43 恋のライバル三人目
「ンジャメナッ、危ないっ!」
ノアの声が飛ぶ。
レオニーが魔弾で狙ったのは夢中になって自分の姉ンマゾネスの説得を続けていたンジャメナだった。
ノアの声にあわてて振り向くンジャメナだったが、魔弾は至近の距離まで迫っていた。
ガキッ
素早い動きを見せたジェフリーが両手で持った太い矢で魔弾を打ち返す。
魔法力を付加された矢だったが、さすがにその衝撃でバラバラに砕け散った。
「ジェフリーっ、すっ、すみません」
頭を下げるンジャメナにジェフリーは笑顔を見せる。
「気にすんな。矢は粉々に砕けちまったが、ンジャメナの姉ちゃんがポンポン矢を撃ち込んできたおかげで即席の武器には事欠かねえ。まあ次は気をつけてくんな」
そう言うが早いかジェフリーは次の矢を引き抜くと魔法力を付加し、また戦場に飛び込んでいった。
◇◇◇
「ンジャメナ」
「わっ、びっくりした。ンマゾネス姉さんいつの間に出てきたんですか?」
ンジャメナはぽっちゃり型でアトリ諸島にいるエルフの中では一番体格がいい。しかし、ンマゾネスは更にその二回りは体が大きく、おまけに筋肉質だった。
「ンジャメナが人間にその身を守られてからだ。あの人間たち、本当にいい奴だったんだな」
「だから何遍もそう言ってたじゃないですか」
「となるとだ、ぶちのめすべきなのは、あの魔族と怨霊どもか」
そう言いながらンマゾネスは刺さった矢を引き抜く。
「ちょっと待ってください。ンマゾネス姉さん。相手は魔族と怨霊ですよ。普通の武器じゃ倒せません」
「何を言うか。ジェフリーとノア、さっきから怨霊どもぶちのめてるじゃないかっ!」
「それは矢に魔法力を付加してるからですよ」
「何! ンジャメナッ、ンマゾネスの武器にも魔法力をすぐに付加しろっ! ジェフリーの戦いっぷり見てると血が騒いでしょうがないんだっ!」
「私たちエルフは魔力は感知できても、魔法力はないでしょう。仕方ないですね。アミリア様」
「え? どうしたのンジャメナさん。あ、こちらの体の大きなエルフさんは?」
「ンマゾネス姉さんです。やっと森から出てきてくれたのですよ」
「そう。それは良かった」
「! @&%!! #*+=~!!!」
「えーと。お姉さん、何か言ってますね。『翻訳』」
「人間―っ! とっととこのンマゾネスの武器に魔法力を付加しろっ!」
「はっ、はあ」
「もういてもたってもいられないんだ。早く早くっ!」
「はい」
アミリアはンマゾネスの持つ矢に魔法力を付加する。
「おおっ、いいねえいいねえ。力が付与されたのが分かるぜ。行っくぜいっ!」
ンマゾネスはかけ声と共に戦場に飛び込むとジェフリーに声をかけた。
「おうっ、そこの人間。あんたなかなか強えじゃないかっ! ンマゾネスは強え奴が大好きなんだ」
「は、はあ、それはどうもありがとうございます」
ジェフリーはあまり考えずに礼を言った。この後起こることについては想像のしようがなかったのである。
◇◇◇
「なっ、何だ? あのエルフはっ?」
レオニーに焦燥感が走る。
ジェフリー・ノア対怨霊群で拮抗していた戦況がンマゾネスの参戦でレオニー側に大きく劣勢に傾いたからだ。
女だてらに魔法力を付加された太い矢を振り回すンマゾネスに鋭い視線を向けるレオニー。
「捨て置けんな。我ら『魔族』がこの世界を支配するためには『人間』と『亜人』の連携は許すわけにはいかぬ。死んでもらおうか」
レオニーはゆっくりと右肘を引くとその右手の平から渾身の魔弾を放った。
◇◇◇
「むんっ!」
ンマゾネスは両手で太い矢をしっかりと持ち、魔弾を受け止めた。
しかし、レオニーが渾身の力を込めて放った魔弾はンマゾネスの力をもってしても撥ね返すことは困難だった。ンマゾネスは徐々に徐々に押されていく。
(これはいかんな。頑張っているのは分かるが、これではいずれ魔弾の力に押しつぶされちまう)。
ジェフリーは周りに叫ぶ。
「アミリアッ、ンジャメナッ、出来るだけ横方向に逃げろっ! ンマゾネスッ! 太い矢を少しずつ右にずらして魔弾の力を逃がせっ!」
「何? そうするとそっちに魔弾が飛んでいくぞ。ジェフリーッ!」
「かまわんっ! そのままでは支え切れんぞっ! ジェフリーのところに飛ばせっ!」
「分かったっ! すまんが頼むぞ人間ッ!」
ンマゾネスが指示通り太い矢を右にずらすと、魔弾はンマゾネスの左後方にいるジェフリーのところに飛んでいく。
「おおりゃあっ!」
ジェフリーは思い切り太い矢を後方に振ってから、フルスイングで魔弾にぶつけた。
「なっ」
レオニーは青ざめる。撥ね返された魔弾は真っ直ぐレオニーに向かっていったのだ。
「ぐっぐわあああ」
レオニーの体は悲鳴と共に四散した。
そして、マルク群島の要塞内でアドルフ公爵の夫人であるレオニーも二度目の昏倒をしたのである。
◇◇◇
レオニーの四散とともに怨霊たちの土の体は全て崩れ去った。
「ふうっ」
息を吐くジェフリーに飛びついたのはンマゾネスである。
「ジェフリーっ! ジェフリーっ! 凄いなっ! 強いなっ!」
「はっはあどうも」
ジェフリーは抱きつかれまま他人事のように礼を言う。しかし、ンマゾネスの勢いは止まらない。
「ンマゾネスはジェフリーのような強い奴が大好きなのだっ! 決めたっ! ジェフリーをンマゾネスの婿にするぞっ!」
次回第44話「三番目のライバルが最強か」




