53 男を見せるかヘタレか
場に緊張が走る。
「姿なき海賊団」の男衆は思った。
(ここだ。ここが正念場だ。ガツンと言え。お頭。アミリアは自分と結婚すると)。
ンジャメナを長とする「アミリア様応援団」の女エルフたちは思った。
(やっと、やっと、アミリア様が報われる日が来たっ! お頭。行けーっ! ンマゾネスさんにハッキリ言うんだ)。
沈黙が支配する中、ジェフリーはゆっくりと口を開く。
「アミリアを嫁にしてはいけない理由。それはだ……」
◇◇◇
「アミリアは王女だからだっ! いつまでもこの島で海賊稼業なんて危険なことさせてられるかっ! 王女はもっと安全なところで暮らすべきなんだっ!」
ここまで早口で一気にまくしたてたジェフリーは、しゃべり終わって気が抜けたか、その場にへたりこんだ。
(ああもうっ!)
(そうじゃねえだろ。お頭)
(アミリアが何回も危険な目に遭っても、王宮に帰らない理由はわかりきってるじゃないかっ!)
(この真面目ヘタレがあっ!)
「姿なき海賊団」の男衆は大きく溜息を吐いた。
「アミリア様応援団」の女エルフたちはがっくりと膝をついた。
◇◇◇
「あーっはっはっは」
様子を見ていたンマゾネスが爆笑を始める。
周囲は唖然としてその姿を見つめるもンマゾネスの爆笑は止まらない。
「ははは、まあいい。アミリアを嫁にするのはやめておいてやる。だけど、ヘタレお頭を婿にするのもなしな」
「ふいー」
安心しきったジェフリーが大きく息を吐く。
(まったくもう)。
アミリアも内心ほっとしながらも溜息を吐いた。
(こうなったらこっちも意地です。アミリアは絶対王宮になんか帰りませんからね。ジェフリー兄さま)
◇◇◇
いかに現役の海軍大臣の長子の手引きがあったとはいえ、いとも簡単に魔族の精神的支配を許したことにイース王国第一艦隊兵員たちの衝撃は大きかった。
それでも早急にアトリ諸島で損傷した艦隊の応急修理を行った上でイースタンプトンに帰り、今後の対策を練った方がいいとのアダムの提言を受け入れた。
そして、アダムを臨時の司令官として帰途についたのである。
◇◇◇
「では、今回の首謀者ヒューゴーは魔族と共に死んだのですね?」
女王エリザの質問にアダムは頷く。
「はい。ですが、ジェフリー様とアミリア様のお話だと魔族と戦ったのは今回が三回目とのこと。今後も現れることが懸念されます」
エリザも頷く。
「それは大きな懸念です。海軍大臣。今回のことを十分に検証して、二度と魔族につけこまれない対策を立ててください」
「はあ」
しかし、海軍大臣クレア公爵の歯切れは悪い。
「今回の不祥事はクレア公爵の息子ヒューゴーがしでかしたもの。クレア公爵は責任をとって、海軍大臣を辞任し、爵位も次子のウォーレンに譲って、引退しようかと」
「それは許しません」
エリザの口調はいつになく厳しい。
「クレア公爵の息子が不祥事を起こしたのならなおのこと、今後このようなことが起きないような計画を作ってください。そしてクレア公爵の息子ウォーレンは確かに優秀です。しかし、いかんせん経験が足りない。これから二年、アダムと共にエリザの近習を務めさせます。その後に海軍大臣の辞任と引退を認めます」
「陛下」
クレア公爵は涙ぐんでいた。
「やります。やらせてください。二度と魔族なんぞにつけこまれない海軍にします」
「ありがとうございます」
エリザは微笑んだ。
「さて、次は『アトリ諸島』のことですが……」
◇◇◇
「アダムの報告だと、そのジェフリーとアミリアは、こっそり持ち帰ったクローブとナツメグの林を作ったばかりでなく、ガラス工房とカカオ豆の加工場も作り、あまつさえ六隻もの艦を持って、島を要塞化したと」
エリザは話しながら右手の平で額を押さえる。
「はい。更にティガ近郊で金細工を人間に買いたたかれているドワーフたちを島に呼んで、金細工工房も始めるそうです。何でもプップクプー港の近くに金鉱を見つけたそうで」
「はああああ」
エリザは大きな溜息を吐いた。
「ここまでやってくれたのですか? ジェフリーとアミリアは」
これにはアダムも苦笑するしかない。
「私見ですが、確かにジェフリーとアミリアの能力が高いのも事実ですが、とにかく人材が集まってくるのです。これはジェフリー様の人徳かと」
(そうなのよねえ)。
エリザは考え込む。
(だからこそジェフリーを我が夫、王配にしたい。あんな小さな島々、アトリ諸島であれだけの成果が上がるのだから、イース王国本土で手腕を発揮させたら、どれだけの成果が上がるのか、想像もつかない)。
次回第54話(第三部完)「エリザもレオニーも諦めはしない」




