14.答え合わせ
前話後書きにて
次話投稿予定日を「28日(金)」と間違っていました。金曜日は29日でした。ごめんなさい。
…間違っていたので、本日投稿します。
簡単な前話あらすじ
・先天性結合症について
・昏睡状態の原因はスキル
・王子興奮中
「では改めて、ソフィア様の治療方法についてお話します」
「…ジュード様、大丈夫ですか?」
「あ…あぁ…。問題無い、続けてくれ」
聞く事に集中し過ぎていたジュードは、椅子に座ったまま前のめりになっていた。
姿勢を正し、続きを促すと、リュートがそれに応えた。
「分かりました。まずは、ソフィア様の体力を戻す必要があります」
「体力を戻す…。というと?」
「ポーションに頼らなくても済むように、目覚めた後に食事をしてもらいます」
「………食事、………食事?」
ソフィアが目覚める事が前提の話。ソフィアが目覚めた後の話。
ジュードのしていた想像は、現実のスピードに追い付けていなかったようだ。
「はい。10年近く食事をされていないので、消化に良いものを。最初は薄味のスープの方がいいかもしれません。果物も…果物は磨り下ろしてあった方がいいですね」
「それは、…すぐに用意しても…いいのだろうか?」
「ええ。準備が出来次第、ソフィア様のスキルを停止させます」
(スキルを停止…? それがソフィの治療法なのか…?)
「………1つ、聞きたい。それが治療法…という事だろうか」
「いえ、治療の前段階として目覚めていただく、という形です」
「なる…ほど。…すまない、気が急いていたようだ。リュート殿が「まずは」と言っていた事が頭から抜け落ちていた」
「そうでしたか。気になる事があればいつでも言ってください」
「分かった。続きを頼む」
ジュードは深呼吸をして、治療方法を聞く事に専念した。
「はい。改めて言いますが、最初にソフィア様の体力を戻します。…ポーションを摂取していなくても問題無い状態になってもらいます。幸い…というのもなんですが、ソフィア様の身体の内側に極端に悪い場所は無さそうなので。早ければ明日には治療に入れるかと」
(………、身体の…内側…。一体リュート殿には何が見えているというのだ…)
「ソフィア様の治療についてですが、…完治しない可能性もあります」
「っ、そうか…」
(…いや、落胆している場合ではない。完治以前に、ソフィアはずっと目を覚まさなかったのだ。ソフィアが目覚めるだけで十分ではないか。…私は、いつの間にか欲が出ていたらしい)
「リュート、その完治しない可能性はどれくらいあると予想してるんだ?」
「そうですね…。確率ではなくただの感覚的な予想ですが…10%も無いかと」
「………」
(10%…。つまり、90%は治るという事。…不治の病が? 私は…夢でも見ているのだろうか?)
「私の考えている通りだとすれば完治します。それでもやってみない事には分かりません。…完治しない可能性も考えておいてください」
「………」
「…ジュード様?」
「っ! すまない。その可能性もちゃんと考えておくよ」
考えておくと言いつつも、ジュードの胸は期待で溢れていた。
「よろしくお願いします。では、治療方法の詳細についてお話しますね。早ければ明日とは言いましたが、2日後3日後と延びるかもしれません。ソフィア様の健康状態を見ながらになりますので。安全と判断できた時には───」
☆
side:ジュード
「マリン」
「はい、ジュード様」
私はソフィアの部屋を出て、待機していたマリンに声を掛けた。
「食事の用意を頼む。詳細はこの紙に書いてある、料理長に渡してくれ」
「? かしこまりまし…た…。これは…」
「料理長には、私が少々疲れているとでも伝えてくれ。その上で、一応口止めもしておいてくれ。…マリン、これはソフィアの食事だ」
マリンに渡した紙には、リュート殿に言われた料理について書かれている。
「!? まさ…、まさかお目覚めに?」
「いや、これからだ」
「………これから…でございますか?」
「…ふっ、ふふっ、混乱させてすまないな。急ぎ用意してもらえるか?」
「か、かしこまりました…」
納得出来ていない様子だったが、マリンは紙を持って厨房へ向かってくれた。
10年眠り続けているソフィアの食事の用意。目覚めたからではなく、これから目覚めるから。
そんな説明をされれば、マリンが混乱するのも無理はない。彼女は、ソフィアが生まれた時から世話をしてくれている。…ずっと見守り続けてくれているからな。
(「なぜソフィが…」と、世界を恨んだ事もあった。「もし私の命で君が目覚めるなら…」と女神に祈った事もあった。…今では、ソフィとの再会を喜びたいと思っている)
(ソフィ、もうすぐだと思えば思うほど待ちきれないよ。…不安もあるけどね?)
マリンに代わって、別の使用人達…ハーラとアイリスが私の元へやってきた。
アイリスにはソフィアの部屋に入ってもらい、ラルフ殿とユート殿の世話をしてもらうよう頼んだ。
「頼んだぞアイリス。ハーラは付いて来てくれ。これからシャーロットの部屋へ行く」
「「かしこまりました」」
では、あの時ラルフ殿とユート殿が言っていた答え合わせとやらをしてみるとするか。
☆
シャルの部屋を訪れた私は、大人しく椅子に座っていたシャルに声を掛けた。
「シャル」
「お父様…、あの…」
「さっきは怒鳴って悪かったね」
「い、いえ! 私がお客様に失礼な事を言ってしまったのです! ごめんなさい!」
どうやら、悪い事を言ってしまった自覚はあるようだ。
「…謝る相手は私かい?」
「っ、…お父様、あの方は…クロ様ではないのです」
ユート殿はクロ殿ではない。
シャルは俯きながらもハッキリと答えた。
「…あの時、シャルには根拠があって「違う」と言っていた…という事かい?」
「…そうです。………あの、…えっと…」
「ゆっくりでいい、私に教えてくれ。魔眼を使ったのかい?」
「いえ! 魔眼は使っていません! お父様と約束をしているので、勝手に見る事はしていません!」
「そうか。では、シャルにはあの時…何が見えていたんだい?」
「っ! ………太陽」
「太陽…?」
「…私は、その人の強さ…輝きが見えてしまうんです…。見ないように集中していないと、勝手に見えてしまうんです…」
「………」
「クロ様は、太陽のような輝きでした。あれ程の輝きを放つお方は、他に見た事がありません。…あの方の輝きは、クロ様ではありませんでした」
輝き…。色ではなかったが、ユート殿が想像していた事が当たっていたか。
「そうか。…怒られると思って今まで言えなかったのかい?」
「…はい」
「教えてくれてありがとう。シャルの事をもっと知れて、私は嬉しいよ」
「…信じてくれるのですか?」
「嘘か嘘じゃないかなんて、シャルの顔を見れば分かるよ」
私がそう伝えると、シャルは目を瞬かせ、両手で自分の顔をペタペタと触り、…鏡の前に移動して自分の顔を確認し始めた。その行動に、思わず私の頬が緩んでしまう。
「…分かるのですか?」
「私は父だからな。シャルの事をいつも見ているから分かるんだよ」
「お父様はすごいのです!」
「ふふっ、ありがとう。…さて、シャル?」
「はい、お父様」
「もう一度、クロ殿…ユート殿と会ってくれるかい?」
「………、それは…」
笑顔で「すごいのです!」と私を褒めてくれたシャルの表情が、みるみるうちに暗くなっていった。…ユート殿を偽物と思っているはずだからそれも仕方ない事か。
「これは彼の提案なんだ。もう一度会って、シャルが「やっぱり偽物だ」と思ったならそう言ってもらっていい、とも伝えられている」
「………、お父様…」
「うん?」
「…お父様は、本当にあの方がクロ様だと信じているのですか?」
「そうだね、信じるに値する人物だと思っているよ。…でも私は、シャルを助けてくれた時の彼の姿を見ていない。本物だと思える材料があるというだけなんだ」
「………」
「かと言って、実際に彼を見たシャルの言葉を疑ってもいない。だから、もう一度だけ会って…答え合わせをしないか?」
「答え合わせ…ですか?」
「もしかしたら今度は…太陽が見られるかもしれないよ?」
「………、分かりました。でも、違った時は…」
「その時は「違う」とハッキリ言ってくれていい。ユート殿もそう言っていたし、私がそれで怒る事はしないよ。…でも、もし彼が本当に太陽だったら、きちんと謝ろうか」
「…はい」
渋々返事をしたシャルを連れて、私達はソフィアの部屋へ向かった。
☆
部屋へ着くまでの僅かな時間、頭の中では考え事で溢れていた。…ユート殿の事について。
シャルの勘違い…見間違えたという可能性は無いだろう。
先程までのユート殿はクロ殿では無かった。あの時の会話でも…ユート殿自身もそう言っていたのだから。
『クロ殿はユート殿なのだろう? 何が違ったのだろうか?』
『あはは…。厳密には少しだけ違うんです。その違いがシャーロット様には分かってしまったのかもしれません。それで偽物と言われたのでしょう』
…今なら少しだけ、ユート殿が言っていた意味が分かる。
ここへ来る前、…ソフィアの部屋を出る前、リュート殿がユート殿へと姿を変えたのを見た。その時のユート殿は、…姿を変えた瞬間だけだったが、それまでのユート殿と何かが違った。
何が違ったのかは…正直全く分からない。表情と言われればそうかもしれない。雰囲気と言われればそうかもしれない。答えは分からないが、何かは確実に違っていた。
その一瞬感じた違いが、シャルの言っていた輝きに関係があるのだろう。
(リュート殿の異常とも思える知識。全て作り話だったと言われても、今となっては…逆にその言葉の方を信用出来ない。それだけ納得出来る話だった)
(何より…ソフィアの治療法だ。そんな事が本当に出来るのであれば、…そんな力を持っているのならば、やはりリュート殿は…天からの使いなのではないかと思えてしまう)
(シャルの言っていた「太陽」という言葉。もしもリュート殿が…本当に天の使いだとすれば、シャルが「太陽」と言い表した事も頷ける)
もし私の考えている通りだとすれば…リュート様とお呼びするべきかもしれない。
スタンピードなどという前代未聞の現象が起きた地に降り立ち、人々を救い、鼓舞し、自ら先頭に立って戦われた。
今も…ソフィアを救う事に力を貸していただいている。知識を惜しみなく与えてくださった。
どのような目的があってこの地にいらしたのかは分からないが、今からでも相応しい対応をするべき───
(………)
ふと冷静になった。
この程度の事、ラルフ殿が気付かないわけがない。私よりも長くリュート…殿といたはずなのだから。
あの2人の事を思い出せば、信頼関係が深そうだとも思えたし、仲良さげだと感じる時もあった。友人という言葉がしっくりくる。
…そう演じている可能性も…いや、考え出せばキリがない。変に対応を変えるのはやめておこう。
「お父様?」
「いや、何でもないよシャル」
軽く頭を振った私を見て、シャルが心配して声を掛けてくれた。
もうすぐソフィアの部屋に着く。…答え合わせを見届けるとしよう。
ブックマーク・評価、ありがとうございます。
次回投稿予定日は1月1日(月)です。




