50 死んだ仲間の思いを背負いンマゾネス突撃 従うはアミリア
イース王国第一艦隊がアトリ諸島の大砲の射程距離内に入ると、ジェフリーの指令が下る。
「撃てっ!」
ズドドーン
最大射程だけにそうは当たらないが、それでも何発かは当たる。
それに対し、イース王国第一艦隊は応射もせず、散開もせず、ただ直進してくる。
(これは……)
ジェフリーは思うことがあったが、今は砲撃が優先だ。
「撃てっ!」
ズドドーン
何度か砲撃を繰り返すが、敵艦隊は応射も散開もしない。
(やはりか)
ジェフリーは得心する。
(前回のマルシェ海賊の時もそうだったが、今実質的に第一艦隊の指揮を執っているのは魔族なのだ。精神的支配する力は強いが戦闘指揮は素人だ。こちらに直進してくるしか戦術を知らないのだ。そうなれば……)。
「撃てっ! 砲身が焼けて撃てなくなるまで撃てっ! 敵の戦力を砲撃で削るんだっ!」
イース王国第一艦隊は砲撃で満身創痍になっていく。砲撃を受けた衝撃で艦が揺れると何人もの乗員が海に投げ出される。
それでも敵は直進を止めない。
(最後はやはり白兵戦か。きついな)。
ジェフリーは唇を噛んだ。
◇◇◇
「ジェフリー様」
「あっ、アダム。体力は戻ったのか?」
「アダムは若いんですよ。それにエルフの長老の飲ませてくれた薬草粥は凄い効き目です」
「そうか。正直、魔法の使えるアダムが来てくれると助かる」
「それにラ・レアルから脱出したイース王国海軍のみなさんも島の防衛に加わってくれることになりました。だけど……」
「だけど……何だ?」
「やはり魔族の精神的支配をされているとはいえ、同じイース王国海軍の者と戦うのは気が引けるところがあるそうです。何とか精神的支配を解けないのかと」
「気持ちは分かる。だが、精神的支配を解くには、魔法力を付加した武器で魔族を倒すしかねえ。しかも、精神的支配をされた奴は命を捨てて魔族を守ろうとする。倒すしかねえんだ」
「そうですか」
「犠牲を少なくするには一刻も早く魔族を倒すしかねえ。それには犠牲が出る」
「……分かりました」
アダムは真剣な表情で頷いた。
◇◇◇
イース王国第一艦隊のシップ一隻ガレオン五隻ともボロボロになりながらもアトリ諸島の港に到着した。
結局、第一艦隊は大砲を一度も撃たず、小銃も一度も撃たず、艦の甲板から島に次々飛び降りてきた。
高さは高い。飛び降りることによって足を負傷したらしき者も多い。しかし、気にすることなく突撃してくる。
更に島を守る人間の小銃射撃とエルフの弓矢の射撃で多くの者が倒される。それでも残った者は突撃を止めない。
倒れる者は数知れず。それでも一個艦隊が丸々攻撃しているのだ。兵員の数は多い。倒しても倒しても突撃してくる。
(くっ、魔族の奴め。戦術を知らないというのもあるが、味方のはずの第一艦隊の兵員の命を大事にする気は微塵もねえ)
ジェフリーは拳を握りしめた。レオニーに精神的支配され、戦死した魂が天獄に行った上で、最終的に溶かされ、レオニーの魔力になることなど知る由もなかった。
◇◇◇
「ジェフリーっ!」
戦況が拮抗する中、ンマゾネスがジェフリーに声をかける。
「ンマゾネスはこれからヒューゴーを倒しに行くぞっ!」
「ままま、待て待て待て」
さすがにあわてるジェフリー。
「だいぶ敵の数は削ったとはいえ、ヒューゴーは一番後方にいるだろう。無茶だ。そもそもどうやって敵艦の甲板に上がるんだ?」
「無茶じゃない。ンマゾネスなら敵兵を突破して、ヒューゴーのところに行ける。艦の甲板にも飛び上がれる」
「しかしそれでも相当危険だぞ」
「ジェフリーっ! 行かせてくれっ! さっきからずっと同じエルフの霊がンマゾネスに言ってきているのだ。無念の思いを晴らしてほしいと仇を取ってほしいとな。ンマゾネスはその思いに応えたいのだっ!」
「気持ちは分かるが……」
なおも躊躇するジェフリーを尻目にアミリアが前に出る。
「ンマゾネスさん。ヒューゴーは魔族に誑かされている。魔法力を付加した武器でないでないと効かないでしょう。アミリアも一緒に行きます」
「ばっ、ばばばっ、馬鹿言うなっ!」
ジェフリーは思わず大声を上げる。
「アミリア。何遍も言うが、おまえは王女だぞっ! 自覚を持てっ! 敵兵の溢れるところに突入する王女がどこにいるっ? ンマゾネスにはジェフリーがついて行くっ!」
「ジェフリー兄さまこそ自覚を持ってください。司令官が敵陣に突入してどうするんですか。それに、王女だから行くんですよ。アミリアは」
アミリアは微笑を浮かべながら言う。
「魔族とヒューゴーのせいで同じイース王国臣民同士が血みどろの殺し合いをしている。一刻も早く魔族とヒューゴーを倒し、この戦いを終わらせなければいけないんです」
「ンマゾネス姉さんっ! アミリア様。それならンジャメナたちも一緒に行きたいっ! エルフの無念の思いを晴らしたいっ!」
駆け寄るンジャメナたちエルフにンマゾネスは首を振る。
「気持ちは嬉しいぜ。だがこのンマゾネスの身体能力をもってしても、連れて行けるのは一人が限界だ。その一人は魔法が使える者でないといけないしな」
次回第51話「ンマゾネスにアミリア 恋のライバル同士のペアは強い」




