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【一旦完結】ジャガーバルト家の義妹  作者: もにーる
第七章 新年編

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2.今までの常識が通用しない不当奴隷の存在

※引き続き3カ月前のライオネル家のお話です。


 エリオスの語った詳細を伝えておこう。


 侑人が美鈴を送り届ける前。1人のメイドがライオネル家へ連れて来られた。

 メイドの名前はアーデ。他家の…準二爵家に雇われていた奴隷メイドだ。

 …以前侑人がエリオスに送った、不当奴隷解放について協力要請をした手紙。その手紙に同封されていた不当奴隷一覧に名前が載っていた人物だった。


 雇われていたのはカルザス準二爵家。爵位的にはジャガーバルトより一つ上の爵位を持った貴族である。

 エリオスが直接カルザス家を訪ね、アーデについて話を聞き、ライオネル家へ連れてきたのだ。

 侑人からの手紙の信憑性を確かめる為に。…本当に不当奴隷なのかを確かめる為に。


 カルザス家の当主、ラング・カルザス準二爵は、エリオスの申し出に異を唱える事無く、…むしろ快く受け入れた。

 アーデの主人として質問し、答えさせるという協力的な面も見せた。


 エリオスはアーデを連れてライオネル家へ戻り、奴隷から解放するアイテムを用意し、解放の直前までアーデから話を聞いた。

 アーデから出る言葉はラングが質問した時と同じもので、


「自分は罪人」

「奴隷でありながらメイドとして働ける事は幸せ」

「解放は必要無い。今の生活に不自由な事は何一つ無い」


 現状に満足しているというものだった。


 エリオスは、ラング・カルザス準二爵からアーデを雇う事になった()()を聞いていた。

 王国が管理している犯罪者リストを調べ、その中にアーデの名前が()()事も確認していた。

 

 エリオスはその上でアーデを説得し、アイテムを使って奴隷から解放した。

 もしもアーデの言葉が本心だった時は、…本当に解放を望んでいなかった時は、奴隷契約師の元へ連れて行こうと思いながら…隷属状態から解放した。


 その途端、


「………っ」

「アーデさん?」

「…っ…うっ、うぷっ!」


 アーデは口元を押さえて吐き気を堪え、その場に座り込み、目を大きく開いたまま…震えながら涙を流し始めた。

 アーデの改竄されていた記憶・性格が元に戻ってしまったからだ。


 奴隷から解放される直前まで、微笑みさえ見せながら会話をしていたはずのアーデ。

 その彼女が隷属魔術を解かれた途端、奴隷から逃れる為の言い訳をするでもなく、悲鳴さえ上げず、ただただ何かを堪えながら涙を流していた。

 アンネリーゼがアーデを介抱するが、アーデの脅えと涙は治まらなかった。


 アーデのその姿は、エリオスに大きなショックを与えた。


 隷属状態にある者に真実を話させるというのは、犯罪者の取調べでも使われる常套手段。

 カルザス準二爵の…主人の命令によって、アーデの口から真実が語られたはずだった。

 エリオスもその受け答えを目の前で見ており、侑人から得た不当奴隷の情報が間違いである可能性…その割合を高めていたほどだ。


 それだけに、今までの常識が通用しない不当奴隷の存在が、エリオスに大きくのしかかった。


「…何という事だ。…こんな近くに、…これほど苦しんでいる者がいた事に気付けなかったとはっ!」

「旦那様…」

「私はこれから、どうやって不幸な目に遭っている者を救…っぐ!?」


 エリオスは胸に痛みを感じ、その場に倒れてしまった。

 美鈴がエリオスの部屋を訪れたのは、それからすぐの事だった。



「美鈴ちゃんが呼んでくれて良かったよ」

「うん…。最初どうすればいいのか分からなくて、自然と「侑人さん」って口から出て、その後大声で呼んだの」

「…私は、その声さえ聞こえない程に動揺していたのかもしれません」

「目の前でエリオス様が倒れる姿を見れば、それも当然でしょう」

「しかし…」

「ほら、執事さんはそれだけエリオス様の事が大切だった。そういう事ですよ」

「………ありがとうございます」


 リュートはニカっと笑顔を見せながらセバスチャンを説得し、説得されたセバスチャンは頭を下げて礼を言った。


「リュートちゃん、エリオス様は…その…もう大丈夫なの?」

「うん、もう大丈夫。…結構危ない所ではあったけどね。多分過度のストレスもあって、心臓…『心筋梗塞』になってたんだと思う」


 リュートの言葉に、美鈴は思わず両手で口元を押さえた。


 侑人がエリオスの元に駆け付けた時、エリオスは心停止を起こしていた。

 リュートもまさか、ラルフに「心臓が止まってすぐなら回復魔術で蘇生出来るらしいですよ?」と伝えて日を置かない内に、エリオス相手に実践する事になるとは考えてもいなかった。

 運良く蘇生は成功したが、絶対に治せるという保証があるわけでは無い。時間が経っていれば、何らかの後遺症が出ていた可能性も高い。


「心筋梗塞って…そんな…」

「『ヒール』で治せたから心配ないよ。…って言いたい所だけど」

「………私は、死ぬのか?」


 エリオスはベッドに寝かされたまま話を聞いていたのだが、…心配が口から出てしまった。


「あぁ、不安にさせてすみません。今はもう大丈夫です」

「そ、そうか…」

「私…侑人もエリオス様と同じ様な状態でしたからね。経験が活きました」


 リュートがそれに気付いたのは随分前、『CC』を創造した時の事。

 侑人の生体情報を読み込み、長年の喫煙による肺の状態を改善した際、血液の流れ…ドロドロ血も綺麗にしていたのだ。


 当時…まだ『眼』とも呼んでいなかった頃、詰まり気味の血管を見てしまった。(うわぁマジか)と思ってしまう光景だった。

 その経験がこの場面で…エリオスへの迅速な対応に役立つ事となった。


「…侑人さん、死んじゃうんですか…?」


 …今度は美鈴の心配が口から出てしまった。ホロホロと涙を流しながら。

 エリオスの事があって間もなかったので、リアルに想像…し過ぎてしまったのだ。


「あぁごめん、そっちはもう大丈夫だから。心配ないよ。…ただ、気になる事があるんです」


 美鈴を落ち着かせたリュートは、エリオスに話しかけた。


「気になる事…」

「エリオス様、ここ最近で何か…変な物を食べた…もしくは薬を飲んだりしていませんか?」

「薬…、そういえば───」


 エリオスに忍び寄っていた死は、リュートによって元を断たれる事となった。



 回想は終わり、時間と場所は年の瀬となったライオネル家へ戻る。


「今でも考える。あの時、ミスズとリュート殿が居なければどうなっていたかと。…あの死を待つだけの暗闇の中で、恐らく私は…」

「…もしそれで一命を取り留めていたとしても、きっと薬と思って飲んでいた毒が、エリオス様の身体を蝕んでいたでしょうね」


 エリオスがリュートに命を救われた後、リュートはエリオスが飲んでいたという薬を調べた。

 『鑑定』以上になんでも分かってしまう『眼』を使って。


「全くその通りだな。『鑑定』も毒見もされていたはずの薬がやはり毒だったなど、信じるにも疑うにも困難な話だ。…リュート殿に言われていなければ、恐らくまだ飲み続けていただろう」

「害を全く感じない少量の毒でも、摂取し続ければ体内に蓄積されていきますからね…」


 リュートが調べた結果、エリオスが健康の為にと飲んでいた薬…ある貴族に紹介された薬が毒となっていた事が分かった。

 少量の有害成分が薬でコーティングされていた事で、『鑑定』を行っても薬として表示されたのだ。

 狡猾な手段ではあったが、薬としての効果も確かにあった。関節の痛みや腰痛が軽くなったのだ。『鑑定』や毒味もされている。それ故にエリオスは、その情報を信じ…本当は毒が含まれているかもしれないという可能性を排除してしまっていた。…疑う余地が1つも無いのだから当然ではあるが。


 薬を紹介してきた者の名は、フリップ・カロマス。ルクセウス王国で準一爵という地位にいる貴族、ガーハンテ・カロマス準一爵の息子だった。

 …ラング・カルザス準二爵にアーデを譲渡した人物でもある。


「相手の「毎日飲んでいる」、「飲み始めてから身体の調子が良い」という言葉を疑わなかった私も軽率だったがな。私の目の前で薬を飲んでみせたのも、信憑性を持たせるには効果的だった…と今なら思える」

「その薬が本物だったのか偽物だったのかも分からないですしね…」

「そうだな。本物だったとしても、1回飲んだ程度では毒にならない。それならば…信用させる為に本物を飲んで見せていたはずだ」

「信じた上で『鑑定』と毒見もしていたのなら、疑えないですよね…。結局、まだ…言い方はアレですけど、泳がせてるんですか?」

「うむ。横の繋がりだけではなく、背後まで調べなければならなかったからな。だがまぁ、それももうすぐ終わる。…欲を言えば、不当奴隷を大量に生み出していた者も裁いてやりたかったが」

「…死んだ人は裁けませんからね」


 非合法の奴隷契約師ダークスレイブ。…ワスラーの死は、リュートからエリオスに伝えられていた。

 ワスラーの商売相手として、貴族の名も数名リークされている。その中には当然…というべきか、フリップ・カロマスの名もあった。もっと言えば…一番の太客である。


「ヘルオン二爵家にそんな人物がいた事も、その人物が死亡している事も、関係のあった貴族の情報も、知る事が出来て本当に良かった」

「リュートちゃんに感謝ですね」

「そうだな。…先日カロマス家を訪ねた時、リュート殿にされた助言をやってみたが、中々に効果的だったぞ」

「助言…ですか? …あ、ふふっ、どんな反応をされたんです?」

「必死に考えている様子だったよ。…くくっ、まぁ当然といえば当然であろう」


 リュートからの助言。それは、フリップに対してカマをかけるというものだった。


………


「実は先日…胸に痛みがあって倒れてしまってな」

「それは…。今は御加減はよろしいのですか?」

「あぁ、フリップ殿から紹介された薬を飲んで事なきを得たのだ」

「へ? ぁ…いえ、失礼致しました」

「うん? それ程に効果があるとは思っていなかったか?」

「そ…そうですね…」

「はっはっは、私も驚いたよ。孫のフィオナも飲むと言いだしてな? もう1人分購入させてもらおうかと思っているほどだ」

「!? い、いや! あのく、あ、あの薬はですな! 高齢の…ではなく! 男性用の薬なのです! フィオナ様が飲まれても効果は無いかと!」

「…そうか、それは仕方ないな」


………


 エリオスとフリップの会話はこんなところだ。

 …リュートとしては、情報を集めて裏を取ってからの助言だったので、カマをかけるというより…おちょくるイメージだったのかもしれない。


「リュート殿から言われてはいたが、あの反応を見れば疑いようが無かったな。あの者が薬の正体を知っていた事も、フィオナを手に入れようとしていた事も」

「…もしエリオス様を亡き者にしたとして、どうやってフィオナさんを手に入れるつもりだったんでしょうね?」

「さてな…。正攻法でフィオナを…もしも妻の1人に加えようなどと考えていたのだとしたら、絶対に無理だからな」

「自分より強い人じゃないと結婚しない…でしたか」

「うむ。…そのせいで婚期が遅れておるんだが。誰よりも強くなりたいと言っているくせに、自分より強い者しか認めないとも言っているからな。いつになったら…っと、話が逸れたか。まぁ、それ以外の方法でフィオナを手に入れるとして、何かしら考えがあったのか、隷属魔術に頼ろうとしていたのか…」

「…あちらは術師が死んだ事をまだ把握してないんでしょうか?」

「かもしれん。だが、それも纏めてもうすぐ問い質せるだろう。助言を実行したのも、最後の様子見といったものだったしな」

「それを試せるくらいに情報が集まった…準備が出来たって事ですね」

「うむ。ただ、全ての準備が整うのは新年の祝いの後になるだろうがな? 国が管理する犯罪者リストの改竄など、不正があったと確信を持って調べなければ見つけられなかっただろう。…不当奴隷もそうだが」


 エリオスの言葉が途切れたタイミングで、扉をノックする音が響いた。


「入れ」 

「失礼致します。お食事の用意が出来ました」

「分かった」

「お久しぶりです」

「お久しぶりでございますミスズ様」


 入室の許可が出ると、1人のメイドが部屋へ入り、用件を伝えた。


 メイドの名はアーデ。

 悪夢から解放された彼女は今、ライオネル家でメイドとして働いていた。

 事が終わるまでは安心して元の生活には戻せないので、ライオネル家で匿われる事となったのだ。



 アーデを奴隷から解放した日。エリオスからリュートへの説明が終わったタイミングで、アーデの悲鳴がエリオスの寝室まで聞こえた。

 リュートがアーデのいる部屋まで行き、錯乱していた彼女をリュートが落ち着かせる事となった。


 感情のコントロールを失ったアーデの言葉…謂れのない罵倒を、リュートは全て受け止めた。その光景を…ライオネル家で働く多くの者が見ていた。

 落ち着きを取り戻したアーデはリュートに謝罪し、リュートは「遅くなってごめんなさい」と謝罪を返した。

 リュートがライオネル家の者達に好かれているのは、エリオスを救ってくれたからという所もあるが、アーデに対する行動を見聞きしたからという部分も大きい。


 もちろん、アーデの事に関して…ライオネル家で一時的に雇う事に関して、カルザス準二爵には許可を得ている。口止めもされている。

 彼は唾を付けられただけ。…事情を知らずに奴隷メイドを譲り受けていただけ。シロなのだ。

 カルザス家でのアーデの扱いも、何の問題も無かった。アーデ自身の証言である。


「それでは失礼致します」

「ご苦労だったな、すぐに行く。…すまんなミスズ」

「はい?」

「久しぶりにうちへ来てくれたのに、こんな話を聞かせてしまって」

「私も気になる話でしたし、全くの無関係というわけではありませんので。お気になさらず」

「そうか。では、食事をしながら…今度はジャガーバルトでの生活の事を教えてくれるか?」

「もちろんです!」


 美鈴とエリオスの関係は大して変わっていない。

 その仲の良さは、相変わらず孫とお爺ちゃんを思わせるものだった。


いつもご覧いただきありがとうございます。

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