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フラれたショックで侯爵令息から海賊の頭目になったんだが ドタバタワイワイまあ楽しいのかもしれない  作者: 水渕成分


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56 少年と貴婦人の正体は?

 婦人の目は別の棚に陳列されたガラス製品に移る。

「え? え? え? この花瓶がこの値段。これなら貴族の城にあってもおかしくない品ではないですか?」


「こっちはアトリ諸島駐在のデ・マリ商会のエンリコさんがティガ郊外から連れてきたドワーフのみなさんが作ったものです。直売店で売っているものはまだ若いドワーフの方の作品だそうで。貴族や大商人向けにはベテランのドワーフの方が作った、もっと、高品質のものが商館の方で扱っているそうです」


「え? これより高品質の商品? 想像もつきませんね」


 直売店の最も奥の棚に陳列されていたのは金細工だった。


 貴婦人の目はその品々に釘付けになった。

「アダムッ! アダムッ! これ見てくださいっ! 何て綺麗。そして、これは可愛い。あ、これも可愛い」


 少女のようにはしゃぐ貴婦人を見て少年は思った。

(何て可愛らしい)。

 だが、すぐに首を振った。

(何てことを考えるんだ。あの方は自分とは比べものにならないくらい高貴な方だぞ。そのように考えることは不敬だ)。


 しかし、貴婦人ははしゃいだままだ。

「これとこれとこれも買って帰りたいですね。宮廷費の無駄遣いはいけないけれど、この値段なら……」


 ◇◇◇


 直売店の店長はサビーノ。エンリコと一緒にアトリ諸島に行った、昔からの仲間である。


 いそがしくも直売店の会計をしていた彼は店員の「店長、交代します」の声に一息吐いた。


 そして、気がついた。

「あっ」


 彼もまた商人である。礼儀はわきまえている。


 静かに少年に近づくと小声で言った。

「失礼ですがアダム男爵令息じゃありませんか?」


 ◇◇◇


 アダムとサビーノはアトリ諸島で面識がある。アダムは小さく頷き、やはり小さい声で返す。

「そうです。お久しぶりです。サビーノさん。でも今日のところは『お忍び』なものでおかまいなく」


「あら」

 しかし、テンションの上がっていた貴婦人は「お忍び」ということを忘れてしまっていた。

サビーノ(店長)さん。アダムとお知り合いなの?」


「はっ、はい」

 本来なら直売店ではなく商館に来るであろう貴婦人を見て、サビーノは緊張する。


「アダムがお世話になっております。私、エリザと申します」


「エッ、エッ、エリザって、まさか女王へい……モゴモゴモゴ」

 叫び声を上げそうになったサビーノをあわててアダムが口をふさぐ。

「サビーノさん、今日は『お忍び』なんですよ」


「はあはあはあ」

 息を整え直したサビーノ。

「そんな高貴な方を直売店でお迎えするわけにはいきませんよ」


「本来そうなんですけど、エリザ(陛下)がどうしても直売店の方を見たいと」


 サビーノは苦笑しながら言う。

「それでも商館の方に来てもらえませんか? 今日はアトリ諸島からエンリコ兄貴が来てくれているんですよ」


「エンリコさんが?」


 生まれる時の母親の胎内に「人見知り」という言葉を置いてきたと言われる男エンリコ。


 その人柄は多くの人を魅了する。アダムも例外ではない。


「エンリコさんなら会ってみたい。でも……」

 アダムはチラリとエリザの方を窺う。


 笑顔でこたえるエリザ。

「お会いしましょう。アダムが会いたい人ならエリザ()もお会いしたいです」


 ◇◇◇


「アダム男爵令息っ!」

 入室してきたアダムの顔を見るやいなやエンリコは弾けるような笑顔を見せた。


「エンリコさん。お久しぶりです」


「やあやあやあ」

 エンリコはアダムに駆け寄って抱きつく。

「アダム男爵令息。また背が伸びたんじゃないですか?」


「はい。ちょっと伸びました。エンリコさんは変わらないですね」


「はっはっはっ、それは言いっこなしですよ」

 エンリコは自らの低身長を笑い飛ばす。


 そしてエリザに気づく。

「おや、こちらの美しいご婦人は?」


 エリザは柔らかく微笑むと、軽く会釈する。

「初めまして。エリザといいます。エンリコさん。アダムがお世話になったそうで」


 さすがのエンリコも顔面蒼白になる。

「エリザ様って、女王陛下っ? こっ、こんなむさ苦しいところまでご足労いただけるとは。どうぞどうぞ。よろしければおかけいただければ」


「ありがとう。でも、エリザ()はこちらで買い物できて、とても楽しかったのです。むさ苦しいなんておっしゃらないでください」

 エリザはまた柔らかく微笑み、腰掛ける。アダムもその脇に座る。




「あっ、あのエンリコさん。一つ聞いてもいいかしら?」

 エリザが少しだけ声を潜める。


「はい。何でしょう? エンリコ()の答えられることであれば」


「あ、あの、さっき直売店の方を見せてもらったのですけど、『カカオパウダー』って売ってないのですか?」


「あ、はい。『カカオパウダー』ですね。実は直売店の方にも陳列しておいたのですが、飛ぶように売れてしまい、今は陳列してないんです。商館の方なら少し在庫が残っていますので、宜しければお譲りしますよ」


「そっ、そっ、それで、エンリコさん」


「はい」


「その、『カカオパウダー』って、『媚薬』だと聞いたのですが、その、効能はあるのですか? 意中の男性をその気にさせるような」








次回第57話「もう一つの高貴なる男女二人組」

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― 新着の感想 ―
[一言] >カカオパウダー ロマンあふれる商品ですね!
[一言] >「その、『カカオパウダー』って、『媚薬』だと聞いたのですが、その、効能はあるのですか? 意中の男性をその気にさせるような」 マジで!?(ガタッ)
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