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2.取れたああぁぁ!?


「よしっ」


 侑人は無理やり気分を入れ替え立ち上がり、カバンから十徳ナイフを取り出してポケットに入れた。

 代わりに財布等の必要性の低い物はカバンへと入れられた。


(食べてやるのが供養…なんだろうか…)


 と考えるも、血抜きや皮剥ぎという言葉だけなら知識としてあるが、やったことなど一度もない。解体も未経験だ。いたずらに傷つける事はしたくなかった。


 もしも侑人が空腹で耐えきれないなら血抜きに挑戦していたかもしれないが、今はむしろ食欲も湧いていない。初めて動物を踏み殺したのだ、食欲どころではないだろう。

 エコバッグに入れて運ぼうかとも考えたが、血の匂いをさせながら移動するのも危険だと思って諦めた。


 侑人は息絶え横たわるホーンラビットに近付き、角へ触れた。


(作り物、じゃないよなやっぱ…、このままにしていくけどごめんな?)


 触れた角の先は、尖ってはいたが丸みを帯びていた。ザクザク地面を掘ってもいたので、生活する中で削れたのであろう。

 角の先から根元の方へ撫でていき、ポロッ…「取れたああぁぁ!?」取れてしまった。


 思わず叫んだ侑人。取れてしまった。撫でるという言葉の通り、力は入れていなかった。しかし取れてしまった。

 角を持ったまま驚きながら、手元の角と元ホーンラビットを交互に見やる。そして…元に戻らないかと元ホーンラビットの額に角を押し当ててみる侑人。子どもか。


 結局角が元通りになることはなく、


「………うん、勝利の証として持っておこう」

(初めての異世界、初めてのエンカウント、初めての勝利、うん…)


 持っていく事にした。元ホーンラビットをホーンラビットへと戻すことを諦めた侑人は、自分を納得させて、ハンカチで角を包んでカバンへ収めた。


(RPGみたいに、モンスターが消えてアイテムやお金がドロップするなんてことはなかったな…。異世界もまた現実か)


 そう思いながら、侑人は森を目指した。



 またモンスターらしきものに襲われないかと、静かに周りを警戒しながら歩き進む事40分。


「はぁ、ふぅ、ふぅ…」

(途中に川でもありゃ良かったんだが…)

「はぁ、ふぅ~~…」


 川など見つけることなく森の前へ辿りついた侑人は、運動不足と喫煙のダブルパンチにより、息を切らせていた。

 森の目の前まで来てみると、外から見る森の中は思いのほか明るく、木漏れ日が差しているのが見て取れる。

 呼吸が落ち着いた所で、水を探しに森の中へ入る。…その前に、


「この木にするか、いよっ」


 ちょっと出掛ける用にと持ってきていた小さめのカバンに、必要そうな小物を詰めて木の根元へ置いた。そしてスポーツバッグを背負ったまま、低い位置で又別れをした登りやすそうな木を見つけ、足を掛けて登り始めた。

 手を伸ばし、地上から3m程度の場所にある枝にスポーツバッグを乗せ、バッグからショルダーベルトの金具を片方外す。幹にベルトを回し、再び金具をバッグに装着させる。あとはベルトの長さを調節すれば、枝に乗った状態で幹に縛り付けられたスポーツバッグの出来上がりである。

 持って歩くには邪魔であり、地面に置いておくには心配なのだ。


(またホーンラビットが現れて穴だらけにされたら嫌だし…、もしくはスライムにデロデロにされたり…、スライムおるんかな?)

「ほっ、い~よいしょっ!」


 RPGの定番最弱モンスターがいるかどうかは分からないが、用心するに越したことはないだろう。

 50cmという、さほど高くもない位置から飛び降りる。「よいしょっ!」と掛け声がでてしまうのは性格か、歳のせいか…。


(コップはともかく、ペットボトルでも持ってたらなぁ…、じゃない、体一つよりマシ…、あるもので乗り切らんと)

「日が暮れる前にみつかるか…、最悪の場合…」


 考え事をしながら独り言が漏れる。ブンブンと頭を振り、危険な場所である事を念頭に、刃を出した十徳ナイフを手に持って森へ入る。

 ナイフはもしもの戦闘用と、木に目印をつけるためであった。


(カラースプレーかマジックでもあれば目印は楽なんじゃけど)


 すぐさま雑念が湧いたこの男のこれからが心配である。



 可能な事はやっておこうと、侑人はわざと足跡を残すように進む。落ちている枝を集めつつ、木に付けた目印は2つ。

 思ったよりも道のようになっていた森の中は歩きやすかった。


 風が木々を揺らし、葉の擦れる音と鳥の鳴き声が聞こえ、いっそ散歩をしていると勘違いしそうになる。

 木の枝に止まった鳥を見かけてお願いをしてみたが、やはり力が使えている気がしなかった。侑人の小さなアドバンテージは無くなったのかもしれない。


「…お? おぉ!?」


 歩くこと…体感で10分。進む先に光の多く差し込む場所があり、地面が光っているように見える。 

 興奮したような声を上げ急いで向かい…はしなかった。近くの木にガリガリと印を付け、これまでのように静かに…しかししっかりと足跡を残しながら、そして期待しながら先へ進む。

 侑人、やればできるおっさんであった。


「あった、割と近かった。よかったぁ~…」


 歩いてきた道のようなものの先には湖があった。運が良かったのか、何かの導きなのか。

 警戒しながら水辺まで近付く侑人。湖の向こう岸までは約30mあり、岩肌の上からはチロチロと水が流れ込んでいる。

 湖を覗き込み、水の透明さに安堵するが、


(次の問題はこのまま飲めるかどうか…。煮沸するにも容器はないし、蒸留…も同じくか。…濾過(ろか)? う~ん、濾過かぁ…)


 直飲みは躊躇ってしまう。見た目が綺麗だから安全とは言えない。好き好んで状態異常PPP(ポンポンペイン)にはなりたくはないだろう。

 侑人の頭に浮かんだのは『エコバッグ濾過器』化計画。小石や砂利、砂などを詰めて上から水を入れる。エコバッグの下部に穴を開けて簡易濾過器へと。

 浮かびはしたその案は、


(詰める内容も順番もうろ覚えだし、結局容器がないから出てきた水を直飲みか…? ペットボトルでもあればなああぁぁ!)


 あえなく断念した。もし仮にペットボトル等の容器を持っていたとしても、材料が足りていない。

 侑人のうろ覚えな知識で思い描くそれは、おそらく『泥水作成器』になっていたであろう。


 湖の水は、少なくとも見た目は飲めそうだなと思える基準を余裕でクリアしている。このまま悩んで日が暮れてしまえば、その方が危険なのだ。

 侑人は水際にしゃがみ込み、両手で水を掬い、


たちまち(とりあえず)…)


 口に含んでテイスティングしてみた。その後はペッと吐き出し、感触を確かめた。


「うん……、………? ………大丈夫そうだな」


 心配である。


「…1人になっちゃったから喋る事無いな」

「キュイー」

「え? ホーンラビットさん何してるんですか?」

「キュッ、キュイィ」

「…まぁ、確かに死体役で出てはいましたけど。…次話どうするんです?」

「………、キュ…」

「………、お疲れ様でした…」

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