死んだ時のままだった。
侑人の上着はキラーアントの槍に脇腹部分を抉られた時の破れはあるが、致命傷となった傷自体は無くなっている。
『ステータスのログにシステムが記録を残してくれてたんだ。システムとリュートのやり取りと、更に侑人の生体情報も一緒にね。持ってたスマホは…なんか取り込まれてたみたいで、スキルの方に表示されてるけど。それをしてくれたのがリュートの意思なのか、システムの意思なのかは分からないけど…両方かな?』
(…リュートに関する記録もあれば良かったんだけどな。そうすれば…)
『………』
『あっ…そ、それにしても魔術ってすごいね。ゲームのキャラメイクをイメージしたらそれを補完してくれて、自由度も高くて万能な感じだし。…おそらくその分消費が激しいんだろうけど。そりゃマギカネリアで化学が発展しないのも頷けるってもんだよ。あ、ステータスを持つこともできたよ。っていっても左目の力が無いと持たせるのは無理だったけどね。…え~っと、…驚かせすぎちゃったかな?』
『………』
『あは…は…、俺の生体情報が残ってるのを見つけた時、生き返る…とは言わないか、復活出来たならリュートへの罪悪感が多少は減るかなって思ってさ…。それに、ログって新しいの増えたら古いのから消えちゃうじゃん? そう思ったら早くやらなきゃって思ったり「ガシッ!」シテ~!?』
『そ、それ! 俺の私も出せるっすか!?』
『…ナンダッテ?』
『あ~!えっと!? 俺のアレもヤれるっすか!?』
『…ナンダッテ?』
桜華、興奮の余り下ネタじみた発言になってしまった。…どちらかと言えば聞いた侑人の変換具合によるかもしれない。
事故のようなものとはいえ、桜華の過去を見てしまった侑人には桜華の言いたい事は伝わっていた。しかし聞き返さずにはいられなかった。「俺の私」「俺のアレ」が何を意味しているのか…確認は重要である。
鼻息の荒くなった桜華に念の為もう一度言ってもらうと、返ってきた言葉は桜華ちゃんに関する事で合っていると分かり、侑人はこっそり安堵しながら『CC』についての説明を始めた。
☆
自分の中に人間を一人構築する、それだけ聞けばヤバい人物に思われるだろう。しかしやっている事を説明するとなると、そう言う以外他に無かった。
キャラメイク画面に人間を作りだし、その情報を自分好みにカスタマイズしていく。ゲーム風な見覚えのある機能は大抵再現されている。容姿の微調整や髪の長さ・色の変更、身長や体格まで弄る事が出来る。
侑人の場合はその生体情報が丸々記録されていたので、大した手間はかからなかった。ゲームのキャラメイク画面をイメージし、そのイメージを補佐するように魔力が働き、生体情報を関連付けてインポートするよう組み込んだのだ。
…互換性はあったのだろうか…、左目…『神の宝珠』のポテンシャルが恐ろしい。
自分の中に作成した人物と入れ替わる魔術、『CC』以外に呼び方が浮かばずそのまま名付けた。CCはキャラクターチェンジの略である。
侑人は『CC』という魔術の仕組みを1から10まで理解出来てはいない。ゲームを作った事もなければ、それに準じた仕事に就いた事があるわけでもない。ゲームはあれこれとプレイしたことがあったので、キャラメイク画面をイメージする事には苦労しなかったが。…むしろそれが浮かぶ程度の知識だったというのが正しい。
その程度の知識を魔力が補完するとどうなるか、過程をすっ飛ばして結果を持ってくるのだ。
薬を飲めば風邪が治る、ケータイの通話ボタンを押せば電話が繋がる、アクセルを踏めば車が進む。詳細な原理を知らずとも、イメージする結果に直結するのだ。
それは、レベルや魔術が存在するこの世界をゲームと見立て、キャラメイク画面でキャラクターとして人間を作るというぶっ飛んだ考えを現実にしてしまった。…そんなイメージを現実にした事で、大量のMPを消費してしまったのだが。
極論だが、その魔力の補完があればやりたい事はなんでも出来る。車に限らず船や飛行機にその機能を持たせる事も、写真や動画を撮影する魔道具を作る事も。
ただ、その為には『神の宝珠』の力が必要不可欠だ。そして、強くイメージされた結果と莫大な魔力が必要となる。
結果の不安定なものやイメージに疑問を抱いた場合は、魔力を無駄にするだけで補完に失敗するだろう。先程の電話の話を例とすれば、「基地局もないのにどうして繋がる?」「異世界でケータイの契約状況どうなってんの?」という疑問が補完の邪魔をしてしまうのだ。
逆に明確にイメージ出来る場合は、消費魔力を抑える事が出来る。こちらも電話の話を例とすれば、部品の役割から通話のメカニズムまでをも把握出来ていたなら、魔力による補完を更に助ける事となる。
莫大な魔力に関しては文字通り。インゴットから部品を作るようなものだろうか。明確なイメージがなくとも補完出来る事は確かに万能ではあるが、魔力の消費効率はとてつもなく悪い。
必要なものに必要なだけの魔力を使う事は極々当然の事。もしネジ1本が必要ならネジ1本を用意すればいい、その当たり前から昇華されていったのが侑人の居た時代に使われていた魔術だ。
火系統の魔術である『ファイアーボール』を例にとってみても、魔力の属性変換を行った後の威力や反作用、放たれるまでの術者に対しての保護、放ってからの維持、消費魔力のバランス等を考えて魔法陣が調整され、今の形となっている。…と言うより、そうせざるを得なかった。
効率的な魔術の使用という点はその通りだが、ジョブの変更が出来なくなったマギカネリアの住人には、最大MPやMP保有量がネックとなったからだ。省エネでなければ魔術師はただの一発屋…お荷物になってしまう。
もしリュートが左目の存在に気付くのが遅れていれば、ログに埋もれた後にシステムとリュートの記録…それに添付されていた侑人の生体情報が消えてしまい、『CC』という魔術が創造される事はなかっただろう。
もしリュートのレベルが低ければ、キラーアントとの戦闘で竜帝のジョブレベルが上がってステータスが上昇していなければ、創造によって魔力の枯渇を引き起こして生命力も削られ、命を落としていた危険性もあっただろう。
もし桜華が声を掛けてリュートの作業を止めていれば、勢いに任せて行っていた魔術のイメージが崩れて創造が失敗していたかもしれない。
運良く偶然が重なり、『CC』という魔術は完成したのだった。…今更だがネーミングセンスはどうにかならないのだろうか。
とまぁ、他の人物への変身や変装とは全く違う、もう一人の自分との入れ替わりを行う魔術、『CC』の説明を聞いて更に興奮した桜華の状態が冒頭の武士である。…違った、先生呼びである。
リュートもまだ一度しか使用していない、出来立てほやほやの魔術。桜華が使う事を考えて、微調整を行う事に決めた。その為には魔力の回復もさせなければならない。
リュートが無事に魔術を創り終えた事、その作業を邪魔しなかった事、自分の為に更に魔術を改良してくれるという事、その全てに感謝を捧げる桜華。
目を輝かせながら跪いて祈る姿は、シスターが神の降臨を目撃したのではないかと思わせる程だ。…大袈裟である、彼の目にはリュートが神にでも見えていたのかもしれない。
リュートが数日中には教えられるよう頑張ると約束し、なんとか興奮する桜華を宥めたのだった。
☆
『そう言えば、左目の力を使えばジョブの変更も出来るようになるみたいだよ』
『へぇ~』
『…反応薄っ!』
やっと普段の桜華に落ち着いた所でリュートが伝えてみたが、半年前まではジョブの変更が可能だった桜華にとっては、世界を揺るがす程の情報も生返事にしかならなかった。
桜華は既に桜華ちゃんの事で頭がいっぱいだった。




