動くタイプの木と逃げる私。
「どいてどいてどいてぇぇ!!!」
まぁ、木に言ってるんですけど。
この林、大きな声を出すと道を譲ってくれる木があることが判明しました。それを利用し、大声を出しながら走ってるわけです。
え?歩けばいいじゃん?
いや、そうだよね。でも後ろから木が追いかけてきてるんだよ。もうぐっちゃぐちゃ。後ろを振り向くのも怖い。
ビビらせたら怒るって最初に教えてよね!
私、怒りますよーって!
おお、アレは!
大木の…家?
でっかい木の中に、窓とドアが付いている。
よく分かんないけどあそこに逃げるしかなさそう!
「「「ヴォォォォォォォォァァァァッ!!!」」」
ひえぇっ!
息が!息が掛かってます!!
近いです!!
「うひゃぁぁああっ!」
「「「ヴォォオオオオオオ!!!!」」」
目算あと200m!
…え、引き戸!?押し戸!?
取っ手は左側!?
てことは押し戸だっけ!?
うぉぉぉぉ信じろ私!
勘を信じてこの危機を乗り越えるのだ!!!
「うわぁおぉぉぁああッ!!!」
この扉を、全力で押して!
ドォォォンッ!
押し戸じゃなかったかぁ。
「………」
「………………」
「あー、なんかすんません」
ノリ軽。喋れるんかい。叫びは雰囲気かい。
結論から言うと、体当たりした。
めっちゃ痛かった。
ついでに気まずくなったのか動く木達は帰った。
リンゴを置いて、帰った。
因むと扉は横にスライドした。
私は痛さに顔押さえて転がってた。
ついでに恥ずかしさで転がってた。
「うおぉぉぉおおっ!!!」
今度は私が叫ぶ番だった。
はぁ。
落ち着いたし中に入ろう。
ここは、宿?
見慣れた手の形にかざし、登録。
ゆぐゆぐの宿。
…ユグドラシルとかじゃないんだ。まぁ良いけど。
世界観が見えそうで見えない、このもどかしさ。
とりあえずここの探さっひょぃ!?
横に目を移すと、昨日のお嬢様が仁王立ちで立っていた。
どうして?
「…」
「……」
「………あ、失礼しました」
よし、このまま頂上まで行こう!
そしてさっき貰ったリンゴを食べるんだ!
トントン。
…あー、この気配は。アレね。後ろにいるね。ちょっと出るのが遅かったね。
このゲーム、何かに触れられている時はメニュー画面操作できないようになっている。なんでこんな不便にしたのか分からないけど、これのお陰で操作するような素振りを見せたらすぐ掴まれるだろう。
どうしようかなぁ。
…(振り向いて扉を指差す私)
フルフル(笑顔で首を横に振るお嬢様)
ニコッ(微笑む私)
ポンッ(真顔で肩に手を置くお嬢様)
スっ…(その手の甲にリンゴを乗せる私)
?????(困惑しつつ手の力を強めるお嬢様)
…(無視されたリンゴの行方を見守る私)
リンゴはそのまま扉にぶつかり、扉についているベルがカラン、と乾いた音を立てた。
「あ、すみませんお邪魔でしたよね?」
虚空に向かって話しかけ…ってこれはもういい。
「え?」
このお嬢様が思わず手を離したスキに、1歩下がり、メニューを開きログアウト用意!
「この!」
振り返って私を掴もうとするが、バカめ!それは残像だ。
そしてボタンを押し終える。
足からポリゴンになっていく。
最後に見たのは、私の顔面に膝を入れるお嬢様だった。
扉に激突した時の音、募集してます。