表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/77

69 ジェフリーの感情は揺れ動く

「かくてホラン王国(貴国)海軍第二第三第四艦隊はイース王国(わが国)に降伏しました。残る第一艦隊、あなたたちにも降伏を勧告します」


 凜と言い放つエリザ。それに対し、レオニーは唇を噛む。

「どいつもこいつも魔族(デーモン)魔族(デーモン)と。魔族(デーモン)がそんなに悪いのか。我々、魔族(デーモン)が生まれたのも人間(ヒューマン)からではないか」


 エリザの冷静さは変わらない。

「レオニー殿下。そのお話はそちらが降伏すれば、ゆっくりとお聞かせ願いましょう。今聞きたいのはエリザ()からの降伏勧告を受諾するか否かです」


「馬鹿にするな。そのようなものは受けないっ!」


「よろしい。レオニー殿下の回答は承りました。そして、アドルフ。戦闘指揮官である、あなたの答えは?」


「……」

 アドルフは少し口ごもった。戦況が圧倒的不利なのは否定しようがない現実だ。しかし、すぐに口を開いた。

「降伏勧告は受けない。レオニー(最愛の女)の意思に従う」


「…… それが多くの兵士が命を失う選択でもですか?」


アドルフ(自分)レオニー(最愛の女)の意思に従う」


「やむを得ませんね。砲撃を再開してください」


 エリザの言葉にアダムは指示を出す。

「砲撃再開っ! 目標はホラン王国海軍のシップ二隻」


 ◇◇◇


 イース王国海軍からの砲撃再開に、ホラン王国海軍の将兵たちはアドルフに指示を求める。

「ご命令を」


 アドルフは少し考えた後、指示を出す。

「作戦変更っ! イース王国艦隊の砲撃に応射しつつ、島に接近。上陸して攻撃する」


「!」

 艦隊内に衝撃が走る。それは今まで回避してきた作戦ではないのか?


「事情が変わった。速やかに行動されたい」


 その言葉に、兵員たちは各部署に散る。


(イース王国艦隊と戦って突破する方法も考えたが、こちらにも少なからぬ損害が出る。

しかも、仮に突破出来たとしても、ホラン王国(わが国)の第二第三第四艦隊は既に捕獲されてしまっている。ここは島を占領し、島民を人質に取って交渉に持ち込む。狙いは島民の命と第二第三第四艦隊の交換だ。問題は……)。

 そこまで考えたアドルフはここで小さく息を吐く。

(ジェフリーの奴がそう簡単にさせてくれないだろうが)。


 ◇◇◇


「ようしっ! ホラン王国艦隊(あっち)の方から近づいてきやがった。待ってた甲斐があったぜっ!」

 歓声を上げるンマゾネス。


「これはジェフリー(お頭)とアミリア様が頑張ってくれたからですね。この後はンマゾネスさんとエンリコ()の出番です」

 笑みを浮かべるエンリコ。


 そんな中、横目でジェフリーの様子をうかがうアミリア。当初の思惑通りではなかったとはいえ、ホラン王国艦隊を島に近づけることに成功したのだ。喜んでいるかと思った。


 しかし、その時のジェフリーの顔は複雑な表情だった。喜んではいない。かといって悲しむ、悔しがるわけでもない。何とも言えない表情で事態を見守っていた。


 ◇◇◇


 アトリ諸島側にも大砲がある。


 それまではホラン王国艦隊をおびき寄せるため島からの砲撃は自粛していた。


 しかし、ホラン王国艦隊の方から近づいてくれるなら話は別だ。少しでも打撃を与えるべく砲撃する。


 もっともそれで沈んでくれるほど相手も甘くない。少なからぬ損傷をこうむりながらも、島の近くまで到着。


 大張り切りで突撃をかけんとするンマゾネスとそれについて行かんとするエンリコ。だが、今回は前回の戦闘とは明らかに様相が違っていた。 

 

 座礁しないギリギリのところに停泊した敵艦は後方から小銃で援護しながらゆっくりと上陸用舟艇を下ろす。


 足の負傷とかかまわずに艦から飛び降り、こちらに向かってきた前回とは違う。今回は敵方の兵員は魔族(デーモン)の精神的支配を受けていない。規律をもって、合理的な判断をしてくるのだ。


「待てっ! ンマゾネスッ! エンリコッ! 突撃するなっ!」

 ジェフリーが大声で止めにかかる。


「何でだっ? ジェフリー(お頭)っ?」

 当然のように不満を露わにするンマゾネス。


「すまん。事情が変わった。これから全員無理をするなっ! 遮蔽物に隠れて、安全な状況で敵を射撃しろっ!」

 

「えーっ、ンマゾネス()は敵将と一騎打ちがしたいぞっ! ジェフリー(お頭)っ!」


「すまん。しかし、こっちが耐えて、後方からイース王国艦隊が砲撃すれば、敵の兵員の数は削られてくる。そうなると敵将とも勝負しやすくなるはずだ。頼む。ここは引いてくれ」


「……」

 ンマゾネスはなおも不満そうだったが、エンリコになだめられながら引いてきた。


(これでいい)。

 ジェフリーは自分に言い聞かせた。

(何にしろイース王国艦隊が来てくれたのは大きな救いだ。こっちは無理をさせず、ホラン王国軍が近づいてきたら射撃する。敵は後方のイース王国艦隊にも対応しなければならないからこちらへの攻撃に集中できない。このまま耐えれば間違いなく勝てる)。


(だが……)。

 それでもジェフリーは落ち着かない。

(いいのか? 本当にそれでいいのか? くっそー)。


 改めて戦況を再確認する。イース王国艦隊はホラン王国艦隊を追跡し、なおも砲撃を続けている。ホラン王国の二隻のシップは砲撃の衝撃で揺れている。


そんな中でも艦から下りて上陸を試みる兵員たち。海に落ちる者、イース王国の艦からの砲撃、島からの射撃で死傷する者。


(ホラン王国側は、もう降伏した方がいい。こちらが冷静さを失わない限り勝ち目はない。だが、アドルフも魔族(デーモン)も絶対に降伏しまい。意地でもしまい)。

   

 自分の気持ちを抑え込みつつ、戦況を見守るジェフリー。次々死傷していく敵兵たち。



 ジェフリーはついに自らに拡声の魔法をかえ、怒鳴った。

「アドルフッ! 貴様っ、まさかこのままでいいと思ってるんじゃあるまいなっ? 一騎打ちをしようじゃねえかっ! とっとと出てこいっ!」


次回第70話「ジェフリーとアドルフ 一騎打ちでなければならない」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 一騎打ちキターーー!!!!(大歓喜)
[一言] ぉ!? 一騎打ちですね (*´▽`*) 個人的には両方頑張って欲しい所!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ