71 ジェフリーとレオニーも一騎打ちでなければならない
「だからアドルフはレオニーのためなら何でもする。魔族だとかは関係ない」
「…… アドルフが魔族の女を愛しているのは分かった。では何故その前にエリザを愛さなかった?」
「言ったろう。アドルフはジェフリーに勝つためにエリザを手に入れたのだ。エリザがアドルフを愛したのなら考えなくもないが、エリザの心がジェフリーにある以上、アドルフがエリザを愛する理由はない」
「ほっ、ほう」
ジェフリーの剣を握る力が強まった。
「それを聞いて決心が固まったよ。愛してもいない女をつまらない勝ち負けのために奪う奴とは組めない。アドルフは倒すしかないな」
「ようやく意見が合致したな。アドルフとジェフリーは同じ舞台には決して立てない。おしゃべりが過ぎたようだ。次で決着をつける。どちらかが死ぬのだ」
アドルフはいったん後ろに下がり、助走をつけると大きく真上に振りかぶり、ジェフリーに向け、突進した。
「死ねええっ、ジェフリーッ」
ジェフリーは無言のまま両手で剣を構えていた。アドルフの強い剣撃をこともなげに受け止めるとアドルフの剣を撥ね飛ばし、返す刀でその心臓を貫いた。
「見ろ…… ジェフリーの方が全然強いじゃないか…… だから、アドルフはジェフリーのことが大嫌いなんだ……」
それを最期の言葉にアドルフは噴水のように血を噴き出し、どおという音と共に倒れた。
避けることなくその血を浴び続けたジェフリーは小さくつぶやいた。
「アドルフがジェフリーを本気で怒らすからだよ」
◇◇◇
「貴様ぁー」
その形相は鬼面と言うしかなかった。髪の毛は逆立ち、両目は真っ赤に充血し、口の両端はつり上がっている。
「よくもっ! よくもっ! アドルフ様をっ!」
叫びながらジェフリーに突進せんとするレオニー。それを制止したのはンマゾネスだった。
「おっと、レオニーの相手はンマゾネスだよ。にっくき人間と仲良くする女エルフだぞ」
更にアミリアが言う。
「いえ、アミリアでしょう。前回の戦闘でレオニーを倒したのはアミリアです。おまけにアミリアの死んだ実の兄リチャードは十字軍を率いて、魔族の本拠地を殲滅しています」
レオニーは鬼面の形相のまま怒鳴る。
「貴様らも憎いっ! だが、一番憎いのはアドルフ様を殺した貴様だっ!」
指差された先にはやはりジェフリーがいた。
「いや、レオニーの相手はンマゾネスだっ!」
「いえ、アミリアですっ!」
なおも声を張り上げるンマゾネスとアミリア。
それをジェフリーは静かに制した。
「二人ともありがとう。だが、アドルフを殺したのは他ならぬジェフリーだ。何度か戦って分かったが、魔族は怨念を力にしているところがある。ジェフリー自身が相手してやらにゃ、怨念も残っちまうんだろ」
「その通りだっ!」
「かかってこいっ! 相手してやる」
「ふんっ!」
レオニーは鬼面の形相のまま、気合いを入れ、右肘を真後ろに引いた。右手の平の前には火球が姿を現す。魔弾だ。
「今までより大きいじゃないか。それがレオニーの怨念か?」
「……」
その質問には答えず、レオニーは右腕を突き出したまま、左腕を真上に差し上げた。
「『姿なき海賊団』頭目ジェフリーとその一味に怨み、憎しみを抱きし、全ての者の念よ。我が力となれ」
最初はアドルフの遺体から、次にアトリ諸島の近海に沈むヒューゴーの骨から、そして、遠くガシェウの海底にあった奴隷商人たちの僅かに残った骨から光を発し、それはレオニーの右手の平の前の火球に吸い込まれていった。
そして、魔弾は元の三倍の大きさになったのである。
「ぬおっ!」
「死ねええっ、『姿なき海賊団』頭目ジェフリーッ!」
レオニーが右手の平を突き出すと魔弾はその大きさにもかかわらず、従前と変わらぬ速度でジェフリーに一直線に向かっていった。
「むんっ!」
両足に力を込め、両手でしっかりと持った剣で辛うじて受け止めるジェフリー。しかし、受け止めることが精一杯で撥ね返すまでにはいかない。
「受け止めおったが、だが、ジェフリーとその一味との戦いで命を落とした者はまだまだいる。出でよ。怨み、憎しみを抱きし、全ての者の念よ」
更にどこからともなく光が魔弾に集まる。
「くっ!」
ジェフリーは何とか受け止め続けるも、その圧力に押され、後ろに下がる。
「ジェフリーを怨み、憎しみを抱きし者の念はまだまだある。今は辛うじて受け止めているようだが、ジェフリーはじきに支えきれなくなり、魔弾にその身を貫かれて死ぬ。そして、その魂は地獄の業火に焼かれ、もだえ苦しむのだっ!」
◇◇◇
「うわあああっ、お頭っ!」
思わず声を上げるエンリコ。
「おっ、おいっ」
さすがのンマゾネスも青ざめる。
「大丈夫なのか? お頭は? 明らかに魔弾に押されているぞっ!」
それに対しアミリアは静かに微笑を浮かべて返す。
「大丈夫ですよ。ジェフリー兄さまは強いもの」
「いやでもどんどん後ずさりしてるぞ。お頭はっ!」
なおも懸念するンマゾネス。しかし、アミリアの微笑は変わらない。
「大丈夫なんです。ンマゾネスさん。確かにジェフリー兄さまを怨み、憎む念はある。但し、そういう念ばかりではない。ンマゾネスさん。前回の戦いであなたがヒューゴーを倒した時、殺されたエルフの仲間たちの念が後押ししてくれたでしょう」
「あ……」
ンマゾネスは思い出した。
「そう、ジェフリー兄さまを怨み、憎む念よりも、感謝し、応援する念の方が遙かに多いのです。死し者も、そして、アミリアたち、生きし者の念も」
アミリアは皆に呼びかける。
「だから、皆、応援の念を贈るのです。ジェフリー兄さまに」
オオーッ
声が上がる。
次回第四部完結第72話「今度こそ本物の二人の夜」




