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フラれたショックで侯爵令息から海賊の頭目になったんだが ドタバタワイワイまあ楽しいのかもしれない  作者: 水渕成分


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47 最新鋭戦闘艦「シップ」出航す

 男の言葉にアダムは我に返る。

「これは失礼しました。私は女王陛下の近習を務めておりますギムソン男爵が子息アダムと言います。ただいま急用のできた海軍大臣のクレア卿に代わり、新造なった戦闘艦の最終検査をしていたところで」


「ふん。女王の近習だか何だかしらねえが偉そうにしてんじゃねえぞ。俺はその海軍大臣の子息ヒューゴーってもんだ」


(あ、この人が? でも何で港に来るのだ?)。

 アダムは内心の焦燥を隠しながら問うた。

「そのクレア卿のご子息が何のご用で港まで」


「海軍大臣の代理としてこの港にいる第一艦隊に出動命令を出しに来た。司令官はヒューゴー()が務める。任務はアトリ諸島に巣食う海賊の殲滅だ」


(そんな馬鹿な)。

 アダムには返すべき言葉が出てこない。

(海軍大臣は海軍の長だが、その息子に指揮命令権などはない。それにイース王国(我が国)の海軍は再建途上で国防で手一杯だ。海賊退治をしている余裕なんかない)。


 それでもアダムは言葉を絞り出す。

「にわかには信じがたい命令なのですが命令書を拝見出来ますか?」


アダム(てめえ)生意気だぞっ! ほれっ! 見ろっ!」


 ぶっきらぼうにヒューゴーが投げてよこした「命令書」。確かに海軍大臣のサインが書かれている。しかし……

「これは海軍大臣の自筆ではありませんね」


 ◇◇◇


「何だとっ! 無礼だぞっ! アダム(貴様)っ!」


「よく似せて書いてはありますが、女王陛下の近習を務めるアダム()には分かる。何十回となく陛下と共に海軍大臣の自筆は見てきましたからね。素人目には分からないくらい似てはいる。推測するに近親者であるヒューゴー(あなた)が書かれたものですね」


「あら坊や。可愛いだけじゃなくて賢いのね。見くびっていたわ」

 金髪碧眼の女が前に出る。もちろんレオニーである。

「では、これはどうかしら」

 レオニーの左眼が金色に光る。


(ぐっ)

 アダムは直感した。

(まるで吸い寄せられそうな瞳だ。だけど、あの眼を見てはいけない)


 アダムは気力を振り絞り、レオニーの眼の誘惑に耐えた。不意に脳裏にエリザの顔が浮かび、何故かそこからはレオニーの視線を回避できた。


(驚いた)。

 レオニーは心底そう思っていた。

(いかな貴族の子息とはいえ、我が魔眼に耐えるとは)。


「ふん。じゃあこれでどうだ? 『麻痺』」


「しまっ、体が動かないっ!」


「舐めんなよ。ヒューゴー()だって貴族の子息だ。少しは魔法が使えるんだぜ」


 アダムはその場に崩れ落ちた。


「さて、どうする? レオニー、アダム(このガキ)


「いくら可愛くてもこう生意気じゃねえ。アトリ諸島の近くの海にサメがたくさんいるところがあるそうだから、『麻痺』かけたままそこに放り込むのはどう?」


「そりゃいいな。そうしよう」


 ◇◇◇


「ジェフリー? 伝説の『失恋出奔オッサン』か?」


「そうそいつが海賊の頭目に収まったのはともかく、生意気にも奴隷商人を潰して、そこにいた女エルフを全部横取りしてくれたわけよ」


「そいつあ許せんなあ。ジェフリー(あいつ)は見るからにモテないオッサンだった。エリザ(今の女王)にフラれたのも然りだが、女エルフを独占して、モテない分の穴埋めたあ見苦しい」


「そうそう。女エルフはヒューゴー(あなた)がみんな奴隷にすればいい。だけど、レオニー()が恨みを持っているジェフリーとその一味は皆殺しにする」


「おうよ。ヒューゴー()は奴隷に出来る女エルフさえ手に入ればいいんだ。後はレオニー(おまえ)の好きにすればいい。天下のイース王国第一艦隊を魔眼の力で精神的支配したのはレオニー(おまえ)だからな」


 その頃、エリザ女王の命で、海軍大臣クレア公爵は次子ウォーレンの案内で居城を調査した。そして、その多くが既に白骨化したエルフの遺体を十体発見した。


耐えがたい衝撃を受けているクレア公爵をよそに、嫡子ヒューゴーはレオニーが精神的支配下に置いたイース王国第一艦隊を率いて、既にアトリ諸島に向かう行程の半分まで来ていた。


艦隊旗艦は最新鋭戦闘艦「シップ」である。


◇◇◇


「申し訳ございませぬ。我が子ウォーレンの申し上げたことは全て事実であることが検証されました」

 海軍大臣クレア公爵はイース国王エリザの前で深々と頭を下げたまま上げられなくなった。脇にいる次子ウォーレンもである。

「更に申し訳ないことにご禁制の奴隷購入及びその殺害を行ったと思われる愚息ヒューゴーの行方は杳として知れず……」


「頭を上げてください。クレア卿」

 そう言いながら女王エリザの顔にも暗い影が差している。

「気の毒な話ですが、もう一つお伝えしなければならない良くないお話があります。衛兵隊長」


「はっ」

 エリザの命で衛兵隊長は前に出る。

クレア公爵(海軍卿)。大変厳しい事実をお伝えせねばなりません。ご子息ヒューゴー殿は海軍大臣名の命令書を持って第一艦隊を動かし、海賊の根拠地とされるアトリ諸島を攻撃に向かった模様です」


「なっ」

 クレア公爵の顔から血の気が失せる。

「わっ、わっ、私はっ、そのような命令書は断じて出してはおりませぬぞっ!」


 エリザは静かに返す。

「おっしゃるとおり、その命令書は偽作です。イースタンプトン港に放り出されていたものを衛兵が持ち帰ってくれました。エリザ()にはすぐ分かりました。サインは似せてありましたが偽物です。恐らくヒューゴーが書いたもの」





 

次回第48話「アダムはジェフリーの大事な友達」

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