表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【一旦完結】ジャガーバルト家の義妹  作者: もにーる
第二章 異世界生活編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/262

11.ユート

side回です。

ちょっと長くなってしまいました。


 side:ミュリアル・ユースウッド


 ユート先生に出会えたのは本当に奇跡だと思う。初めての時はビックリしたけど、シェリルにはすごく感謝している。

 お礼に新しく書き直したニホンゴの辞書をあげようとしたけど断られた、なんでだろう。


 ニホンゴの授業をしてもらえる事になってお礼を渡したのに、ユート先生に怒られてしまった。金貨3枚では高いらしくて、丁度いい金額を話し合って決めた。

 貰っておいて損はないのに…、ユート先生は不思議な人だ。


 ユート先生にはステータスもジョブも無かった。『魔力譲渡』を使ってみたけど手応えがない、こんな事は初めてだった。

 ユート先生は謝るけど、私は師匠だ。絶対にユート先生が喜んでくれるように頑張る。…なんでこんなに頑張ろうって思うんだろう?

 …うん、師匠だからだね。


 ユート先生と王都に行った。コヒの実を飲むって聞いてちょっと引いた。

 虫よけにも使われるアイテムなのに飲むという事は、ユート先生のお腹には虫がいるのかもしれない。説明を聞いたら勘違いっぽかった、ちょっと恥ずかしい。

 完成したコヒの実の汁は、思ったよりいい匂いがした。けど、ユート先生が「まっず!」と言っていたので失敗だったみたい。


 ミスズと会ったのはコヒの実の汁のお陰だった。一爵の家に行くなんてそうある事じゃないからちょっと緊張した。でもエリオスはとてもいい人族だった。

 そこでユート先生はリュートを弾いてくれた。ううん、ミスズと一緒に歌を披露してくれた。

 私は…私達は、だらしなく口を開けたまま聴き入ってしまった。なぜこれほど素晴らしいものが今まで世の中に無かったんだろう。ユート先生にまた聴かせてもらおうと思った。


 ユート先生と狩りに出掛けた。比較的弱そうなゴブリンと戦ってもらった。

 危ないと思ったら助けに入るつもりだったけど、その心配はいらなかった。モンスターにもステータスはあるけど、その強さで勝利が決まっているわけじゃない。

 背丈も肌の色も違うけど、人と同じ姿形をしているゴブリン相手に、ユート先生がちゃんと戦えた事が…勝てた事がとても嬉しかった。


 ただ、初討伐…初勝利のお祝いの時、ユート先生は食欲が無さそうだった。

 それは誰もが通る道。分かってはいても…その姿を見た時はとても心配だった。

 私も最初はユート先生に戦わせる事に抵抗があったけど、生きていく為には必要な事だから。師匠としてユート先生には生き抜く力をつけてもらわなきゃ。

 そしていつか…ご褒美に歌をおねだりしようかな。


 王都に出掛けた。ユート先生は用事があって留守番だった。

 王都への道中、王都へ着いてからも、…なんだかつまらなかった。思えばユート先生と出会って3カ月、ほとんど毎日一緒にいたのだとその時気付いた。

 私は頭を振って、ユート先生の力になれるようにあちこち調べ物をして回った。図書館にどんな本があるのかは大体知っていたからあまり期待はしていなかったけど、やっぱり期待した物は見つからなかった。


 ミスズのいる一爵の家へ挨拶に行って、久々にミスズと会った。ジャガーバルトの街で会ったのを含めて顔を合わせるのは3回目。以前ミスズがジャガーバルト領に来た時、


「もしかしたら、先生は俺じゃなくて美鈴ちゃんになってたかもしれないね」

「もし侑人さんがジャガーバルトの街に来てなかったら、もしくは時間がズレてたらあったかもしれないですね」


 と2人が話していた。

 私は想像してみたけど…なんともしっくりこなかった。先生はユート先生…う~ん? 多分先に出会ったからユート先生以外を先生と思えないのかもしれない。そう自分の中で解決した。


 ミスズと話をしていると、エリオスが一冊の本を持ってきてくれた。その本には『賢者の書』と書かれていた。学園でも図書館でも見た事がない本だった。さすが一爵、珍しい物を持っている。

 エリオスはこの本を貸してくれると言った。思わず期待してしまってたみたいで、ミスズに「嬉しそうだね」って言われた。恥ずかしい。


 本は難しい内容や辞書が無いと読めない文字が多かったけど、その分だけ期待値は高い。ユート先生の助けになるものもあるかもしれない。


 待っててねユート先生、もうすぐ帰るよ。



 side:ラルフ・ジャガーバルト


 ミュリアルと共に王都から戻って2日が経った。ユート殿の行方が分からなくなってからもう5日も過ぎてしまった。


 領地に帰ってきて知らせを聞いた時のミュリアルの取り乱し様は、今までに見た事がない程だった。最近の彼女が表情豊かになっていたのは間違いなくユート殿の影響だろう。


 不安が爆発したのか…既に日が暮れているというのに森へ探しに行こうとした彼女を皆で落ち着かせた。


「少なくとも俺たちが帰ってくるまでの3日間、銀の盾や他の連中も探してくれてたんだ。こんな暗い中で探しに出ても見つからねぇって」

「でも! もしかしたら今なら見つかるかもしれない!」

「とりあえず落ち着け! 無事かどうかは分からねぇがお前の弟子だろうが。信じるのも師匠の役目じゃねぇか?」

「師匠の…でも、うん…。ユート先生は、多分無事…」


 ミュリアルが両手を組んで胸元に持って行った。

 彼女がユート殿に渡していた『祈りのミサンガ』との魔力の繋がりを確かめたのだろう。相手の場所が分かるような機能はないが、ミサンガが切れれば、それが魔力を込めた者に伝わる仕組みだったハズだ。

 茶化すには真剣過ぎるミュリアルの表情に、開きかけた口を閉じた。あれは家族や恋人の無事を願って贈るものなんだがな。まぁ…、心配性な師匠って事にしておくか。


 ユート殿、今どこで何をしているんだ? 俺だって不安なんだぞ?

 もしかしてニホンに…元の世界に帰っちまったのか? そうだったら俺もまぁ、嬉しいんだけどな。けどこんなに想っている者がいるんだ、俺も含めてな。

 それに、王都から戻ってきたら聞くはずだった返事、まだ聞いてないんだぞ? 見せたい物もあるんだ、ニホンに戻れてないなら早く帰ってこい。



 side:ミランダ


 その人はなんだか…、パッとしないおっさんだった。おっさんって言っても、見た目はまぁ…お兄さんってくらいだけど。

 話してみると40歳に近いという事だった。言葉もまだ覚え始めたばかりのようで苦労していたっぽい。…今まで何処で何をしてたらそんな事になるんだろう? 気になるけど聞けない。

 そんな年齢から冒険者を始めるなんて、よほどの事情があったんだと思う。気が向いたと言うか…、なんだか放っておけないのでたまに手を貸してやっていたんだけど、おっさんの師匠って人が領主の元冒険者仲間なんだって…。癖の強い経歴だわ。

 それにしても腰が低い。…丁寧とも言えるけど。


「そんな感じじゃゴブリンにも舐められるわよ?」


 と言うと、


「ゴブリンじゃないけど舐められた経験ならあるよ」


 と答えながら苦笑いしていた。大丈夫なのかな…。


 ある日あたしは、恋をした…んだと思う。頭が真っ白で何も考えられなかった。

 普段見かけない4人組パーティーがギルドにやってきて、その内の1人から目が離せなかった。彼らはギルドを出て行ったけど、その日は何も手につかなかった。


 あたしは翌日もギルドにやってきたけど、放心状態だった。いつの間にか隣にいたユートさんに声をかけられるまで、クエストボードに向かってボーっとしていたみたい。

 気付いたら昨日あった事をユートさんに話していて、話している最中も夢の中にいるようにフワフワしていた。

 先輩冒険者としてシャキッとしないと…、そう思って意識を切り替え───、あたしはまた頭が真っ白になった。…って、ユートさんがあの4人組と話してる! 知り合い!? なんで!?

 ユートさんどっかいっちゃった! 帰ってきた! なんだかめっちゃ感謝されてる!? え、あたし呼ばれてる? 口に手を添えたユートさんが手招きして…耳打ちかな? …銀の盾っていう名前なの? 今夜一杯飲みに…? 最低限パーティーに…? ………え?


「ととと突然すぎてあたし、どどどうしたらいいのか分かんないんだけど!?」

「気分を楽に、一緒に話してみればいいんですよ。じゃないとずっと頭が真っ白のままかもしれませんよ?」

「ゔっ…」


 あたしは流されるようにその日の夜、酒場へ向かった。乾杯をして1杯飲み終えた…気がする、あんまり覚えてない。けど少しだけ落ち着けた。


 ユートさんが銀の盾のメンバーの名前、役割担当やこれまでの活動、色んな事を質問していてそれをこっそり聞いていた。あの人はリーダーでジャックさんって名前なんだ。かっこいい…。

 するとユートさんと目が合った。なんだかすごくあたしの事褒めてくれるんだけど!? 一緒にきてたフランソワさんまで! 基礎を教えたり一緒にクエストに行った事がすごく美談に聞こえるんだけどなんで!?

 いつの間にか話が進んで…、銀の盾にお試しで加入するって話になって…、銀の盾のみんなに家まで送ってもらって…。家のベッドの上で枕を抱きしめて、声にならない声をあげながら悶えた。

 ひとしきり悶えた所であたしは思った。


「………、ユートさん、マジ神」


 あたしはまだユートさんに何もお礼を出来ていない。多分「いらないですよ」とか言いそうだけど、それじゃあたしの気が収まらない。

 今とても幸せな気分なんだ。恋かもしれないと思ったあの気持ちは、今なら恋だってはっきり言える。

 気付かせてくれた、チャンスを作ってくれたユートさんにしっかりお礼しないと!


 だからユートさん、早く街に帰ってきてね。

 あたしは…、あたしたちは今日もユートさんを探しに出かけた。



 side:フランソワ


 その人はとっても…普通の人だったわん。そう、普通の人…。ユートさんはあたしの体格や服装を見ても嫌悪感を表さず、ちょっと驚いた顔をした次の瞬間には普通に接してくれたわん。

 この街に居る人達も悪い人じゃないけれど、最初のうちは誰もがあたしとの距離感を測っていたの。それはかつて一緒に冒険者をしていたラルフさんとニックさんでも同じ。受け入れてもらえはしたけど、まぁ…それなりに時間はかかってたわん。

 久々に会う元パーティーメンバーの内面や服装がガラッと変わっていたらそうなるのも仕方ないと思うけどねん?


 街には今でもあたしとの交流を苦手にしている人もいる。話し方や表情で分かってしまう。

 あたし自身、これでいいのかな?って悩んでいた時期もあったわん。好きな物を作って、好きな格好をして、悩みはしたけど開き直ってしまえば気持ちは楽だったわねん。

 ただ…小さい頃から体が大きくて筋肉質なのが今でも悩みなのよねん。


 ある日ユートさんが「王都へ出掛ける」と、わざわざ伝えに来てくれた。戻ってきたら一杯飲みに行かない?って誘ったら、「ぜひ!」って言ってくれたのん。

 こんなあたしに普通に接してくれるユートさんの存在が、とても嬉しかったわん。


 無事に王都から戻ってきたユートさんからお誘いがあって、ちょっとした相談をされたのん。その日の夜に銀の盾という名前のパーティーとミランダちゃんと一緒に酒場で飲んだわん。

 ユートさんに相談されていた通り…ミランダちゃんのいい所をユートさんとあたしが話し、銀の盾の皆へ伝えたのん。話はとっても上手く進んで、ミランダちゃんは無事に銀の盾に加入する事になったわん。

 その日の酒場からの帰り道、ユートさんと交わしたグータッチは今でも忘れられない。あたしが本当に女だったなら惚れていたかもしれないわねん。


 あの人はもうこの街の一員。あたしにとっても大事なお客様で、大事な友人。

 だから…どうか無事でいて。あたしは店を臨時休業にして、今日も友人を探しに出掛けた。



 side:ミル


 ユートさんは、初めて会った時…とてもおいしそうにゃ匂いがしていました。興奮して語尾に「ニャ」がついてしまいそうにゃ程に。その後『ちゅるり』という存在を知りました。


 ユートさんにおやつを貰う時は至福の時間でした。耳や尻尾を触られてでも、あのおやつは欲しくて欲しくて…。それほど『ちゅるり』というおやつは魅力的でした。

 あんにゃご褒美を知ってしまったら、もう抜け出せにゃいです。


 ある日、ミスズ様というお客様がいらっしゃって、ユート様と一緒に歌を披露してくださいました。

 しーえ…むそんぐ?というそれはにゃんとも魅力的で…いえ、誤魔化すのはやめます。涎が駄々洩れににゃりましたニャ! あの歌が頭からはにゃれませんでしたニャ!


 既に聞いていた事でしたが、『ちゅるり』の数には限りがあります。ミルの事を思ってユート様がおやつを管理してくださっていました。けれど…それもあと1本で終わりのようです。

 絶望…はしませんでした。『ちゅるり』も大好きですが、ユート様にモフモフ?をされるのも好きににゃっていたみたいです。もちろん美味しく食べましたけどね『ちゅるり』!


 そんにゃユート様がある日…帰ってきませんでした。次の日もその次の日も…帰ってきませんでした。

 ミルも街を探し回ったりしましたが、見つかりませんでした。どこに行ってしまわれたのでしょう…。

 領主であるラルフ様とミュリアル様が帰ってこられて、それでもユート様は…帰ってきませんでした。

 早く帰ってきてくださいニャ! ミルがモフモフさせてあげ…ううん、モフモフして欲しいですニャ!



 side:シェリル・ジャガーバルト


 ユートさんの行方が分からなくなって1週間…10日が経った。

 私も街の警邏とは別に探しに回ったけど、なんの手掛かりも見つけられなかった。

 森の中も、初めて会った湖も、野宿をしたと言っていた場所も。本当にどこへ行ってしまったんだろう…。

 父様が「もしかしたら元の世界に戻った可能性もあるが…」と言っていたけど、憶測でしかない。


(最悪の場合の想像はしちゃうけど。…死…死体、も見つかってないし…)


 森にある初級ダンジョンの中も探した。精力的にユートさんを探していたパーティー、銀の盾と情報交換もした。けれどこれといった手掛かりは無かった。

 ミュリアルさんも朝から晩までユートさんを探していたのを見てきた。探せる範囲は探し尽くしたのか、「王都で情報を集める」と言って出て行ってしまったけど、その顔は焦燥しょうそうしていて…。

 ユートさんと離れていなければ…王都に行っていなければって、自分を責めているのが分かるほどに。



 あの日、ミュリアルさんと久しぶりに会うので水浴びに出掛けた。街に繋がっている川を沿って行くとある湖。基本的に誰も来ないし、水が綺麗なせいかモンスターも殆ど近付いてこない。

 もしもの為に『感知のネックレス』を付けていたんだけど、その時はネックレスは反応せず、声をかけられるまで全く気付かなかった。普通であれば声が届く距離で反応しないなんてあり得ない。

 思わず大きな声が出てしまったけど、その人は後ろを向いて手をあげていて、小さな武器と…なぜかリンゴを持っていた。


 聞いた事のない言葉を発しながら、小型のナイフを地面においたその男。敵意はないように見せていたけど、まだ油断は出来ないと思った。

 湖から出て剣を抜き、悩んだ所で目に入ったリンゴの名前を言った所で男が振り返って…、また顔を逸らせるように後ろを向いた。ちらりと見えたその顔は、父様より若い年齢に見えた。

 その時…咄嗟にだろう、彼の発した言葉はとても聞き覚えがあるものだった。『ゴメンナサイ』。ミュリアルさんに聞かせられた事のある謝罪の言葉だったはず。


 地面に置いた…見た事もないナイフ、聞き覚えのある謝罪の言葉、ここらでは見かけない服装。点と点が繋がるように答えへと導かれていった。

 私はミュリアルさんに教わった言葉を、ミュリアルさんが我が家に来た時によく返す言葉を、彼に向けて発してみた。


『オカエリ?』


 と。

 彼は『タダイマ?』と返事をしてくれた。正解だったみたい。



(ミュリアルさんを驚かせるつもりで招待して、結局大成功だったんだけど…、その後は思ってたのと違ったな~)


 夜寝る前に、ユートさんと初めて出会った事とその後の事を思い出し、思わず笑っちゃった。


 けど…、そのユートさんが今は居ない。3カ月前の状態に戻ってるだけなのに、大事なものが欠けてしまっている気がしてならない。


 本当に帰っちゃったんですか? ミルは言葉には出さないけど、寂しそうですよ? 父様も母様もマリアも、ミュリアルさんも、私だって…。


 いけない、沈んでないで眠らないと。明日も空いた時間で探すんだ、夜更かししてられない。

 まだ正式に家族になったわけじゃないけど、皆待ってます。ユートさん、あなたの帰る家はここにあるんです。元の世界に戻っていないなら、早く帰ってきてください。


これにて二章完結。


次話から三章に入りますが、三章の1話~3話が短編部分になります。

1話に当たる部分には加筆がされていますので、ぜひ連載版も読んでいただければと思います。


加筆部分

・冒頭、シスターとの会話

・怪我・叙爵の経緯

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ