51 ンマゾネスにアミリア 恋のライバル同士のペアは強い
「なら、アダムが行きます。魔法も使えますし」
乗り出してくるアダムをアミリアは制す。
「ありがとう。アダム。でもね今回はどうしてもアミリアが行きたい。一つはさっきも言った王族としての責務。そして、もう一つは……」
アミリアはニヤリと笑い、ンマゾネスを見る。
「ジェフリー兄さまをめぐる恋敵に一人でいい格好させるわけにはいきませんからね」
「ぷっ、はっはっはっ」
ンマゾネスは大笑する。
「さすがだ。アミリア様。ジェフリーよりアミリアに惚れそうだわ」
最後に前に出たのはフラーヴィアだった。
「アミリア。フラーヴィアは魔法も使えないし。ついて行けるだけの身体能力もない。でも、せめて拳銃を持って行って」
「フラーヴィア。でも拳銃はマスターオズヴァルドからもらった大切なものじゃあ?」
今度はフラーヴィアがニヤリと笑う。
「ああ、拳銃はオズヴァルドからもらった大切なもの。だけどアミリアはもっと大切だから。持って行って」
アミリアは微笑む。
「ありがとう。フラーヴィア」
そして、アミリアは後方を振り向き、声をかける。
「では、みなさん。これから突破口を開きます。あの一点を集中射撃してください。構えーっ、撃てーっ!」
ズガガーン
敵の隊形が崩れる。
「よしっ! 行くぞっ! アミリア様っ!」
「はいっ」
ンマゾネスはアミリアを背負うと敵の隊形が崩れたところに突撃を開始する。
「あー待ってよーっ。ンマゾネスにアミリア―っ! 甲板ならエンリコも登れるよーっ」
小銃を持ったエンリコがついて行く。
ジェフリーは溜息を吐いた。
「頼りになる奴がたくさんいるってえのはありがてえことだが、ジェフリーがいなくても回るんじゃねえのか? この島」
◇◇◇
それは「鬼神」という言葉を現実に体現したようだった。
ンマゾネスが太い槍で敵兵を薙ぎ倒し、残敵はアミリアの拳銃とエンリコの小銃で掃討されていく。
もともとのンマゾネスの身体能力からして抜群だが、ヒューゴーに惨殺されたエルフたちの霊の無念の思いもその力になっているようだ。
力技で敵兵の群れをこじ開けて突入してくるンマゾネスたちにヒューゴーとレオニーは驚愕した。
「何だ? あのエルフは? くそっ、『麻痺』っ!」
ヒューゴーが魔法をかけて、その突入を止めようとする。
しかし、その突入速度は全く緩まず、ンマゾネスは気がついてもいないようだ。
「ばっ、馬鹿な。何故、ヒューゴーの『麻痺』魔法が効かんっ?」
そんなヒューゴーの叫びをアミリアは内心冷笑していた。
「笑わせないでください。そんな弱い『麻痺』魔法。エルフたちの霊に守られているンマゾネスさんに効くものですか」
続いてレオニーが右手の平を前に向けたまま、ゆっくりと右肘を引いた。魔弾を打ち出すポーズである。
レオニーの右手の平から撃ち出された魔弾は真っ直ぐ勢いよく、一直線にンマゾネスに向かって飛んでいく。
「むんっ」
ンマゾネスは持っていた太い槍を右方向に振りかぶると魔弾を真っ向から打ち返した。ジェフリー直伝の魔弾の打ち返しである。
打ち返された魔弾はレオニーに向かって飛んでいき、レオニーを庇い、第一艦隊の兵員は一度に十人を超える人数が倒された。
「化け物かっ? あのエルフは」
ヒューゴーのそんな叫びもアミリアは冷笑した。
(失礼な。ンマゾネスさんは化け物ではありません。『強い』エルフですよ。化け物はヒューゴーにレオニーの心です)。
◇◇◇
ついにはンマゾネスとアミリアはヒューゴーとレオニーの前に立った。
まだ第一艦隊の兵員はたくさん残っており、後方からンマゾネスたちを倒さんと襲いかかってきている。
しかし
「後ろからかかってくる兵員はエンリコが食い止めます。ンマゾネスとアミリアは思いを果たしてください」
そんなエンリコの言葉にンマゾネスとアミリアは頷く。
ンマゾネスはずいと前に出ると、ヒューゴーはレオニーを庇った。
「ほう」
ンマゾネスは感心したような声を出した。
「ヒューゴーのやってきたことは何を言われようが許せるものではない。しかし、最後の最後で魔族とはいえ、女を庇うたあ、少しは見直したぜ。そのことに免じて、一撃で葬ってやるわ」
渾身の力を込めたンマゾネスの正拳はヒューゴーの顔面に命中すると共にその頭骨を粉々に砕き、その中身を全て飛び出させた。ヒューゴーは首から上を失ったまま海に落ち、直前まで「人間」だったものは付近に居合わせた幸運な魚たちのごちそうになった。
◇◇◇
「ふうっ」
思いを果たしたンマゾネスはアミリアの肩を軽く叩いた。
「ンマゾネスの方は終わった。後はアミリアの番だ。後ろは任せろっ! 誰にも邪魔はさせない」
アミリアは頷き、ンマゾネスは後方でレオニーを守らんとする第一艦隊の兵員を一人で防いでいたエンリコのところに向かった。
「一人で戦わせて悪かったな。これからはンマゾネスも一緒に戦うからな」
「あざす」
エンリコはンマゾネスの言葉に頷いた。
アミリアは一人前に出る。
「我が名はアミリア オブ グランヴィル。イース王国前国王ヘンリーが第二王女にして、現国王エリザが異母妹。魔族。レオニーが導いた我がイース王国臣民同士の殺し合い。王族の一員として許せるものではありません」
「小娘がっ! アミリアなぞに魔族のレオニーの気持ちが分かってたまるかっ!」
「これ以上の会話は無用っ! 一刻も早く我がイース王国臣民同士の殺し合いを止めさせるっ!」
アミリアが放った拳銃の弾丸はレオニーの眉間を貫き、その体は四散した。
次回第52話「ンマゾネスは乗り換える」




