4.3カ月
簡単な前話あらすじ
・奴隷解放に奔走中
・美鈴召喚の手掛かりは未だ無し
・なんやかんやで桜華ちゃんが同行
3カ月の間、リュートが行っていたのはエリオスの依頼だけではない。
ある時はラルフやニックと共に王都のギルドを訪れ、スタンピードの説明も行った。
王都冒険者ギルドのマスター、バルトス。彼は改めてリュートに謝罪し、スタンピードの詳細を知った。王城で行われた会議ではラルフ達の話を後押しし、スタンピードという現象を他の貴族達に認めさせる一助となった。
バルトスはその翌日から、…正確には『ダンク食堂』での飲み会の翌日から、…表に出してはいないが、シルヴィアにガチ恋中である。…表に出していないと思っているのは本人だけで、周りからはバレバレだった。
是非…来世で頑張ってほしい。…寿命から考えて、来世では間に合わないかもしれない。
是非…別の世界線で頑張って下さい。
☆
ある時はジンの元パーティーメンバー…オードンと揉めた。
王都訪問中、オードンとジンが「戻ってこい」「戻らない」と言い合いをしていた所にリュートと桜華ちゃんが出くわし、…色々あった。簡単に言えば、オードンがリュートと桜華ちゃんにちょっかいを出そうとして…返り討ちに遭っていた。
ジンが以前組んでいたパーティー、『武の探究者』。そのメンバー達は当時…ジンをダシにして女性冒険者達を釣っていた。
合同での狩りやダンジョン攻略という程度ならジンも文句を言わなかったが、合コン的な飲み会の頻度が増え、…むしろ合コンばかり行うパーティーとなってしまい、ジンが脱退すると伝えたのだ。
ジンが上級ダンジョン前でリュートと出会う2日前の話である。
ジンが脱退を宣言したのは合コンの席での事。酒に酔い、女性冒険者達といい感じになっていたメンバー等は、ジンを引き留めなかった。…数日後には引き留めなかった事を後悔していたが。
結局、戦力と魅力の下がったパーティーは見向きもされなくなった。
ジンがジャガーバルトに拠点を移して十数日。…正確に言えば、大所帯で王都へやって来て、『ダンク食堂』で飲み会があった翌日。
王都に来ていたところを偶然オードンに見つかり、「パーティーに戻って来い」と無駄な誘いをされていた所で…リュートと桜華ちゃんに出会ってしまった。
可愛らしい2人に対して、
「ジンの連れか? なんだよ、お前も好きなんじゃねーか。しかもこんな上玉を…。2人共、俺と一緒に来いよ、本物の男の良さを教えてやるぜ」
と言ってしまったオードンは…ジンを筆頭にボッコボコにされた。…ジンが筆頭でなければ、オードンはもしかしたら去勢…オードンちゃんになっていたかもしれない。
…桜華ちゃんはともかく、見た目10歳程度の…リュートへの発言と考えれば、オードンちゃんにしてしまう方が国の為だったかもしれない。
☆
ある時はジャガーバルトで会ったティーダと王都で再会し、食事をした。
再会時のティーダは…落ち着いていた。以前ジャガーバルトで会った時の様な、ティーダの心に訴えかけてきていたものは小さくなっていた。きっと…お墓を建てた効果だろう。
食事会の場所は『ダンク食堂』。とある理由で閉店の危機に瀕していたその店は、以前の賑わいを取り戻していた。
名物はミノタウロスの肉を使った…生まれ変わった『ダンクスペシャルⅡ』。ミノタウロスのミルクを使ったシチューやカレー風味のオーク肉も、看板商品になりつつある。
その時は話が盛り上がり、…盛り上がり過ぎ、ティーダがある提案をした。「高級宿でお風呂だけ利用できるんだけど、一緒に行かない?」と。
裸の付き合い。リュートとしては、仲を深めるという意味ではアリだった。…が、侑人としてはアウトなので、丁重にお断りしていた。
提案をお断りされたティーダは桜華ちゃんにフォローされ、…共に夜の街(高級宿)へ消えていった。
…いや、2人の間には何も起きていない。リュートと別れた1時間後には、桜華ちゃんはジャガーバルト家に戻っている。
ティーダと桜華ちゃんの仲が進展していくのかどうか、それはまだ分からない。
ちなみに、『ダンク食堂』仮採用だったモニカは本採用となり、前職…『至高』時代のブラック体質は改善され、今では看板娘として元気に働いている。両親を『ダンク食堂』へ招待するという新たな夢を持ちながら。
更にちなみに、以前ジン目当てに『ダンク食堂』で働いていた従業員は、再雇用を願い出て断られている。
ジンが王都を訪れた際には、必ずと言っていい程『ダンク食堂』を利用している。…ジン目当てだとバレバレだったので、断られるのは当然と言えるだろう。自業自得である。
☆
ある時は初級ダンジョンの改変も行った。
出現させるモンスターを厳選し、絶滅危惧種扱いのホーンラビット(ランク1)、お肉目当てのミノタウロス(ランク5)、ボス兼レア狙いのミスリルゴーレム(ランク7)等が追加されている。
ゴブリンは初心者の戦闘訓練用に1階層分残され、グレイウルフも街の職人の為に残されている。
ダンジョンの外も、木々…どころか、森全体の質が上がり、川の水…元を辿れば湖の水も美味しくなっている。
水の質が良くなった事で、飲み水としてはもちろん、川で獲れる魚の質も上がっている。
鳥や牛といった家畜達も、餌となる草や水の品質が上がった事で、良質な…食材となっている。
ジャガーバルトの街を拠点とする冒険者は、生まれ変わった…稼ぎ甲斐が上がったダンジョンに夢中だ。当然、銀の盾もダンジョン攻略に精を出している。
銀の盾のリーダーのジャック、途中加入のミランダ。2人の腕には、リュートからプレゼントされた祈りのミサンガが結ばれている。仲は良好のようだ。
かつては厄災となってしまった初級ダンジョンは、今ではジャガーバルトの住民に幸福を与えるものとなっていた。
…余談だが、初級ダンジョン活動再開前はオークも湧く設定にされていた。…いたのだが、「他との差別化を図ろう」という事で没案になっていた。
初級ダンジョンの異空間には、設定を外され…出番を失ったオークが27匹待機している。オーク達が異空間から出られる日が来るのか来ないのか、…マスター次第だ。
☆
ある時は、人化したドラゴン達を連れて…王都近郊にある上級ダンジョンの集団攻略も行った。
ドラゴン達にとっては『人化』状態での戦闘訓練にもなり、スタンピードの発生を抑える事にも繋がった。中ボスやボスの魔石がそれなりの稼ぎにもなっている。
上級ダンジョン攻略の際には、スケルトンの骨についてラッシュから情報を得られた。
粉末にした骨を塗料と混ぜて使う事で、火・水・風に強い建物になる、と。そうやって暮らしていた人族の地域があったはずだ、と。
その話を基に、リュートが実際に塗料を作ってみた。完成した塗料はラッシュの言葉通りの効果があった。それが判明してからは、街を挙げて塗料作りを行う事となった。
使い道のなさそうだった骨。その有益な情報の礼として、ラッシュにハンバーグが提供された。
ラッシュは念願のアーンを体験し、「あぁ、ノバックが言っていたのはこういう事か…」と言いながら…満足そうにどこか遠くを見つめていた。
☆
ある時は『ウィン商店』で商談をしたり、…あれこれ話を詰めたりもしていた。
フルポーションの噂が流れ、王都中…王国中の期待値が高まった。年の瀬となった今も、金の工面に奔走している者は少なくない。
リュートの『インベントリ』に入っているアイテム。絶級ダンジョンのドロップ品や竜の谷から持ってきたアイテムは、基本的に『ウィン商店』で買い取ってもらっている。
…市場価格を壊さない程度に、小出しにしている。
ジャガーバルトへ支店を出す案も現実に向かっている。ジャガーバルトに建設中の複合施設に店が入る予定だ。
支店にて予定されている主な仕事は、商品の販売と買い取り。そして王都にある本店への輸送である。
輸送する商品は、もちろん初級ダンジョン産のもの。「ホーンラビットの角」や「ミノタウロスの肉」。スケルトンの骨を使ったコーティング剤。他ではなかなか手に入らない品々だ。
…支店長に指名されたアリステラは「…ピョッ」と奇声をあげたらしい。…喜びの声だったと一応伝えておこう。
☆
ある時はルクセウス王立学園へ商談に行き、学園長を驚かせた。
木人人形によって、生徒達の戦闘技術は上昇した。同時に、戦闘の向き不向きを生徒に自覚させる機会にもなった。
それに加えて、訓練の成績は進路相談時の資料にもなった。生徒だけでなく教師陣にも好評だ。経理担当が一番喜んでいる。
木人人形を相手にすると、忌避感を抱く。人形に使用されている素材の効果だ。
人形にはレベルが設定されており、レベルによって防御力とプレッシャーが発生する。最大レベルになると、オークロード並の防御力とプレッシャーになる。
実戦的な魔道具ではあるが、基本的にはレベル1で使われている。レベルを操作出来るのは、製作者のリュートと、マスター登録した学園長のみ。
学園長は最高責任者として、…毎日のように木人人形(レベル5)で訓練をしている。…そうなったのはきっとリュートとミュリアルのせいだろう。
ちなみに、木人人形は当初…ミュリアルの訓練用として作られたものだ。
ミュリアルは人形相手に毎日…(リュートの居ない日は)毎日訓練をし、ある程度の複合魔術も使えるようになっている。
「お母さんにも見せたい」というミュリアルの言葉から、ルクセウス王立学園へ持っていく事となったのが始まりである。
更にちなみに、木人人形には…あるドラゴンの素材が使用されている。
木人人形「グルードくん」は、今日もエルフや人族の役に立っているのであった。
☆
ある時は…ジャガーバルトにいる嫁候補3人に癒されもしていた。
共にご飯を作り、和やかに訓練をし、揃って買い物に出かけ、たまに演奏会を開く。そんな平穏な日常を過ごした。
ある日には、美鈴とリュートによる真剣な話し合いもされていた。美鈴がリュートと…侑人と共にマギカネリアで生きていくと言い出したのだ。
当然…と言うべきか、リュートは美鈴がそう言い出した理由を分かっている。あの時の…間近で「しゅきぃ…」を聞いた場面を思い出して赤くなってもいた。
話し合いは1日中続いたが、美鈴が折れる事は無かった。
最終的に、日本 ー マギカネリア間の移動…その目途が立ち、日本に戻れた時には身辺整理をしてマギカネリアへ戻ってくる。…なんて事が出来ればいいね、という結論になっていた。
またある日には、シルヴィアに感謝を伝えた。キンタ…黄金の珠を卵に与えてくれていた事に関してだ。
ただ、リュートには…黄金の珠が『神の宝珠』だったと確信があるわけではない。消去法で一番確率が高いというだけ。
明らかに個人が持つには異常過ぎる力。持って生まれたリュートの力という可能性は無くはないが、当時の食事が関係しているという説が濃厚と考えていた。
当時は感謝どころか怒ってしまったが、シルヴィアが黄金の珠を卵に与えていなければ…今のリュートは居なかった。侑人が止めていたはずだから。
…その感謝は、『あ~ん券(10枚)』に形を変え、シルヴィアをホクホク顔にさせた。
またある日には、ミュリアルから「一緒に寝る」とアピールもされていた。「もう少し待ってください」と断られていたが。
…その日はミュリアルとシルヴィアと美鈴の会議が夜遅くまで行われた。「もう少し待ってください」という言葉は、「もう少ししたらいいですよ」と同義なのだから。…多分。
リュートのその言葉は意図的なもの。
その「もう少し」の為に、…自身に課した責任を果たす為に、リュートはエリオスの依頼を遂行しているのだ。
☆
そんな日々の中、リュートが桜華と共に…魔族領を訪れた事もあった。
桜華が魔王との約束を守れなかった事への謝罪をしに向かったのだ。
かつての戦争を終わらせる為に結ばれるはずだった条約。それが結ばれる事なく…700年も経ってしまった。
やむを得ない事情があったとしても、約束を守れなかったのは事実。謝罪に行かなければ。…というのが桜華の考えだ。
…ただ、その700年の間に魔族が人族の領地に攻めてきたという記録は残っていない。
本当に攻められていなかったのか、記録に残されていないだけなのか。
真相を確かめるという意味でも、リュートと桜華は魔族領…魔王を訪ねたのだった。
とはいえ、魔族が人族を友好的に迎え入れる事は無かったが。
………
「わざわざ人族の方から攻めてきてくれるとはな」
「魔王に会いに来ただけなんだけど?」
「つまり攻めてきたんだろう? 何言ってんだ?こいつ」
「攻めてきたでも迷子でも何でもいい。お前らのお陰で人族の領地に侵攻する理由が出来る。あの老害も口を出せなくなるだろ」
「我々は魔王サタンの命令に背けないからな。人族の領地に攻め入ってはならないと法が敷かれていて、力尽くでは破れない」
「魔王専用スキルは本当に厄介だぜ…。俺達が魔族である限り効果が発揮されちまうからな」
「勇者との約束って事らしいが、いつの話だって言ってやりたいぜ。約束とやらの内容は誰も知らねぇし。勇者もとっくに死んでるだろうによぉ。マジ老害だぜ」
「お前が魔王になって法を撤廃するか?」
「…強ぇんだよあの老害。戦いを好まないくせにあの強さって反則だろ」
「こうなる前、当時は歴代一温厚な魔王と呼ばれていたらしいからな」
「俺は歴代一軟弱な魔王って聞いたぜ? それはそうと、魔王を倒したところで魔王になれねーじゃねーか。ジョブが魔王なんだからよ」
「…魔王を倒せたらジョブが変わるんじゃないか?」
「お! 面白そうだな! お前試してこいよ!」
(…勝手に情報が集まる件。このまま黙って通り過ぎてもいいかな?)
(ん~…、不法侵入ってなると、本当に口実を与える事になるかもしれないからね。正攻法がいいんじゃない?)
(この…まぞく?の人達が通してくれないなら、まおーって人をここに呼べればいいのにね)
((…さすが緋雨))
(え…、何が?)
………
魔族領に入って早々、そんなやり取りがあった。
チンピラ(魔族)に絡まれ、情報収集が(勝手に)終わり、(緋雨の一言で)魔王を呼び寄せる事に決まった。
魔族領は、広大な砂漠にある森の中…にある開けた大地という…不思議な場所に存在しており、強力なモンスターもいるので簡単には辿り着けない。そして…割と狭い。ルクセウス王国と比較すれば、その領土は1割もない。
700年前に魔族が人族の領地に侵攻したのは、その狭い領土と場所が問題となっていたからだった。
そんな場所へ軽々とやってきたリュートと桜華は、魔王を呼ぶ為に、10km以上もの距離がある魔王城へ向かって…、
「「魔王さ~ん! こ~んに~ちは~!」」
大声で呼んだのだった。
声を聞いた魔王は現場へ駆け付け、…驚きながらも桜華との再会を果たし、正式に魔王城へ招待した。
そこで桜華から事情の説明と謝罪がされ、魔王側からは再会の宴と…ちょっとした模擬戦…催しが開かれた。
ちなみに、魔王の耳がよく聞こえる仕様だったわけではない。リュートによる風系統魔術の応用で、声を声のまま届けたのだ。
更にちなみにだが、この方法を取るのに大声を出す必要は無い。大声で呼んだのはただの雰囲気である。
☆
「今更だけど、魔術って何でもありだよね。ボリュームが変わらないまま声を遠くに届けるとか」
回想は終わり、時間と場所は年の瀬となったルクセウス王国に戻る。
王都へ向かっていたリュート達は、魔族領で魔王と会った時の事について話をしていた。
「魔王さんを驚かせちゃったけどね…。アレって、遊び感覚で作った割に調整が難しいし」
「緋雨の勉強用に考えた魔術だったっけ」
(確かに面白かったわね。遠くのリュートからこしょこしょ声が聞こえてきた時は、すごく不思議な感じだったわ!)
「再現可能な事に限界はあるけどね? 声を届けようと思ったら、『録音』の魔道具を使えばいいし」
リュートと桜華ちゃんと緋雨。2人と1本は仲良く話をしながら王都への道を進んだ。
とても数時間前に「近寄るな!気持ち悪い!」とリュートが罵声を浴びせられたとは思えない程、その声は明るい。
(確かに、魔術って何でも出来そうって思っちゃうわね。雪を降らせる魔術は綺麗だったし)
「王国は基本的に雪が降らないみたいだから、ジャガーバルトの皆も楽しめてただろうね」
「土の季節があんまり寒くないからといって、火の季節が暑過ぎる事もない。ある意味暮らしやすい国ではあるのかな?」
「確かにね~。…私はこっちに来て、なんだかんだで5年は経つからさ? 日本が恋しいって思う時もあるよ。春夏秋冬…何て言うんだろ、風情を味わいたい?みたいな」
(それで桜華も雪を見た時にはしゃいでたのね)
「いや~、…はしゃいでたね。七色の雪とか綺麗過ぎて反則じゃない?」
(あたしには美味しそうに見えたわ!)
「…まさかの食欲センサー」
ダンジョン生活をしていた頃の様に、話は脱線を繰り返した。
その何でもない会話がリュートの心を癒してゆく。
(ありがと…オーちゃん、緋雨)
リュートは心の中で親友と相棒に感謝した。
ブックマーク・評価、ありがとうございます。
次回投稿予定日は11月20日(月)です。




