54(第三部完)エリザもレオニーも諦めはしない
「あっ、あの、陛下」
アダムが声をかける。エリザの沈黙に気分を害してしまったかと懸念したらしい。
「あ、いや、何でもありません」
エリザは笑顔を見せてから、話題を変える。
「それでジェフリーたちがエリザに伝えたいと言ってきたというお話は?」
「あ、はい。まずはアトリ諸島の総意として、イース王国と事を構えたくない。友好的な傘下でありたいとのこと。そして、クローブ、ナツメグ、ガラス製品、カカオパウダー、金細工を輸出し、代わりに生活用品を輸入したいとのこと」
アダムの言葉にエリザはまたも考え込む。
(王宮の仕事を放り出して出奔したアミリアも問題だけど、ジェフリーはねえ。一回目はガレオン一隻強奪して出奔。二回目は衆人環視の状況でエリザの求愛を袖にして出奔。普通なら何らかの処分があって然るべきだけど……)。
ここでエリザは初めて口を開く。
「ジェフリーとアミリアがやったことは褒められたことではないけれど、イース王国の国益になることをしたのも事実。今までのことは不問に付し、交易を認めましょう」
「ありがとうございます」
アダムもほっとした表情を見せる。
「他にジェフリーとアミリア、それぞれの要請があると聞きましたが?」
「はっ、はい」
アダムは少し逡巡するが、書状を取り出す。
「申し訳ありません。女王陛下にはいささか不愉快な内容なのですが……」
エリザは少しこめかみをひくひくさせたが、了解した。
「かまいません。ジェフリーとアミリアのやることです。エリザも覚悟しています」
「で、では申し上げます。最初にジェフリー様の書状からそのまま読み上げます。『エリザへ。ジェフリーを王配にするのは勘弁してくれ。もう堅苦しいのは真っ平なんだ』」
ジェフリーの書状を読み終わり、エリザの顔を見たアダムは戦慄した。真っ赤になっていたのである。
「却下です」
「はあ」
「却下だと言ったのです。『王配任命拒絶要請』は却下であると書状でジェフリーに伝えなさい」
「はっ、はい」
「そして、アミリアは何を言ってきたのです?」
「アミリア様の方は、一点目はアミリア様とジェフリー様の婚姻を認めること。二点目はその上でジェフリー様を『アトリ副王』に任命することです」。
(『副王』。ほぼ王と同格の裁量権がほしいってわけですか。確かにアトリ諸島をどこの国の援助もなしにあれだけ豊かにしたんだから任した方がいいかもですね。ジェフリーもそうですがアミリアも)。
今度はエリザの回答は早かった。
「婚姻の件は却下。『副王』の件は検討の上、回答すると書状に認めてください」
「はい」
誰もいなくなった部屋でエリザは一人思う。
(今まではジェフリーの正確な居場所が分かりませんでしたが、分かった以上、もうエリザも黙っていませんよ。ふふふ)。
◇◇◇
マルク群島総督アドルフ公爵夫人のレオニーが突如昏倒したのはこれで三回目だった。
周囲の者は今まで同様寝室に運び込み、医師が呼ばれた。
医師は意識を失っている様子のレオニーを浮かない顔で診察し、同席したアドルフの方を振り返った。
「『過労』だとは思います」
「だとは思う?」
「もはや医師には正確な判断はしかねます。前回も前々回もそうでしたが、普通に要塞で生活していたのでは考えられない疲労なのです」
「……」
「それでいて回復が異様に早い。どう見ても医師の処方した薬ではこんなに早く回復しないのです。体のことを考え、効き目が穏やかで、副作用のない薬を処方しているのだから」
「……」
「この急速な回復は薬によるものではない。まるでどこか他のところから魔力を補充しているような……」
「もういい」
「いえ、申し上げます。その魔力の波動も普通の王族や貴族のものではない。はっきり申し上げて『邪悪』なもので……」
「もういいと言っているっ!」
「これだけは言わせてください。レオニーは普通の人間ではない。医師は人間でないものの診察加療に責任を持ちかねます。要塞の医師を辞職させていただきたい」
「辞職を許す。明日来る交易船に乗ってメレッカ港に行き、そこから帰国しろ。但し、このことを他言することは許さない。その時は地の果てまで追いかけて医師を殺す」
「脅しは不要です。医師の誇りに懸けて、このことは他言しない。今までお世話になりました。失礼します」
医師は静かに部屋の扉を閉じると立ち去った。
◇◇◇
いつの間にか座ったまま寝入ってしまったらしい。レオニーはまだ寝ているようだ。
アドルフは立ち上がるとレオニーの寝顔を見た。美しい。人間としか思えない。だけど……。
「レオニー、おまえは何者なんだ?」
アドルフは独りごちたつもりだったが、レオニーはゆっくりと目を開き、そして、話した。
「アドルフ様。レオニーは魔族です」
第三部 完
第三部はここで完結です。第四部は現在執筆中です。




