プロローグ
ジャガ義妹連載版始めました。
タイトルは短編の「ジャガ義妹」から「ジャガーバルト家の義妹」に変更しています。
「うぇぇ…、あっつ…」
自身の部屋が灼熱地獄となっていて、そんな言葉が漏れた。
彼の名前は中谷 侑人、広島県の…割と田舎に住む独身の39歳。身長172cm、体重65kgで、細く見られるが運動不足により隠れ肥…ぽっこりお腹おっさんである。
家族は両親と妹の4人で実家暮らし。家にはペットの猫が4匹いる。職場となる自営業の店はすぐ隣にあるので、出勤まで歩いて30秒とかからない。家族仲は良好だ。
専門学校を卒業し、…その専門知識や技術を生かすことなく実家の飲食店で働いている。
彼女がいたことはあるが、結婚には至らなかった。魔法使いへの権利は手放している。
初恋は高校1年の頃、相手はクラスメイト。今でもその女性に対して好意を持っている。ひとつ間違えばストーカーになっていたかもしれない。
自重できるストーカーである。…ストーカーではないが。
「おっけ~…かな? それじゃ行ってくるよ~!」
「はいよ~、気ぃつけてね~」
初恋の相手が今では二児の母と聞いたのは、久しぶりに行われた数年前の同窓会でのこと。侑人からは全く連絡を取らないのでその時初めて知ったのだが、幸せであるならそれでいいと思っている。
自分こそが彼女を幸せにできる!などといった傲慢な考えは持っていない。だがもしも、困って頼られたら全力で応えたいとは思っている。
拗らせたストーカーである。…ストーカーではないが。
☆
家を出て電車に揺られること1時間。9月の半ば、時間は昼を過ぎた頃。
侑人は今、高校時代の友人の結婚式が翌日に行われるので、式場付近のホテルへ泊まる為に街へと向かっていた。
服装は黒めのジーパンとTシャツ、靴はスニーカーというラフな格好だ。足元に置かれているスポーツバッグには、当日着るスーツや革靴等が丁寧に突っ込まれている。
大きめのバッグの中はパンパン…ではないが、あれこれ入れているうちに割と重くなっていた。
(っと、あと一駅か)
腰を上げかけて座り直す。誰も見ていないであろうに、「間違って立とうとしてないですよ?」という雰囲気を出して再びスマホを触り始める。
(う~ん、もう5年かぁ…)
先ほどまで読んでいたweb小説を閉じ、何の気なしにアプリをタップした。侑人が開いたネットニュースには、5年前に起きた大量行方不明事件の特集記事があった。
(年間の行方不明って7万人とか8万人とかニュースで言ってたっけか、ほとんどが見つかるらしいけど)
5年前に起きた大量行方不明事件。400人を超える若者が、日本各地で、同日、行方が分からなくなり、世間を恐怖に陥れた。
行方不明者が大量に出た数日後、SNSには「その日うちの子がいなくなった」「うちもです!」という声がどんどん上がってきた。
1日の行方不明者の数としては多く、なかなか見つからない事から『組織的な拉致』、『大規模神隠し』などの声がでてきたが、詳細は未だに不明。
行方が分からなくなった者の中には有名女優の名もあった。ドラマ撮影がある早朝に現場へ現れず、寝坊でもしたのかと共演者やスタッフが心配したが連絡がつかず、事件に巻き込まれたのではないかとスタッフや事務所関係者も大慌てで探し回ったらしい。
その女優の身の回りを調べても不審な点はなく、泊まっていたホテルにも異変はなく、身代金の要求もない。事件性がどんどん薄れていったという。
「少しでも手掛かりを」と、正式にその事務所が発表した『小林 美鈴、行方不明』という知らせは、メディアやネットを大きく騒がせた。
小林 美鈴
姉の小林 美愛と同じ芸能事務所『SSRプロモーション』に所属している女優である。
彼女は憑依型女優と呼ばれ、初主演のドラマでは、まるで今までそのドラマの主人公として生きてきたのではないかと思わせる姿に、視聴者は虜となった。
その演技力は作品や役柄が変わっても評価は上がるばかり。バラエティ番組に出演した際には、ドラマでは見られない楽しそうな姿に、共演者までもが虜となっていた。
名前にある林と鈴を取り『リンリン』の愛称で呼ばれ、CMにも数多く出演し、テレビで見ない日はないほどであった。子どもからお年寄りまで大人気の女優だ。
誰もが知る有名女優の名が報道され、一時期5,000件にまで膨れ上がった行方不明報告。
しかしその大半が冷やかしであった事が分かり、最終的に詳細を掴めない者や不自然さのある400人余りが、大量行方不明事件の被害者と推定されたのである。
中には家族と会話をしていて、家のリビングからトイレに行っている間に消えた高校生もいるのだ。不自然でしかない、まさに神隠し。
(未だ有力な手掛かりはなく、しかし諦めるという選択肢はない、引き続き情報提供を、か…。早く見つかりますように)
侑人が記事を読み終えると、間もなく電車到着のアナウンスが流れ、スマホをポケットに入れ荷物を持って席を立った。
実際に身の回りで起きてもいない事件に、どれほど本気になれるものだろうか。
解決できる力や知識があるわけでもない。解決に繋がりそうな情報を持っているわけでもない。
軽く祈る程度のことしかできないのは仕方のない事なのかもしれない。
自分が行方不明事件に巻き込まれでもしない限り…。
☆
「多っ!」
駅から出て、併設された駅ビルの7階、ペットショップコーナーにやってきた侑人。お目当ては猫用最強おやつ『ちゅるり』である。
ここには、田舎では中々見られない数…50種類以上もの『ちゅるり』が陳列されていた。
(こんなのあったんか。ご主人様の手味って何? …買ってみるけど)
買うらしい。きっとこの男、季節限定という言葉にも弱そうだ。
定番も含め8種類の最強おやつを我が家の猫ちゃんズ用に買った侑人は、バッグに『ちゅるり』を入れ、改めて駅へ向かう。
目的地は2駅隣。もう用事は終わったようだ、さらば駅ビル。
「ん?」
駅前の広場で、ぬいぐるみを片手に持った4才くらいの女の子がキョロキョロと周りを見回しながら走っていた。
ふわっとした三つ編みに大きなリボン、お誕生日会の主役のようなフリフリのスカートにボレロ姿の女の子だった。何かを探しているようだ。
(迷子かな…、こけるぞ?)
そう思い、侑人が近づこうとしたのも束の間、
「あぐっ!」
案の定、段差に躓いてこけてしまった。泣きそうな顔をしているが我慢しているようだ。
侑人は小走りに近づいて声をかけた。
「泣かんかったの偉いね、痛いの大丈夫だった?」
「ぁ…、うん…」
警戒心MAXである。アラフォーのおじさんが声をかけてきたのだ、さもありなん。
お巡りさん、この人かもしれません。
「あっ!?」
女の子が声をあげた。その見つめる先には、鳥のぬいぐるみの翼が取れて地面に転がっていた。
大事な人形だったのだろう。女の子は握っていたぬいぐるみの翼部分を持ったまま、零れそうなほど目に涙が…。
これはマズいと思った侑人は周りを見渡し、少しだけ心の中でお願いをした。
「うぅ…、うわあぁ「あっ」ぁ…?」
「見て見て?」
女の子は泣きだしてしまったが、侑人の人差し指にとまって頭を傾けているスズメを見て涙が止まったようだ。
☆
侑人には少しだけ不思議な力があった。その力に気付いたのは小学4年生の夏休み。
毎年地元の河川敷で行われる花火大会、多くの屋台が並ぶ中で金魚すくいの順番待ちをしていた侑人少年は、桶で泳いでいる金魚を見て、
(ダラダラしない! 気をつけ! 右向け~右! なんちゃって…)
心の中で小学校の先生の真似をしていた。どうでもいい無駄な事を考えるお年頃である。
すると、見つめていた1匹の金魚が右を向いていく。驚きながらも他の金魚を見つめ、右を向けと念じると、同じように右を向いた。
200匹以上いる金魚の桶、その中の1匹2匹が右を向いたなど偶然の範疇である。しかし、侑人少年は思考停止に陥ってしまった。小学4年生の男の子には偶然とは思えなかったのだろう。
ありえない出来事とは、思わず行動や思考を止めてしまう。徐々に再起動を始めた思考は…極端な想像に行き着いた。
(じゃぁ、もし…)
浮かんだ考えが怖くなり、金魚から目を離すように一緒に並んでいた母親にしがみついた。
「ん? どしたん?」
「やっぱり金魚いい! わたあめが食べたい!」
「えぇ…? もうすぐじゃん、ほんまにやらんの? 綿菓子にするん?」
「うん、さっきお母さんもわたあめにしたらって言いよったし!」
侑人少年は金魚すくいの屋台から離れ、ヒーロー戦隊ものの袋に入った綿菓子をゲットした。
母親に買ってもらったそれを早速と食べながら打ちあがる花火を見つめるも、頭の中は先ほどの考えで埋まっていた。
(じゃぁ、もし、…死ねって思ったら、全部死ぬんかな…)
そんな物騒な事を考えても仕方がないだろう。なぜ金魚が自分の思ったことを実行したのか、まるで分からないのだ。
改めて浮かんだその考えから、桶の金魚が大量に死に浮かぶ場面を想像し、泣き出してしまった。息子が花火の音に驚いて泣いている、と勘違いした母親に連れられて、人ごみの少ない方へ歩いてゆく。
縁石に座って泣き止んだ所でまた花火を見上げていたが、次に気付いた時には翌朝の布団の中だった。
はしゃぎ、泣き、疲れていつの間にか眠ってしまったのだろうか、はたまた夢であったのか。…少々萎んだ綿菓子の袋が、現実であると小さく主張していた。
数日後、好奇心が恐怖心を上回った侑人少年は、恐る恐る動物や昆虫に対して簡単な実験を行った。
結果、命令や強制の類ではなく、お願いを聞いてくれる程度の力であると分かった。
そのお願いを聞いてくれる動物や昆虫も多くはなく、縁日の金魚もたまたまお願いを聞いてくれたに過ぎなかったのだろうと思えるようになっていた。
侑人少年はこの力を誰にも伝えることはなかった。言ったところで信じて貰えないかもしれないし、何より…力を見せて怖がられるイメージが拭えなかったからだ。
ちなみに夏休み終了間際、宿題に追われたのは言うまでもない。
☆
(クワガタに「2本足で立ってコサックダンスして」なんて今考えても…、今は逆に見たいな)
当時の事を思い出していた侑人はといえば、
「おじちゃん! トリさん! こっちかもしれん!」
「じゃぁちょっとだけ行ってみよっか。走らずにね?」
「は~い!」
と、女の子(リカという名前らしい)に手を握られ、一緒に駅へ来ていたはずの母親を探しつつ、近くにいた人に場所を聞いた…交番へと向かっていた。
自首するわけではない、迷子のお届けである。
侑人の手には翼の取れてしまった鳥のぬいぐるみが、肩にはリカの心を掴んだスズメがいた。もう少しだけ「助けて」というお願いを聞いてくれるようだ。
(にしても、似て…う~ん、年齢的には多分「ママー!」…)
考え事をしているうちに母親が見つかったようだ。
めでたしめでた「ゆうと?」し…とはならなかった。うん?と侑人が顔を上げれば、そこには元クラスメイトである初恋の人がいた。
☆
小野上 綾音、侑人の高校の同級生であり、初恋の人だ。
「改めてありがとね?」
侑人と同級生のはずなのに20代にしか見えない女性。背は150cm程でおっとり系のかわいらしい女性である。
高校の時に告白してフラれていたが、関係がそれっきりというわけではない。数えられる程度だが、フラれて以降に2人で遊びに行った事もあった。
侑人は綾音の幸せを願いつつ連絡を取らない日々を送っていた。それでも、20年以上経ち…既婚者になったと知ってもなお変わらない気持ちに、自ら呆れつつも礼を言われただけで頬が緩んでしまっている。
(3人で写真も撮れたし、今日ほどこの力を嬉しく思った日はないぞ!)
「気にしない気にしない、無事に見つかってよかったよほんと」
「ママ、おじちゃ…おにぃちゃんまほうつかいなんよ?」
心の中では小躍りしているが、顔には出さず礼を受け取る。器用なおじちゃ…おにぃちゃんである。
侑人が母親と友達だと知ったリカは、「すごいすごい!」と大興奮だった。
幸運を呼んでくれた…青くはないがチルチルと命名されたスズメに侑人とリカが一緒にさよならを告げた後、リカはずっと侑人の事を魔法使いだと主張していた。
綾音がリカを落ち着かせ、駅のホームにあるベンチに3人で座っているが、まだ興奮が抜けきっていないようだ。
…ネタとして聞けば恥ずかしいので、魔法使い呼びは正直やめてもらいたい侑人であった。
聞けば綾音も友人の結婚式のため、娘と共にこれからホテルへ向かうとの事だった。しかも侑人が参加する日と同じ日、同じ会場であるらしい。
侑人は新郎の高校友人枠、綾音は新婦の職場の同僚として。お互い同じ式に参加する事を知らなかったが、偶然にも出会ったようだ。
更にリカとの出会いに、偶然よりも世間の狭さを感じる2人であった。
その話の流れで一緒の電車に乗り、本日泊まる予定のホテルへ行く事となった。侑人は心の中で小躍りを再開した。
「ママ? あのね?」
「うん、お兄ちゃんにまたあとで魔法見せてもらえるかもしれんね?」
「うん! …ううん、おしっこ」
「あ~、荷物見とくよ。いってらっしゃい」
「ごめんね? ほらこっちにトイレあるからいくよ」
生理現象は仕方ない、綾音がリカをトイレへ連れていく。
侑人は自分のスポーツバッグをたすき掛けにして立ち上がり、荷物番をしながらスマホをいじる。
(何も通知が来てなくても触っちゃうのはなんでだろうな…)
どうでもいい事を考えながらポケットへとスマホを仕舞う…前に、もう一度スマホで撮った写真を見て…微笑んでしまう。…傍から見れば不審者である。
侑人がスマホを仕舞ったところで、電車が通過するとアナウンスが流れた。
そこへトイレを済ませたリカが、侑人目掛けて…早歩きでやってくる。綾音はそれをにこやかに見守りながらリカの後ろを付いてきていた。
(走らないって言ったのを守ってる…、これは可愛──)
ゾクっとした。悪寒、虫の知らせとでもいうのだろうか。嫌な予感がする。
侑人がそう思った時には、…リカは線路へと体勢を崩しながら落ちていった。
☆
誰が悪かったのだろう。
3人横に並んで話しながら歩いていた学生だろうか。
イヤホンをして歩きスマホをしていた若いサラリーマンだろうか。
サラリーマンを避けようと点字ブロックを越えてしまったリカだろうか。
リカの手を繋いでいなかった綾音だろうか。
リカに顔が見えるように線路側に寄ってしまった侑人だろうか…。
歩きスマホをしていたサラリーマンは、前方からくる学生に直前で気付き、慌てて避けた。
サラリーマンを避けようとしていたリカは、結果的にサラリーマンとぶつかってしまい、押されるように線路へと落ちたのだった。
(あぁっ!間違えた! でもっ)
咄嗟に行動ができたのは嫌な予感がしていたからかもしれない。が、冷静ではなかったのかもしれない。
侑人は線路に降りてから間違いに気付いた。
電車の近づく音も既に聞こえている。
「誰か! 非常停止!」
侑人は声をあげながらリカの元へ走る。頭でも打ったのか、落下した動揺からか、リカは横向きに倒れたまま動く様子がない。
リカの元まで7m程度の距離がやけに遠く感じる。非常ボタンのベルもまだ鳴らない。
左右を視線だけで確認しながらようやく辿り着き、リカを抱き起こしたところで、リカの表情と体が固まってしまっていることに気付いた。パッと見では怪我らしい怪我は見当たらない。
娘の転落を目の前で見てしまった綾音も、思考が停止している様子。涙で目は潤み、立ったまま手を伸ばし、口はパクパクと動いているが声にならないようだ。
「綾音、大丈夫、抱っこしてあげて」
1.2m程度の高さがある線路からリカを持ち上げ、早口に…だが落ち着かせるように声をかけ、しゃがんで手を伸ばしてきた綾音に渡す。「もう怖くないよ」とリカにも言葉を添えて。
そこでやっと誰かが非常停止ボタンを押したようで、ビーーー!と大きな音が鳴り響いた。どうやら学生3人の内の誰かが押してくれたようだと、視界の隅に確認できた。
電車も警笛を鳴らしながら…運転手の「何やってんだこいつ!」と言いたげな表情が判別できる程の距離まで迫っている。(間に合ってよかった…)と侑人は息を吐いた。
が、問題はここからであった。
本来線路への転落などがあった場合、二次災害等を避けるため線路に降りての救助活動は推奨されていない。
非常ボタンを押すなり、駅員に知らせるなり、安全に救助するものである。
今回のケースやタイミングでいえば侑人のファインプレーであったのだが、「ガシッ」と手を掴まれた事で事態は急変する。
「ああああなたも早く上がって! 上がってぇ!」
「ちょっ!?」
侑人を線路から引き上げる。
非常ベルの音のせいか、その考えに縛られてしまったサラリーマンは、侑人の手を掴んで引き上げようと離さなかった。
侑人の足は線路のある地面に付いている。しゃがんで振りを付けてジャンプすれば登れたかもしれない。
カバンもたすき掛けにしていたため、細腕のサラリーマンが総重量70kgを超える成人男性を一人で引きあげる事は難しい。
何より…2人の取ろうとする行動が違っていたのだ。
「待って待って!一回離して!」
「ダメだ!諦めちゃ!」
(聞けよ!?)
ホームの下には、万が一転落した際の緊急退避スペースがある。
更に言えば、その線路には横に2両分のスペースがあり、4歩も歩けば反対側の線路へ逃れられるのである。侑人はそちらへ移動するつもりだった。
しかし、気が動転したからか、リカとぶつかり転落させてしまった罪悪感からか、限りなく視野の狭まっていた様子のサラリーマンには、それが見えていなかった。
侑人とサラリーマンの考えと行動が噛み合わないまま、電車は大きなブレーキ音と警笛を鳴らしながら迫り…、
「あああああ!?ごめんなさい!」
サラリーマンに謝られつつ手を離された侑人は、体勢を崩し、線路へと置き去りにされた。接触する寸前である、もう逃げようがない。
(怖い危険心臓運転手死ぬリカちゃん絶対痛い逃げる呼吸どこへレール間に合わない悲鳴助けた怖い綾音苦しい涙──)
侑人の心臓が握られるように縮み上がる中、瞬間的に沸き上がった思いは様々だった。
そして、侑人のいた場所を、大きなブレーキ音を立てて電車が通りすぎていくのを、皆が目を背け、誰かの悲鳴が上がる中、綾音だけが涙を流しながら呆然と見ていた。
それはリカの転落からわずか12秒の出来事だった。