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フラれたショックで侯爵令息から海賊の頭目になったんだが ドタバタワイワイまあ楽しいのかもしれない  作者: 水渕成分


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60 フラーヴィアとエンリコ 二人だけの夜

「失礼した」

 貴族風の男は軽く頭を下げる。

「私の名前はブルーノ男爵。ジェフリー侯爵令息からすると、ブルーノ()は『アドルフ公爵の腰巾着』です」


「アドルフ公爵の……」

 サビーノは思う。

(これはサビーノ()の手におえる案件ではない。アダム男爵令息に相談しないと)


 そして、サビーノはブルーノの目を見て言う。

ブルーノ(あなた)が本当のことを言っているかどうか、サビーノ()には分かりません。しかし、相当に思い詰めた様子なのは分かる。かなりの大事なお話でしょう?」


「そのとおりです。このままではホラン王国もイース王国も滅びる」


「! 分かりました。そのような大事な話、このような直売店の店頭で話して良いものでもないでしょう。商館に部屋を取ります。そして、王宮の方に連絡を取らせていただく。ブルーノ男爵のお名前と『アドルフ公爵の腰巾着』という言葉を言ってもよろしいですか?」


「結構です。事態は切迫している。そして、この人相書も王宮に持って行ってください。ホラン王国を乗っ取り、イース王国を滅ぼそうとしている魔族(デーモン)です」


「これは……」

 人相書を見たサビーノの表情は凍った。

(これはアトリ諸島を襲撃し、エンリコ兄貴も戦ったという魔族(デーモン)じゃないのか)。


 ◇◇◇


 アトリ諸島に入港した「デ・マリ商会」の商船(キャラック)は大歓迎された。


 それまではフラーヴィアの家が兼ねていた「アトリ・デ・マリ商会」の社屋は「姿なき海賊団」頭目の館並みの大きさに新築された。


 それでも本家「デ・マリ商会」の社屋とは比べものにならないほど小さい。


 だが、特筆すべきは小さい社屋を取り囲むように建てられた倉庫群である。これは本家「デ・マリ商会」に匹敵するものがあった。


 来島した三十人の若者たちにはその意味がすぐ分かった。だから、社屋の小ささに失望する者は誰一人としていない。


 「アトリ・デ・マリ商会」当主に就任したフラーヴィアは式典で「まだまだこんなもんじゃないよっ! 面白そうな話はどんどん持ってきてっ! そして、ガンガン挑戦しよう」と挨拶をし、万雷の拍手を浴びた。


 次に来賓として挨拶した「アトリ諸島副王」のアミリアは「これからも力を合わせ、この諸島を発展させていきましょう」と言って、やはり拍手を浴びた。


 最後に来賓として挨拶した「姿なき海賊団」頭目のジェフリーは「ジェフリー()には金を稼ぐとかさっぱり分かんねえけど、まあ、島のみんなが楽しく過ごせればいいんじゃねえかと思ってる」と言って、苦笑交じりの拍手を浴びた。


 挨拶が終わると「宴」が始まる。人間(ヒューマン)もエルフもドワーフも、老いも若きも男も女も、飲み、食べ、歌い、踊り、そして、恋をする。


 この何とも不思議な島で、夜が更けるまで、いや、夜が更けても「宴」は続いていった。


 ◇◇◇


「ふいー」

 今日の主役、発足した「アトリ・デ・マリ商会」の当主フラーヴィアは新社屋の隣に新築した小さな自宅で一息ついた。


 今日の主役ではあるが、責任ある立場にもなった。明日からの取引もある。適当なところで中座させてもらった。


(さて、寝ようか)

 とも思ったが、神経が昂ぶって寝付けそうにない。


(時間がもったいないから財務諸表でも見直そうか)。

 そう思っていたところ、外から声がした。


フラーヴィア(お嬢様)―っ」


「! 誰かと思えばエンリコっ! あんたまさか夜這いに来たんじゃないでしょうね?」


フラーヴィア(お嬢様)がお望みならそっちに切り替えますが、ちょっと真剣にお話したいのです」


「仕事の話なら明日にしない? それに『お嬢様』はもうやめてよ。他の人の手前もあるし、『ご当主』と呼んでよ」


「仕事の話ではありません。なので『お嬢様』は止めますが『フラーヴィア様』と呼ばせていただいてよろしいですか?」


「…… どうやら本気ね。そう呼んでもいいわ。仕事の話でない以上、エンリコのことはエンリコと呼ぶよ。『執事』ではなくてね」


「ありがとうございます。家に入っても?」


「いいよ」


 ◇◇◇


 フラーヴィアの家の一室でフラーヴィアはエンリコと対峙した。


「で、エンリコ。真剣な話というのは?」


「お嬢様、いえ、フラーヴィア様。あなたはマスターオズヴァルドに『アトリ・デ・マリ商会』の当主に、そして、エンリコ(自分)は執事に任じられた。これは一人前と認められたということですよね」


「そうね」


「一人前と認められたので、フラーヴィア(あなた)に正式に申し込みます。結婚してください」


「……即答はしかねるね」


「理由をお聞きしても?」


「気持ちの整理がすぐにつかないんだ」


「無礼かもしれませんが、ひょっとしてジェフリー(お頭)への思いが残っていらっしゃる?」


「うん。人間の気持ちってのは、そう簡単に割り切れるもんじゃない。まるっきり残ってないって言ったら嘘になるよ。だけどもう親友のアミリアを押しのけてまでとは思ってはいないけど」


「そうですか」


「でもエンリコには本当に感謝している。エンリコがいなかったら、フラーヴィア()はこんなに早く『アトリ・デ・マリ商会』の当主にはなれなかった。それどころか魔族(デーモン)に精神的支配された海賊か海軍に殺されていたと思う。本当にありがとう」


「感謝の言葉ありがとうございます。しかし、エンリコ(自分)が望むのは仕事上の感謝ではなく、フラーヴィア様にとっての私生活でも必要としてほしいのです」






次回第61話「ンマゾネスの体験談は参考になるか」

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[一言] エンリコ頑張れ! 応援しているぞ☆彡
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