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【一旦完結】ジャガーバルト家の義妹  作者: もにーる
第三章 スタンピード編

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3.少女

シェリル視点です。


 side:シェリル・ジャガーバルト


 母様が倒れ、父様が重傷を負って街へ運ばれ、ニックさんとフランソワさんと一緒にいつ終わるとも知れない戦闘を続けていた。

 レッドウルフやブラックウルフの相手は私にはまだ早かったので、フランソワさんが前に出て相手をしてくれている。

 そこへ現れた3匹目のオークロード、今はニックさんとフランソワさんが2人がかりで戦っている。

 私のサポートに銀の盾の皆さんがやってきてくれた。


「大丈夫かい? シェリルちゃん」

「はい! 今はオークロードをニックさんとフランソワさんが対応しているので、そのサポートに回ってます!」

「分かった、雑魚を近付けさせ───」


 銀の盾のリーダー、ジャックさんが言葉を途中で止め、森の方を見ている。………オークロードが新たに2匹。

 距離はまだあるけど、確実に近付いてきている強敵に膝をついてしまいそう…。


「………どう、すれば…」

「しっかりしろ。倒さなくていい、時間を稼いでいればギルマスとフランソワさんが加勢に来てくれる、それまでの辛抱だ。ユート、シェリルちゃんと組んでくれ」

「分かった、よろしくなシェリルちゃん」

「わかり、ました。よろしくお願いします!」


 ユートさんと同じ名前の銀の盾のメンバーのユートさん。街にいれば話をする機会はあったけど、まさか組んで戦う事になるなんて思いもしなかった。

 そこでジャックさんが口を開いた。


「…なぁミランダ、言う時が無くなると困るから、こんな場所で言うんだけどさ…。この戦いが終「ダメです!!」…、えぇ~?」


 思わず止めてしまいましたが、これは確かユートさんが言っていた死亡フラグというやつでは!?

 不満そうな顔をしている銀の盾のみなさん…。ですがこんな場所でそんなことをしないでください!


「ご、ごめんなさいジャックさんミランダさん。でも、ちゃんと勝って!帰ってから!やってください! それまでは言っちゃダメです!」

「そ、そうか? 分かったよ」


 私の圧に押されたジャックさんは素直に従ってくれた。



 その少女が現れたのは突然だった。

 私たちは2匹のオークロード相手の時間稼ぎに備えていた。そこでニックさんが体勢を崩して狙われ、それを庇うようにフランソワさんがオークロードのこん棒を正面から受け止めようとした時、オークロードがピタッと動きを止め…次の瞬間オークロードの頭が弾け飛んだ。オークロードが振り上げていたこん棒を持つ手はだらりと下がり、頭の無い巨体は地面に膝をついた。


 役目を終えたように、勢いを無くして地面へ落ちた…まん丸な石。誰かが投げたのかしら…。私の握りこぶしくらいの大きさ、でもオークロードの頭を弾き飛ばすほどの威力で…、その後の石の落ち方はなんだか不自然。

 そう考えていた時、ゆっくりと立ち上がったオークロードの頭部が再生を始めていた。あれでも死なないのね…。


「…え?」


 オークロードの胸に横向きで着地したような姿勢の少女が居た。いつの間に?誰?どこから?と頭の中に浮かんだ疑問は、


「ふっ!」

「ブゴォ!?」


 少女に両足で蹴り飛ばされ、転がっていくオークロードを見て消えてしまった。少女は舞うようにくるりと後ろに一回転して着地した。飾り気のない服に、裸足で、ボロボロのマントを身に着けていて、そして輝くような白い髪をした、可愛らしくも凛々しさを纏った少女。まるで劇を見ているよう…。

 ………、どこまで転がるのかしらあのオークロード…。ゴブリン達がどんどん巻き添えになってるわね…。


「助太刀します! 状況は!?」

「…!感謝する! 今森からモンスターが押し寄せてきている、おそらく初級ダンジョンからだ。時々さっきのような、ここにはいないはずの強いやつも出てきている」

「怪我人は?」

「死者は今の所ない。怪我人は街に教会があって、そこで手当てを受けている。この街の領主も今…治療中だ」

「…分かりました。一旦蹴散らします、距離を取ってください」

「ひ、一人でか!? 無茶だ!」


 ニックさんがすぐさま我に返り、状況の説明をした。誰かは分からないけど、オークロードを吹き飛ばせる程の力を持った少女が手を貸してくれるのは心強い。

 それでも一人で蹴散らすなんて…。


「あ~、まぁ一人ですね…、ではその場を動かないでください。あと炎木えんぼくを1本もらいます」

「か、構わないが、どうするんだ?」


 許可をもらった少女が、街から持ってきていた1本の黒い木…横たわっていた炎木に触れると…、


「「「………」」」


 消えてしまった。夜に備えて明かりとする為に持ってきていた火の付きやすい木、炎木。…どこへ? 長さ3mはある、少女より太くて大きな木が一瞬で消えてしまった。マジックアイテム…マジックバッグ? …そんな高価なもの持っているようには見えないし。と言うか、持ってたとしてもあの大きさは入らないよね?普通。…普通って何だっけ。


「…粉砕……風を……囲の……壁の前……よし、やるよヒサメ」


 少女が何か呟いた後、チリーンと鈴の鳴る音がして、その手にはいつの間にかどこかから取り出した…鞘に納まった剣があった。握る部分を含めて60cmくらい…、短いけど剣…よね。持ち手と鞘の境目に装飾品がくっついている。とても綺麗…。

 しかしその感想は、


「シッ!」


 少女が姿勢を低くして横に一閃、前方にいた大量のモンスターを切り裂いた事で恐怖に変わった。100匹はいたと思う、あんな長さの武器でどうやって…剣が伸びた?いやいや…。

 振りぬいた格好の少女、その手にある赤黒い剣身けんしんをした片刃の剣。


 ゾワっと鳥肌がたった。見るだけでこんなにも圧を感じる…。ニックさんとフランソワさん、銀の盾のみんなも顔が強張って冷や汗が出ている、同じ事を思っているのかもしれない。

 地上にいたであろうモンスターは緑色の血を流し、ダンジョンから出たモンスターも血を流した後に消えてアイテムと魔石を落としている。

 少女が右手を前に伸ばし、手のひらの先に小さな光が生まれた。先ほどの片刃の剣はどこにも見当たらない。状況に追いつけず混乱していると風が吹き始め、その風がドロップ品だらけだった戦場からアイテムと魔石を空へ巻き上げていく。

 魔石が1個だけ、少女の手元に飛んできた。他の魔石の行き先を見れば…街を囲う壁の方へ積み上げられているわね、…風系統の魔術かな、あんな事出来るんだ…。


 感心していると、少女が5歩森へ向けて進んだ。一時的に目の前のモンスターがいなくなったので、冒険者が、兵士が、街を守るために戦っていた皆がその光景を見ていた。

 今度は両手を横に広げ、そこに先ほどと同じく小さな光。…あの光が魔法陣…なのかな? 分かんないや。今度はその両手を下げ、しゃがんで地面に触れた。すると、


「「「「「………」」」」」


 地面が削り取られ、少女から左右に、高さ5mくらいの壁が出来上がった。横には…広すぎて分からない、それぞれ200mはありそう。少し森側に反ってるかしら? そりゃみんな言葉を失うわよね、私も含めて。

 さっきの風系統魔術は器用に使ってたし、今の魔術も最初のちょっとだけしか揺れなかったし…。こんな使い方一体どこで…。

 風と…土系統魔術…なのかな? 適性が2つあったとしても、普通こんな規模で使えないんじゃ…? 少女の見た目からも、凄腕の魔術師と言うには幼い…若過ぎるし。


 あれこれ考えていたら…少女の作った左右の壁の間…2mほどの隙間から、こちらに進んでくるモンスターが目に入り我に返る。先頭には、多分さっき転がっていったのを含めたオークロードが3匹、その後ろには数える気も起きないゴブリンやグレイウルフの群れ。


「これからちょっと危険な事をしますので、念のため気をつけてください」


 ………危険。…危険ってなんだっけ。さっきの片刃の剣を使うより危ないの…?

 銀の盾の2人…ジャックさんとユートさんが私たちの前に出て盾を構えてくれた。


「………………」


 少女の呟きは声が小さくて聞き取れなかった。けど、遠くに見えるオークロード3匹が地面に沈み、風が意志を持ったようにモンスターに向かって吹いていき、黒っぽい粉がその風に乗り、その粉がモンスターを覆い隠すように集まった。

 大きく膜を張ったような、視界の悪そうなその場所には、モンスターが500匹くらいはいるかもしれない。喉を抑えてる? 毒…なのかな、あれで弱らせるのかもしれない。

 しかしそれは、そんな優しいモノではなかった…。


「『ファイア』」


 今度はちゃんと少女の声が聞こえた。火系統魔術の初歩の初歩、戦闘にはとても使えないけど、魔術師や鍛冶師のジョブを持っている人は火種としてよく使っ───


 ドウゥン!!!!!


 衝撃が体を突き抜け、私は尻もちをついた。モンスターの居た場所から、大きな火が天に届きそうな程上がっている。いや、瞬間的に発生した火が、火と煙を巻きながら昇っている。

 しかしその昇っていた火は数秒の内に消えてしまい、煙だけが昇っていった。煙の塊だけが空をどんどん進んでいる…。大きな火が上がったその場所に視線を戻すと、胸元まで地面に沈んだまま燃えているオークロードと大量の魔石とアイテムがあった。

 私は立ち上がりながら考えてしまう。1人の人間が、あんな威力の魔術を使って平然としているなんて…、いや違う。そもそも『ファイア』がどうしてあんな…。


「ひとまずはこれで大丈夫だと思います。沈めたアレの対処とアイテムの回収は今のうちに。もしモンスターが近づいてきたらこの壁の間から誘導して倒していってください。この狭さなら余裕を持てるでしょう。回復は大丈夫ですか?」

「…ぁ、あぁ…」


 さすがにニックさんも目の前の状況を飲み込めていないみたい。振りむいた少女に声を掛けられ、なんとか返事を絞り出した感じだった。


「ではこの場をお願いします、私は街へ行ってきますので。『オールアップ』。体が軽くなっていると思うので戦闘時は気をつけて。効果は1時間程度です、では」


 頭が理解する前に、少女は言いたいことを言うと物凄い速さで街へ行ってしまった。走るというより大きく飛ぶように…あ、もう着いてる…。

 自分の常識では全く理解できない出来事の連続。あの子は天の使いだと言われても納得しちゃいそう。


 ………、あの子なら父様の怪我さえ治せちゃうのかな? 街へ向かったのはそういう事よね…? でもきっと戦闘系の…ううん、今は勝手に信じさせてもらおう。

 ボーっとしてられない。私は立ち上がって…体の軽さを実感した。…ナニコレ。

 みんなも手を握ったり開いたり、軽く飛んだりして確かめているみたい。フランソワさんは「漲るわああぁぁん!!」とすごく元気だった。

 そこでパンパン!と、ニックさんが手を叩いて皆を注目させた。


「今はあのオークロードを先に処理しよう! アイテムと魔石の回収もだが、安全を第一にな! 基準戦線はこの壁の後ろ、ここだ! 行動が終わったらここへ戻ってくること、考えるのはそれからだ! いくぞ!」

「「「「「おう!」」」」」


 危機的状況を1人でひっくり返し、皆に希望を与えた少女。

 その少女が私の妹になるなんて、この時は全く想像もしていなかった。


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