6.動画鑑賞会
ブックマークが増えててテンションが上がってしまったので不意打ち投稿です。
王都にある食事処、ジンに勧められて共にやってきた『ダンク食堂』。主人であるダンクが経営する飯屋である。
その奥にある個室で、銀の盾、リュート、ジンの7人が食事をしていた。
自己紹介でリュートがジンを混乱させてしまい、ジンがリュートの発言を確かめるように銀の盾へ顔を向けた。顔を向けられた銀の盾は、揃ってウンウンと頷いた。
ジンはその後、リュートが養女である事や、少々複雑な事情があるという事を伝えられ、なんとか話を飲み込めていた。…飲み込んで間も無く『ダンク食堂』に辿り着いたのだった。
食堂にはテーブル席が6つ、奥に広めの個室が1つある。個室に通された一同は、運ばれてきた料理を食べながらジャガーバルトでの出来事について話をしていた。
「ふ~ん、スタンピードねぇ…初めて聞いたよそんな状況」
「ジャガーバルトの領主様やギルマスも知らなかったですからね。当然と言えば当然ですよ」
山盛りの料理がテーブル一杯に並んでいた。
肉が7割、その肉を巻いて食べる用のサンチュの様な野菜、パンにスープ、パスタもあった。ぱっと見、肉だけで10kg以上はあっただろうか。
料理が運ばれてきた当初は、空腹を刺激するいい匂いと山盛りの肉を見て喜んでいた皆だが、当然食べ続ければ腹は膨れる。銀の盾もジンも既に腹六分目、しかし目の前にはまだ大量の肉、肉、肉…。
メニューの名は『ダンクスペシャル』、余りを持ち帰る事が前提の料理である。
「リュートちゃんそんなに強いの? オークロードだって中級のボスクラスだよ?」
「強いなんてもんじゃないですよ、リュートさんがいなかったら街が無くなっていた可能性は高いです。領主様も怪我をされて、危なかったと…死なずにすんだと自分で仰られてましたし」
「…そもそも初級ダンジョンで出るモンスターじゃないからね、備えようも無かったかもしれないけど」
皆の食事ペースはガクンと下がり、自然と会話が増えていた。会話の内容はスタンピードについてだ。
リュートがモンスターを蹴散らし、怪我人を癒し、街を救った。事実であり、本人は秘密にする気もない…と言うより、あれだけの目撃者が居て、全員に口止めするのも困難である。…リュート自ら大っぴらに宣伝する気もないが。
その話の中心となっているリュートは、
「リュートちゃんが…ねぇ?」
「(もぐもぐもぐ)…?」
「ははっ、こうして見てると全然そう思えないけどね。…違う意味で脅威を感じてるけど…」
モリモリ料理を食べ進めていた。
食事が始まった当初は、小さな少女が肉を頬張る姿を見て、全員がほっこりしていた。…していたのだが、リュートがいつまでも変わらないペースで食べ続けている事で…脅威を感じていた。既に超山盛りだった肉は並盛になっている。
7kg近くは食べているだろうか。…育ち盛りという言葉では説明できない食いっぷりである。
「実際に見た人じゃないと信じられないでしょうから…」
「(ゴクッ)私もそう思います」
「ははっ、自分で言うのかい? それにしてもすごく食べるね、お腹は平気かい?」
「はい、育ち盛りなので」
…育ち盛りらしい。
スタンピードやジャガーバルト領の危機があったという話でシリアスだった場は、育ち盛りと言い切った少女によって和やかなムードに変わり、銀の盾もジンも食事を再開した。
ちなみに、出されている肉は全てオーク系の肉だ。中級ダンジョンでドロップするもので、需要の高い…人気のドロップ品である。
地上にもオークは存在しているのだが、倒してもドロップを残して消える事はない。そして、解体しても肉は不味い。
何故地上のオークとダンジョンのオークに味の差が出るのかは解明されていない、ダンジョンの不思議である。
☆
「いや~、さすがジンさんオススメのお店、美味しかった! ご馳走様です!」
「まさか食べきるとは…」
驚きより呆れが勝ってしまったジンであった。念の為もう一度言っておこう、余りを持ち帰る事が前提の料理…だったのだ。
リュートは「美味しかった」とは言ったが、マギカネリアの料理にしては比較的美味しかったという意味だ。
元の食材のせいで台無しになったり、調味料を使って料理の質が落ちるケースもある。ダンジョンでドロップする食材…オーク肉などは安定した味をしているが、狩りや採取で得た食材や調味料は大味だったり雑な味をしている傾向が強い。その中で美味しい料理を作り上げている店主のダンクと食材へ感謝したのだった。
そこへジャックがリュートに耳打ちをした。
「リュートさん、アレ使いました?」
「え? …あ~なるほど。使ってないですよ、全部食べましたから」
「えぇ~…」
ジャックも引いている、無理もない。
お腹をさすっているが、少々ぽっこり出ているお腹と食べた量が比例していなかった。結局注文した料理の7割、肉のみなら8kg近くをリュートだけで食べたはずなのだが…料理は一体どこへいったのか、全員が首を傾げる事となった。日本の大食いタレントも、見ていればきっと首を傾げるだろう。
ちなみにアレとは『インベントリ』の事である。
「うん、確かにリュートちゃんは凄かった…今なら分かるよ」
「まさか食事で納得してもらえるとは思わなかったので複雑ですが…。リュートさん、宴会の時はそんなに食べてなかったですよね?」
「いつもこんなに食べるわけじゃないですよ? 逆に食べなくても割と平気ですし」
「ははっ…凄さは分かったけど、全く分からなくなったよ…」
「皆同じ気持ちですよジンさん」
「あはは~」
リュート、謎多き少女である。
「さて、それでは本題に入りましょうかね? ギルドで何があったか」
「「「「「………」」」」」
「お願いするよ、知っておかなきゃならない事だと思う。王都で活動してる冒険者としても、君の友人としても」
緊張している銀の盾も、ジンの「友人」の一言に肯いた。
「あはは、ありがとうございます。まぁ、私が話すより実際に見る方が分かりやすいと思うので、見てもらいましょう」
「実際に見る?」
店員に食器を下げに来てもらった際、店員は皿を2度見していた。食べきるとは予想していなかったのだろう。
それから間もなく、注文した飲み物が届く。持ってきた店主のダンクは、満腹で動けないといった様子もなく話をする面々に、(…作る料理の量を間違えたか?)と個室のメンバーを確認した後首を傾げて厨房へ戻っていった。
「ジンさんにはちょっと刺激…と言うか、見ていて辛い時があるかもしれません」
「…いや、見るよ。ありがとう」
「分かりました」
リュートの指示で、テーブルを囲むように座っていた皆が、椅子を寄せて一カ所に集まる。
カバンに手を入れ、取り出したのは光沢のある黒い板。全員が、リュートの「見せる」と言っていた言葉から、騒動の証拠品か何かだと推測していた。
もしこの場に地球の知識がある美鈴がいれば、「スマホ?」とでも言っていただろう。それは侑人が持っていたスマホである。その存在は、この世界では一部の者しか知らない。
そのスマホは、今ではリュートのスキルのような存在となっていた。一体化と言ってもいいかもしれない。
出し入れはリュートの思うがまま。破損しても修復可能で、落とす心配もない。もし落とすとすれば故意にであろう。
スマホの基本的な機能となっているカメラも健在である。静止画も動画も撮れるが、通話やSNSは出来ない。あくまでスマホ単体で可能な範囲でしか機能は働かない。
リュートが取り出したスマホを録画モードにすれば、真剣な顔をして光沢のある板を見つめる銀の盾とジンの顔が撮れるだろう。
ただ、一体化した事で普通は出来ない事も可能となっている。
スマホを取り出す、カメラを起動する、スマホを向ける、録画モードにする。その動作が思考一つで叶うようになった。更に、実態化させない、という事も可能になっている。
「…なんだこれ。これは…ギルドの中?」
それはマギカネリアの人間には全く馴染みのない、地球で言う防犯カメラ映像のようなものであった。アングルがそう見えるだけで、実際はカラーで解像度も悪くない。
不可視状態で録画機能を使い、ギルド内を斜め上から見える場所に視点を固定し、撮影したものだ。スマホが浮いているのが見えるわけではないので気付かれない、悪用しようとすれば盗撮し放題である。
この世界には音を記録する魔道具は存在するが、写真のように風景や人物を切り取って保存する魔道具は発見されていない。絵と言えば画家が描くもの、それがこの世界では常識である。
スマホに映るのは人が動いている所、喋り声も聞こえてくる。静止画ならば、精巧な絵に対して驚きの声が上がったかもしれないだろうが、動画を見させられた全員は…逆に静かになった。(この板はアーティファクトか…?)、そう思っていた。
スマホの映像は、リュートが窓口へ並ぶ冒険者の列の最後尾へついた所だ。だが、
「ちょ、ちょっとごめんなさい…」
リュートがストップをかけて動画を止めた。見入っていた全員が(そんな事も出来るのか…)と思いつつ顔をあげ…気付いた。
大人の手のひらサイズのスマホに、6人も覗き込めばどうなるか。ぎゅうぎゅう詰めである。端にいたミランダとトールは立ち上がって上から見ていた程だ。
(人数を考えて無かった…。どうしよ、順番に見せる方がいいかな…? スマホ自体は大きく出来ないし。小型のテレビサイズくらいにでもなれば…)
「あ、いい事思いついた。ちょっと待って下さいね」
リュートは片手を前に出し、イメージを膨らませた。
(イメージはプロジェクター…、実物を再現しなくても映像だけ…、解像度的に…、まだ明るいし暗幕は…、音はこのままでいいか…、名前は…プロジェクターでいいかな? よし)
イメージは魔法陣としてリュートの手の前に現れた。小さな光ではなく、この世界では一般的な大きさの魔法陣だ。
現れた魔法陣に対し、リュートは…スマホで撮影した。リュートにとっては意味のある…大事な工程である。
「お待たせしました。ちょっとコレだと皆さんが見るには小さかったので、方法を変えます。こっちの壁の方を向いてください」
お預けされていた全員が壁へ向いた所で、リュートが魔術を展開した。
スクリーンとなる部分だけ魔術を除外し、他一面を暗く覆った。個室がミニシアターと化し、スクリーン部分に先ほど一時停止したスマホの映像が映し出された。
「「「「「おぉ」」」」」
「ははっ、これで商売出来そうだね?」
「あはは、良い目の付け所だと思いますよ?」
商売として上映出来る程の作品を作る知識も技術も、やる気もないリュートだった。
そして動画鑑賞会が再開された。
☆
冒険者の列の最後尾へ並んでいたリュート。そこへやってきた4人の女性冒険者。
「ねぇあなた、あちらの窓口が空いてるわよ?」
「はい? あ~、ありがとうございます…? でも、私より先に並んでいる方がい───」
「いいからこっちにきなよ、ほらほら」
その表情は好意的と言うには歪んでいて、無理矢理連れて行く様子は優しさと呼ぶには乱暴だ。
並んでいた冒険者も遠くから見ている冒険者も、同情的な目を向けている者が多い。
連れられていった窓口には、先ほどまでギルドの隅で女性冒険者と一緒に話をしていた女性が座っていた。その表情は…パッと見は歓迎しているように見える。
「は~い、いらっしゃい。冒険者? 他所から来たの? 用件は?」
(…何だろ、嫌な感じ。そういう対応ならこっちもそうするけど)
「はい、え~冒険者じゃないです。他所から来ました。ギルドマスターはいらっしゃいますか?」
「うん? 冒険者じゃないんでしょ~? そんなお子様がギルドマスターに何の用があるのかしら~?」
「えっと…お手紙をギルドマスター宛───」
「あんた、ジン様だけじゃなくギルマスまで誑かす気? ジン様の馬に乗せてもらったからって調子に乗り過ぎじゃない?」
「ほんとほんと、ギルドマスターのバルトス様はお忙しい方なんだから。分かった?ちんちくりん」
「はぁ…、分かりました。ではそのバルトス様にこの手───」
「ふん、気安くギルドマスターのお名前を呼ぶんじゃないわよ。…何これ? 封蝋まで用意したの? 印を無断で使うのは犯罪よ?犯罪」
リュートから手紙をひったくるように取り上げた受付嬢は、手紙が偽物だと思い込んでいる。
以前、貴族の名前を勝手に封筒に書き、ギルドマスターへのラブレターを送ろうとした女性がいたのだ。もちろん犯罪に当たる行為である。日本で似た事を行っても犯罪なので、真似をしてはいけない。
ちなみにその女性は、手紙の内容を読んで貰えさえすれば問題ないと思い込み、そんな手口を使った。直接話したこともない相手と両想いだと思い込んでいる、典型的なストーカーに当たる行動だった。
「前にも似たような手口でギルドマスターに手紙を渡そうとした娘がいたわね。その話でも聞いてコレを用意したんでしょ?」
「少しは話を聞いてく───」
「あ~っといっけな~い、うっかり~」
受付嬢が火を発生させる魔道具で手紙を燃やしてしまった。
ここで…リュートの中でギリギリ保っていた針が一定値を越え、女性冒険者4人と受付嬢を悪人と認定した。口頭で「調子に乗るな」と言ってくる程度ならば『眼』も使われなかっただろうに。…調子に乗り過ぎたのは彼女たちの方だった。
リュートは容赦せずガンガン情報を覗いていった。その気になれば視線を向けずとも確認が可能だ。
ステータスの情報のみならず、1人の女性をストーカーになるよう唆した過去も、夜道で冒険者を集団で襲った過去も、本人が忘れている事までもが丸見えだ。
リュートは、倍速再生される計5人の記憶から、悪行らしきものを中心に探り視た。
(完全にアウト…、今回はこれだけ人の目があって、ここまでやれるのは逆に関心するなぁ)
「「「「あ~ぁ」」」」
「あ~ぁ」
女性冒険者と一緒になってリュートまで呆れたような声をあげた。込められた意味は全く違ったが。
「危ない危ない、火事になる前にちゃんと水をかけておかなきゃね」
女性冒険者の1人がそう言って水系魔術の『ウォーター』を唱え…リュートの真上から水をぶっかけた。
「ごっめ~ん、ちょ~っとだけ水がかかっちゃったね」
「そうですね、今後気をつけてください。(…そろそろかな)…ところで受付嬢さん」
「っ…な、何?」
水を滴らせながらも淡々としているリュートに、受付嬢の腰が引けてしまう。
「確かに手紙、受け取られましたよね? 受領書にサインをお願い出来ますか?」
「は…はぁ!? 受領書があるって言うの!? それに読める状態じゃないのにサインなんて出来るわけないじゃない!」
「それはそちらの過失でしょう? うっかり、そう言われたのも聞こえましたし」
「うぐっ…」
「まぁ読める状態じゃないというのは分かりますけどね。それじゃこうしましょう、燃やしてしまった謝罪の手紙を用意し───」
「あんた、まだ懲りてないみたいだね? 先輩として教育してやるよ」
「先輩って、私冒険者じゃないって言…お? …お~そうですか。でも教育されるなら…どうせならジンさんにお願いしようかな?」
「!? このっ!」
リュートが1歩横へ移動しながらそんな発言をすると、頭に血が上った女性冒険者の1人がリュートにビンタを食らわせた。すると、
「………へ?」
振りぬいた手からはあり得ない程の軽い手応え。
そしてビンタをされた角度からはズレた方向へ吹き飛んでいくリュート。地面と水平に飛び、壁にぶつかり、その壁をぶち抜いてギルドの外まで出てしまった。ジンと銀の盾が見たのはこの瞬間であった。
もちろん偶然ではなく、スキルによってギルド近くまで来ていたジン達の気配を察知し、『眼』で確認もした上でわざとビンタで吹き飛んだフリをして…自ら壁をぶち抜いたのだが。
ギルドに居た者は誰も言葉を発せなかった。ビンタを食らわせた女性冒険者も、手を振りぬいた格好のまま固まっていた。




