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【200話突破】ジャガーバルト家の義妹  作者: もにーる
第三章 スタンピード編
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13.隷属魔術


 フラグを放り投げるために始めたジョブの話が一旦落ち着いたので、リュートはララの隣に座り直して話を戻す事にした。


「えっと、どこまで話しましたっけ。スタンピード…じゃない、ララちゃんに話を聞いたんでしたね」

「そうだな、誘拐、隷属、置き去りにされ香を炊かれた、だったか?」

「そうでしたね。では今の状況を伝えますが…ララちゃんは今、形式的にですが私の奴隷になっています」

「…え?」


 困惑の声をあげたのはララだった。ダンジョンで助けられ、眠り続けていたので知る機会がなかったのである。


「まず、隷属の魔術を解除するのに時間がかかるのが一点。あの場ではゆっくりしていられなかったので、私の奴隷として上書きする事で命令をリセットしました。そうしないとダンジョンから出られなかったでしょうから…。その時ララちゃんの事をこの『眼』で詳しく見ちゃったんだ、ごめんね?」

「い、いえ! 助けていただいてありがとうございました!」

「どういたしまして、とは言っておこうかな? 奴隷にしているって事実があるからお礼を言われるのも複雑だけど」

「…きっと私は、あのままじゃ死んでいた…と思います。だから奴隷だとしてもユー…リュートさんに助けられて、嬉しいです」

「…そっか」


 微笑みながらララの頭を撫でるリュート。気持ちよさそうに目を細めるララ。その光景をほっこりしながら見つめる皆と、羨ましそうに見つめるミル。

 (私も奴隷ににゃりたいかも…)というミルの思いは、誰にも知られる事は無かった。



「隷属魔術の解除はもうちょっと待ってね、ちょっと事情があるんだ」

「はい! いえ、はい…」


 元気よく返事をしてしまったララ。リュートの驚いている顔を見て、改めて返事をしたがその頬は照れて赤くなっていた。

 ララは奴隷とはいえリュートと…侑人と繋がりを持てている、その事実が嬉しくて思わず元気に返事をしてしまったのだった。


「事情…とやらを聞いてもいいのか?」

「そうですね…、この事件の犯人をどうにかしてやろうと考えています」

「うっく!?」「ひやぁ!?」「ぐぉ!」

「おっと、…失礼しました」

「「「「「………」」」」」


 リュート以外の、部屋にいる全員が息を呑んだ。結界が張られていなければ、街でも同様の事が起こるか…悲鳴が上がるかでもしていただろう。


 リュートから発せられたプレッシャーは短い時間ではあったが、一瞬で全員が思った。絶対にこの娘を怒らせてはならない、と。

 普段のリュート…侑人の温厚さを知っている分、怒った時どうなるか見当もつかない、と。


 魔術で大爆発を起こせるだけでなく、オーガを一対一で倒す事が可能、しかも明らかに余力を持ったまま。更に高度な回復魔術まで使い、ジョブを変更できるという稀有な存在。他にどんな事が出来ても不思議ではない。

 怒らせるメリットは何一つ無い。


「犯人が…誰か分かっているのか?」

「はい、ララちゃんにかけられた隷属魔術には、奴隷の主人の名前が表示されていました。隠蔽されていましたが」

「そ、そうなんですか? 状態の欄には『隷属』とだけなってた…かな? …と思います」

「隠されていたせいでそう見えたんだろうね、何より生き抜く事が優先でそれどころじゃなかっただろうし」

「はい…」


 大きな犯罪を犯した者。借金を背負った者。経緯はそれぞれであろうが、隷属の魔術をかけられ奴隷となった者のステータスには、その主人となる者の名が表示される。

 奴隷商店にいる奴隷ならばその店長が仮の主人となる。店で買われた奴隷は、購入した新しい主人を登録するために契約が上書きされる。隷属の魔術は闇系統の魔術に適性がなければ使えず、また、適性を持つ者は少ない。


 主人と奴隷の間にはパスができていて、ステータス上に名前が表示される。もしも主人が名前を変えた時には、奴隷側のステータスに変更した主人の名が表示される。奴隷が名を変えても同じように更新されるが、どちらも名乗りを変えただけの偽名の場合は適用されない。

 ただ、パスと言ってもお互いの現状を把握出来たりするものではない。あくまで情報の更新が行われる程度だ。


 主人側のステータスには、所持している奴隷として名前が載っている。主人が変わるなどで契約が上書きされれば、主人だった人物のステータスから奴隷の名前は消える。所持している奴隷が死亡した際には、ステータスに表示される奴隷の名前の後ろに(死亡)と加えられ、死亡から10日後に奴隷の情報がステータスから消える。


 逆に奴隷側が契約解除をされれば主人の名前は消えるが、隷属状態であるという情報だけは残ってしまう。主人が死亡した際には、契約していた主人の名前の後ろに(死亡)と加えられる。が、こちらも隷属状態である情報は残ったままになる。10日後に消えるのは主人であった者の名前だけだ。


 隷属状態は自然に解けることはなく、きちんと手順を踏まなければ解放される事は無い。

 きちんとした手順…隷属魔術を使った魔術師本人に解かせるか、専用のアイテムを使うかしかない。契約の上書きは適性のある他の者でも可能だが、その土台となる隷属状態は別なのだ。言うなれば、その魔術師が土台にパスワードをかけている状態である。適当にやって解除出来るものではない。


 奴隷が隷属状態のまま逃げ出したとして、普通に暮らす事は難しい。街へ住もうとすれば、手続き上ステータスを見られる事になる。野良の奴隷という事が判明すれば、一時拘束され取調べが行われるのだ。不当奴隷の可能性もあるので、暴れない限り手荒に扱われる事は少ない。取調べも仮の主人を契約させ、命令で縛って質問すれば、奴隷になった経緯諸々知る事が可能だ。

 もし不当奴隷…犯罪や借金もしていないのに捕まってしまい、不当に奴隷に堕とされてしまったと判断されれば、保護または隷属状態からの解放に向けて援助が行われる。…悪人に捕まらなければだが。


 では現在のララの状態はどうなっているのか。

 隷属状態であり、現在リュートの奴隷となっている。つまり前の主人であった人物のステータスから、奴隷としていたララの名が消えているハズである。

 そう考えるのが普通だが…。


「不当に契約してララちゃんを奴隷にしていた人物のステータスには、おそらくララちゃんの事が死亡していると表示されていると思います」

「…私、やっぱり死んだのでしょうか?」

「ううん、死んでるように誤魔化しただけでちゃんと生きてるよ。助けた時はギリギリだったけどね」


 リュートが使った手段は、隷属魔術を丸ごとコピーするという荒業だった。

 封筒に入った手紙を開封せずに中身を書き写すような作業、到底普通の人間にできるものではない。よく見える『眼』は本当に便利である。


 ではコピーした後どうしたのか。

 手頃なゴブリンを1匹捕まえて情報の改竄(かいざん)…ステータスの名前をいじる事で、ララという名を持ったネームドゴブリンに仕上げた。その後、隷属魔術を土台からコピーしたものをゴブリンに転写。それと同時に本物のララには契約の上書きを行った。作業が終わると、ゴブララは犠牲となったのである。


 試した事がない行動だったので、どこまで上手くいっているかはリュートにも分からない。もし上手くいっていれば、ララの死を偽装する事が出来ているはずだ。

 ララ本人には伝えない方がいいだろう。ゴブララの存在はリュートのみが知っている。


 …ゴブララは既に魔石となってギルドで袋詰めにされているが。


 コピーから何からが全て上手くいっていなかった時の保険として、ララの隷属状態は残してある。

 奴隷からの解放に時間がかかるのは確かだが、解放すると隷属魔術をかけた魔術師本人にバレてしまう可能性があるという点があるのだ。もしゴブララの死で誤魔化せていなかったら、隷属状態から開放した瞬間、魔術師に不信感を持たれる事になる。逃亡されるのを避けたかったのだ。


「犯人と一緒にいるか、繋がりがあると思われる魔術師をどうにかしなければ安全とは言い切れません。それに…いつかまたララちゃんのように不当奴隷へと堕とされる人が出てくるでしょう。それを止めたいんです」

「そうか…、しかし1人捕まえたところで変わらんぞ?」

「分かっています。エリオス様のように大きな志を持っているわけではありません。身近な人がこんな目に遭わされたので、仕返しをしたいだけ…個人的な復讐です」

「がはは…、その魔術師はとんでもないハズレを引いたな。どうするつもりだ?」

「さぁて、それは相手次第じゃないですかね?」


 ニヤッと口の端を上げたリュートだったが、その目は笑っていなかった。

 その場に居た全員の気持ちが一致した。…ララへ隷属魔術をかけた魔術師への怒りは同情へと変わっていた。



「あぁ、肝心の犯人の名前を言ってなかったですね。ララちゃんを連れ去ったり奴隷にしたり、その指示を出していた人物。スタンピードにまで発展したこの一連の騒動を引き起こしたのは───」


 ギャバット・ヘルオン

 ヘルオン二爵家の息子で、ジャガーバルト領でひと悶着起こした人物である。

 ララの不注意で馬車を止めてしまい、侑人に適当にあしらわれ騒動が広がり、それを見ていたジャガーバルト領の住民からプークスクスと陰で笑われていた人物である。

 実際にあしらわれたのは馬車に付いていた兵士ではあったが、ギャバットもプークスクスされていた事に違いはない。


「あいつか…」

「…あいつなんて言えば不敬罪だとか言われて捕まるぞ?ニック」

「あいつなんかあいつで十分だ! ふん!」

「まぁ、俺もやっぱりか…とは思っちゃいるがな」


 ニック、おこである。

 侑人と兵士が口論をしていた時は面白がりながら見ていたが、今となってはちゃんと止めておけば良かったという後悔で、自分自身にも怒りを覚えているのであった。


 確かに不注意だったララにも悪かった所はあったかもしれない。が、奴隷とされた上に殺されそうになる程の重い罰を科すものではない。


 ギャバットとしても、魔物寄せの香をダンジョンで炊く事で、初級ダンジョンでスタンピードが起こると予測出来ていたわけではない。危険な事に変わりはないが。


 更には、


「私…侑人が行方不明になった日に襲ってきたのも、ギャバット…ヘルオン家に依頼された人物だったと思います」

「「「「「!?」」」」」

「そうなのか?」

「他にいないかなって消去法ですけどね…。侑人の事を脅威ではないと思ったのでしょうけど、『何をしたか知らないが死んでもらう、お貴族様を怒らせたお前が悪いんだ』みたいな事を言って余裕ぶってましたから。関わりのある貴族なんて、ラルフさんかエリオス様、ヘルオン家のギャバットしかいないので。結局無駄に情報を漏らして侑人を殺す事に失敗して、その辺を思えば三流の刺客とも思えますが。見方を変えれば、スタンピードの原因は私にある、とも言えます」

「それは…、結果論に過ぎん。リュートに非は無い」

「…ありがとうございます」


 侑人が襲われ、一連の騒動の遠因となっている。その言葉を否定したラルフの優しさは領主としてか友人としてか、父としてか。

 情報の多さについていけなくなっていた他の皆は、とりあえずうんうんと頷くのであった。


これにて三章終了です。

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