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フラれたショックで侯爵令息から海賊の頭目になったんだが ドタバタワイワイまあ楽しいのかもしれない  作者: 水渕成分


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52 ンマゾネスは乗り換える

魔族(デーモン)の精神的支配は解けた。


 その後は定番だ。呆然としたまま、その場に立ちすくむイース王国第一艦隊兵員たち。


 どうやらンマゾネスたちが勝ったようだ、そう判断したンジャメナは近くにいたアダムに声をかける。

「アダムさん、ンマゾネス姉さんたちが魔族(デーモン)を倒して、第一艦隊の兵員たちの精神的支配が解けました。何が起こっているかさっぱり分からず混乱しているはずです。ここは女王陛下の近習のアダム(あなた)が落ち着かせてもらえませんか?」


 少し考えたアダムはやがて大きく頷き、自らに「拡声」の魔法をかけた。

「イース王国第一艦隊のみなさん」


 呼ばれた者たちはビクリとして声のした方を見つめる。


「私はアダム・ギムソン。エリザ女王陛下の近習です」


 ざわめく第一艦隊の兵員たち。


第一艦隊の兵員(あなた)たちは何故ここにいるのか、何が起こっていたのか、さっぱり分からないでしょう。それはイースタンプトン港から第一艦隊の兵員(あなた)たちが魔族(デーモン)の精神的支配を受けてきたからです」


 更に大きくなるざわめき。


「既に魔族(デーモン)は私たちの仲間の手によって倒されました。我々はもうイース王国臣民同士で戦う必要はないのです。ここには他のイース王国海軍の方もいます。武器をその場に置いて、艦から降りてきてください」


 ざわめきは止まらない。無理もない。直前の記憶は母港であるイースタンプトン港で訓練をしていた記憶だ。そもそもここがどこかも分からない。


 誰かが叫ぶ。

「ここは一体どこなんだっ?」


 アダムは淡々と答える。

「ここは『アトリ諸島』。『姿なき海賊団』の根拠地です」


「『姿なき海賊団』?」

「王宮から二回も出奔した侯爵令息が頭目やってるという」

「最低限のものしか取らない、逃げ足の速い海賊団」

「でも、奴隷商人を叩き潰したとも聞いたぞ」


 やがて一人の男が意を決したように艦から縄梯子(なわばしご)を下げ、艦から降り始める。


「おっ、おい。信用しちゃって大丈夫なのか?」


「ああ」

 縄梯子(なわばしご)を下げた男は静かに言う。

「あれは本物の女王陛下の近習、アダム・ギムソン男爵令息だ。俺は女王陛下の脇に控えているのを何度か見たことがある」


「言われてみれば俺も見たことがあるぞ」

「女王陛下の近習の言うことなら信じてみるか」


 第一艦隊の兵員たちは続々と艦から降りていった。


 ◇◇◇


 第一艦隊の兵員たちがほぼ艦から降り終わった頃、ゆっくりと最後方から姿を現したのはンマゾネスにアミリア、そして、エンリコである。


 今回の戦役の英雄たちの登場に周囲はざわめく。中央に立つンマゾネスが両側に立つアミリアとエンリコの腕を掴み、高々と差し上げる。


 どっと沸く観衆。まさに英雄たちの帰還だ。


「みんなっ!」

 

 ンマゾネスが声を張り上げる。更に歓声が大きくなる。


「この機会に言っておきたいことがあるっ! 私は強い奴が好きだっ!」


 一気に熱狂が鎮まる。まさか、この場でジェフリーとの結婚を宣言するつもりなのか? 緊迫感が強まる。


「私は強い奴が好きだっ! なので強い奴と結婚するっ! このアミリアを私の嫁にするっ!」


わーっ


 静かだった先ほどを何倍にも取り返しにかかるような声が飛び交う。


 そんな中、ンジャメナに声をかけるノア。

「なあ、ンジャメナ」


「何だ?」


ノア()ンジャメナ(おまえ)ンマゾネス(姉ちゃん)が凄いことは知っていたが、甘かった。『凄い』なんていう言葉で済むような方じゃねえなあ」


「ああ」

 ンジャメナは頷く。

「ンマゾネス姉さんとは、ンジャメナ()は百年、長老は百五十年の付き合いだが、未だに行動が予想の斜め上百メートルを行くんだ」


 ◇◇◇


「あっ、あああ、あの、ンマゾネスさん」

 やっとのことで声を絞り出すアミリア。


「何だ? 妻よ」


「あなたも私も女性ですよね」


「そんなことは問題ない。私は強い奴が好きだ」


「あっ、あああ、あの、ンマゾネスさん」

 またもやっと声を絞り出すアミリア。

ンマゾネス(あなた)はジェフリー兄さまと結婚したかったんじゃあ?」


「うむ」

 ンマゾネスは笑顔で頷く。

ジェフリー(あいつ)戦闘(ケンカ)が強いところが良かったが、やっぱ駄目だ。戦闘(ケンカ)強くても色恋沙汰はヘタレそのものだ。なので、アミリアを嫁にすることにしたっ!」


(こっ、これは駄目です。とりつく島がない……)

 アミリアはジェフリーを見つめ、そして、叫んだ。

「ジェフリー兄さまっ! 助けてくださいっ!」


 ◇◇◇


 ざわっ しんっ


 場は一瞬大きくざわめき、そして、静まる。


「「「「「お頭っ!」」」」」

 「姿なき海賊団」の男衆が一斉に声をかける。

「今こそ男を見せる時ですぜ」

「ここでやらなくてどうするんです」

「お頭、『ヘタレ』脱却の時が来ました」

「立てーっ! 立つんだっ! お頭―っ!」


 顔面冷や汗だらけのジェフリーがゆっくりと立ち上がると自らに「拡声」の魔法をかける。

「ンマゾネス」


「何だっ? お頭っ!」

 もはやンマゾネスは「拡声」の魔法はなくても地声でも通るくらいになっていた。


「アッ、アッ、アミリアを嫁にするのはやめてくれーっ!」


 ンマゾネスはうっすらと微笑を浮かべながら返す。

「ほう。アミリアを嫁にしてはいけないと。その理由は?」


 


 

 

次回第53話「男を見せるかヘタレか」

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